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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う  作者: 水源
寛文2年(1662年)

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四宿の一つ品川の公許遊郭化の許可が出たぜ

 さて。


 衣替えも無事に終わり、余った綿で作った兎のぬいぐるみは、清花にすっかり気に入られた。


 最近では、どこへ行くにも抱きかかえている。


 そんな、ある日のことだった。


「戒斗様」


 桃香に呼び止められる。


「どうした?」


「水戸の若様が、戒斗様とお話をしたいそうでありんす」


「……水戸の若様が?」


 何かあったのだろうか。


「わかった。今行くぜ」


 俺は桃香とともに揚屋へ向かった。


 二代目藤乃が使っている部屋へ案内され、座敷の前で足を止める。


「三河屋楼主、戒斗。失礼いたします」


 すっと障子を開けた。


「うむ。楼主よ、久方ぶりであるな」


 座敷では、水戸の若様が機嫌よく食事をしていた。


「それにしても――」


 若様が箸を止める。


「この鮭の衣焼(ムニエル)は、誠に美味であるぞ」


「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。


「しかし、もう鮭が手に入りにくい季節であろう? どうやって用意したのだ?」


「正月過ぎに出回っていた新巻鮭を、三河屋の氷室で保存しておりました」


「ほう。なるほど」


 若様は感心したように頷いた。


 現代では、鮭といえば一年中食べられる魚だ。


 養殖技術が発達し、冷蔵も冷凍も簡単。


 朝食にも弁当にも、おにぎりにも入っている。


 だが、この時代は違う。


 鮭は基本的に秋から冬の魚であり、江戸では庶民が気軽に食べられるようなものではない。


 保存用としては干鮭が多く、新巻鮭は正月の武家への贈答品としても重宝される高級品だった。


 つまり――。


 現代では「美味しいけど普通の魚」。


 江戸では「なかなか口に入らない高級魚」。


 鮭に対するイメージは、まるで違うのだ。


 だからこそ、氷室に保存しておいた鮭は、こういう時に役に立つ。


「さて」


 若様が、ふっと表情を改めた。


 どうやら、本題はここかららしい。


「今回、お前に伝えようと思ったことがある」


「はい」


「以前、お前が提案してきた件だ」


 ……提案?


 一瞬考えて。


 すぐに思い出した。


「品川のことでしょうか」


「うむ」


 水戸の若様は頷いた。


「品川を、吉原と同じように公許の遊郭とする。そして、お前を監督役とするという話だ」


「はい」


 俺は思わず背筋を伸ばした。


「結果はいかがなりましたでしょうか」


「お前の案を採用することに決まった」


「――!」


 来た。


「明暦の大火後、江戸は以前より大きく広がっている」


 若様は静かに続ける。


「ならば、北の吉原と南の品川。公許遊郭を分けたほうが、結果として江戸の治安維持にも役立つとの判断である」


「ありがとうございます」


 思わず、深く頭を下げた。


 これは大きい。


 品川は宿場町でもあり、人の出入りが非常に多い。


 そして、人が集まる場所には必ず商売が生まれる。


 禁止したところで、すべてを取り締まれるわけではない。


 江戸幕府は、決して万能ではないのだ。


 治安維持にあたる人間の数にも限りがある。


 厳しく禁止しても、取り締まりきれなければ、結局は黙認という形になってしまう。


 だったら――。


 最初から管理できる形にしたほうがいい。


「正式な認可については、後日、勘定奉行の方から告げられるであろう」


「はい」


「これで、品川の管理もしやすくなるかと思います」


 俺はそう答えた。


 そして、心の中で続きを付け加える。


 管理しやすくなるということは――。


 俺にとっても、改善しやすくなるということだ。


 品川には飯盛女がいる。


 水茶屋には茶女もいる。


 彼女たちの待遇や生活環境を、少しでも改善できる可能性が生まれる。


 幕府にとっても悪くない。


 公許にすれば冥加金が入る。


 無秩序に広がるよりも、人の流れを把握しやすくなる。


 俺にとっても、幕府にとっても利点がある。


「うむ。そうあってほしいものだ」


「本当にありがとうございます」


 もう一度、俺は頭を下げた。


「うむ。今後もうまくやってくれ」


「お任せください」


 こうして――。


 吉原に続き、品川にも新たな変化が訪れることになった。


 もっとも。


 公許遊郭を作ったからといって、江戸中から岡場所がなくなるわけではないだろう。


 人がいる。


 金が動く。


 需要がある。


 そうなれば、幕府の目の届かない場所で新しい店が生まれるのは、ある意味では仕方がない。


 だが。


 少なくとも、手を伸ばせる場所にいる者たちくらいは――。


 俺のやり方で、少しでもマシな場所に変えていきたい。


 さて。


 品川を任されるとなれば、次に考えるべきことは山ほどある。


 まずは――。


 誰を、どう動かすかだな。

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