輸送船潜入ミッションは続く
クリムゾンラプターの捕まっている輸送船に侵入成功。船の端末からノイジーも入ることができたようだ。本格的に調査を開始しよう。ここからは俺と腕の端末のノイジーだけで進む。
「前方から誰か来ます。ライフルを所持。財閥の特殊部隊でしょう」
早速端末から声がした。急いで周囲を見る。いくつか部屋があるな。ホログラムマップによると個室だ。
「この部屋を開けろ。待ち伏せする」
「了解」
部屋に隠れ、通り過ぎるのを待ってから狙撃する。
「げうっ!?」
見事脳天にヒット。倒れる前に掴んで、開いた部屋に蹴り飛ばす。
「ロック」
「完了です」
「ふっふっふ……これやってみたかった!」
「どれですか?」
「敵を背後から攻撃してゴミ箱とかにぶち込むアクション。暗殺とかスパイ系のゲームでよくあるんだよ。いやーまさか自分でやるチャンスがやってくるとは……なんかテンション上がるなあ!」
スタイリッシュでいいよねあれ。やってみると暗殺者になったような気がして面白い。こういう日常のスパイスが異世界さんを楽しくするのだ。
「ささやかな夢がかなってよかったですね、オーナー」
「まったくだ。探索続行するぞ」
一応慎重に、足音を消すように進む。敵がどこにいるかわからんので、緊張感を持っていこう。まずはクルーを見つけて話を聞かなくては。
「クルー5人はブリッジに集められています。少数が逃げた模様」
「そいつらを追うぞ」
休憩室を見つけた。そっと扉を開けると、そこは広く涼しい。テーブルにクルーっぽい制服の男がいる。コーヒー飲んでいるし、意外と余裕あるなこいつ。
「だ、誰だお前!?」
「誰でもいい。この船で何が起きているか説明しろ」
「お前たちに教えることなんか何もない!」
銃を見せつけておけば話が早いかと思ったが、なんか抵抗しそうだ。誤解を解くべきかも知れない。
「待て、俺は敵じゃない。ラプターを守りたいんだ」
「ラプターを? あんた誰なんだよ? どうやってこの船に来た?」
「特殊部隊とは無関係だ。あとはいいだろ。それより……」
銃声が聞こえた。同時に獰猛な叫びと、何かがぶつかるような音がする。
「始まったか」
「何をした?」
「あいつらの言いなりになるくらいならと思ってね。ラプターを檻から解放してやったんだ。あんたも油断すると死ぬぜ」
最悪だ。いくら俺でも無傷で捕獲できる気がしない。少し嫌な展開になってきたぞ。なんとか情報を引き出そう。
「ラプターをどうやって連れてきた? おとなしくさせる方法があるのか?」
「その場にいたわけじゃないが、麻酔銃でもぶち込んだんだろ。檻の中じゃ涼しくしとけば静かだったぜ」
「なるほど、ちょっときついな」
麻酔銃そのものはある。だが効くのかわからん。どのくらいの量なら眠るのか。まず寝かせても運べないぞ。思考が止まる前に、外の騒ぎが聞こえなくなる。
「誰だか知らねえが気をつけな。あいつらは入口が狭ければ入ってこない。ここみたいに冷房が効いてりゃ、長居はしない」
「そうかい。アドバイス感謝しよう」
休憩室から出て廊下を見ると、ズタボロになった兵士が2人死んでいる。ラプターは爪も牙も鋭いようだ。引きちぎれているパーツもあるので、力も凄いのだろう。あまり出会いたくはないな。
「付近に反応無し。オーナーの意向に沿ってナビゲートします」
「個別に動いている特殊部隊を殺す。船の進路は?」
「変更されたままです。戻すには数時間以内が最適でしょう」
「いいね。制限時間付きのミッションか」
船のマップを見ながら動く。3階建ての構造らしいな。今いるのは2階で、ブリッジが3階。ラプターの檻と格納庫があるのが1階か。
「前方の曲がり角に特殊部隊2。ラプターから逃げてきた模様」
「煙幕弾を使う」
足音を聞きながら姿を確認。特殊部隊だ。近くなったら投擲。そのまま曲がり角に逃げる。
「なんだ!?」
「逃げた連中か! 出てこい!」
銃を乱射しながらこちらに来る。だが足取りは重いようだ。反撃を想定していなかったのかも知れない。視界が煙で塞がれたまま、どう出るのか確かめようとしたその時、さらに奥から咆哮が響いた。
「グオオオアアアアアア!!」
「しまった、追いつかれたぞ!」
「くそっ、走り抜けろ! 視界を確保して、うがあぁ!?」
1人食われたな。銃声とともに叫び声が聞こえた。もう1人は息を潜めてこちらに来る。俺はゆっくりと距離を取り、存在を気づかれないように銃を構えた。
「ぎゃああぁ!?」
「声が違う。追加で食われた?」
特殊部隊なのに食われるのが早すぎる。嫌な予感がする。とっさに走り出すと、何かが音を立ててこちらに来る。
「走ってください。味見では済まなそうですよ」
「最悪だよ!」
さらに煙幕をばらまいて逃げるが、どんどん距離が詰まっている感覚がある。
「次の角を右に、一番近い部屋を開けます」
「うおおおぉぉ!」
なんとか駆け込んで逃げ切った。扉をガンガン叩く音がするが、今はただ距離を取るだけだ。
「煙と銃撃の中で、なんであんな正確にこっちに来るんだよ」
「複数の目の中に、体温を感知するものがあるはずです」
「そういやそんな説明聞いたな」
音がしなくなった。諦めたのか、それとも陣取って待っているのか。しばらく出られそうもないな。疲れが取れたら行動再開だ。
「ここからどうやって出る?」
「反対側から通路に出られます」
そこまで計算してんのか。さすがAI。今いる倉庫を抜けて、安全な通路を歩く。どこも似た作りだな。鋼の船は白を基調としていて、なんか病院みたいな感じだ。同じ宇宙船でもうちとは違うな。
「エレベーターには敵がいます。左の非常口ならノーマークでしょう」
「開かないぞ?」
「アナログ式ですね。こちらからはどうにもできませんが」
「壊しゃいいんだろ」
小型のビームソードを持ってきている。ビームの刃を出して、鍵を切断して入る。中ははしごと薄暗い通路があった。
「とりあえず3階だな」
非常口のはしごを一気に駆け上がり、3階の通路に出る。息が少し上がっていた。まだやれるはずだ。ヨガとストレッチの効果をなめんなよ。
「まずはブリッジの集団を潰して航路を戻す」
「素晴らしい判断です。頭が回るくらい体力が残っているのは成長ですよ」
「だといいがね」
足音を殺して廊下を進む。白い壁に赤い血痕が飛び散っていた。ラプターが通り過ぎた証拠だ。空気が生臭い。人間は死んでも不快にさせてきやがる。
「通路の先に敵兵2」
「ほいほい」
ビームガンをホーミングモードにして、曲がり角から乱射する。
「うげえ!?」
「がぶあ!?」
よしヒット。なんか逃げてきた雰囲気だったな。適当な部屋に突っ込んでロックを掛けておく。ゆっくり血しぶきと死体のある通路を歩くと、両開きの大きな扉の前に来た。
「はい変な音がしています。うーわ帰りてえ」
ブリッジで銃声と何か硬いものがぶつかる音が響いている。扉を開けたくない。中から獰猛な咆哮が聞こえた。
「グオオオオオ!!」
「うわああああ! やめろ!」
特殊部隊の男が血まみれで飛び出してきた。右腕がなくなっている。
「来るな! 化け物が!」
部屋から赤い影が飛び出した。クリムゾンラプターだ。6つの赤い目が妖しく光り、長い牙を剥き出しにして男の背中に飛びかかる。男の胴体が縦に引き裂かれた。さらに部屋の中から獣の声が響く。最悪だ2匹いるぞ。
「撤退!」
ブリッジがどうなっているかくらい想像がつく。急いで戻るしかない。
「ゴアアアア!!」
全力ダッシュで今来た道を戻る。1匹がこちらへ突っ込んでくるのがわかった。
「ノイジー、隔壁を閉じろ! あいつらを閉じ込める!」
「了解。できるだけ距離を取ってください」
「無茶を言いおる!」
この世界に来てから初めての全力ダッシュだ。死ぬ気で走って非常口へ飛び込むと、ラプターが扉に豪快にぶつかって止まった。
「ガアアアアア!!」
「悪いな、お前と殺し合いはごめんだ」
はしごをするすると降りていく。とりあえず1階の扉まで来てしゃがみこむ。
「おめでとうございます。1匹を非常口のエリアに隔離できましたね。走りも過去最高のタイムでしたよ」
「はあ……はあ……しんど……しんどい……ダッシュがしんどい」
おっさんにダッシュさせんな。こんな本気で走ったのはいつぶりだろう。扉を開ける前に、座り込んで休憩することにした。上ではまだラプターの咆哮が聞こえるが、こちらまで降りてくるには広さが足りない。
「あーくそ……体がもたねえ……」
「それにしても素晴らしい動物愛護の精神ですね。あれだけのピンチになっても撃たないとは」
「アホ、急所がわからんのに立ち止まって撃てるか。即死させなきゃこっちが大怪我するわ。俺はなるべく安定を取るの」
「なるほど、まだオーナーの心を理解しきれていないとは不覚。会話の時間を増やすことを提案いたします」
「帰ったらな。ビームバリアってあの牙とか爪を防げるか?」
「試したことはありませんが、おそらく可能です」
俺の服のバリア装置も、それなりの効果は発揮する。少なくともビーム兵器や銃弾から爆破まで完全に防御してくれる。だがラプターで実験するつもりはない。俺は安定チャートで異世界を遊ぶのだ。じゃあ潜入ミッションすんなとかは言ってはいけない。そこはもう楽しそうだったんだもの。
「はあぁ……よし、少し歩こう」
10分ほど休憩して、非常口を出て1階を歩く。壁や床の損傷が激しい場所もあるな。檻があったらしいから当然か。しばらく何も起きないように祈りながら、探索を再開するのであった。




