衣替えで余った綿を使っていろいろぬいぐるみなんかを作ってみるか。
さて、衣替えで綿入れから綿を抜いたおかげで、今の俺の手元には綿がかなり余っている。
本来なら、秋まで大事に取っておくところだ。
何しろこの時代、綿は決して安くない。
新しく買えば、それなりの出費になるからな。
とはいえ――。
以前のえびす講で、余った布と綿を使ってフクロウを作ったこともある。
「また何か作ってみるか」
そんなことを考えていると。
「とーしゃー」
清花が、何かを引っ張りながらやってきた。
「ん?」
見ると、それはお気に入りの犬のおもちゃだった。
木で犬っぽい形を作り、簡単な車輪を付けて、紐で引っ張って遊べるようにしたものだ。
だが――。
「わんわー、うごかなー」
「ありゃ?」
よく見ると、車輪が一つ壊れている。
「車輪が壊れたか」
「こわれた?」
「ああ。どうしても木で作ったものだからな」
「やー……」
説明した途端、清花の顔がみるみる曇っていく。
「あ……」
そして、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
「わんわー……」
「お、おい。そんなに悲しいか?」
どうやら相当気に入っていたらしい。
俺は慌てて清花の頭を撫でる。
「分かった、分かった。ちょっと待ってろ」
「……?」
「代わりになるものを作ってやる」
「わんわー?」
「ああ。今度は車輪のないものだ」
「あい!」
途端に清花の顔が明るくなった。
……切り替えが早いな。
まあ、泣かれるよりずっといい。
それに、ちょうど材料は余っている。
「よし。犬のぬいぐるみでも作ってみるか」
ぬいぐるみ。
現代では当たり前の玩具だが、この時代にはかなり珍しい。
木や紙、土などで作った人形はあっても、布と綿を使って動物の形にする玩具は、それだけでかなり贅沢な品だろう。
しかし、今回は余り物だ。
使えるなら使ってしまえばいい。
俺は紙を広げ、まず犬の絵を描く。
そこから頭、胴体、足、耳、尻尾に分けて型紙を作っていく。
「こんな感じか」
実際に型紙を合わせてみる。
うん。
多少いびつだが、犬には見える。
たぶん。
型紙に合わせて白い布を切り、縫い合わせていく。
形ができてきたところで、隙間から綿を詰める。
ふわふわしているだけでは形が崩れるので、しっかり押し込んでいく。
最後に黒い布で目と鼻を作れば――。
「よし、完成」
俺は出来上がった犬を清花へ渡した。
「取りあえず、ワンコだ」
「わんわー!」
清花の顔がぱっと明るくなった。
犬のぬいぐるみを受け取ると、ぎゅっと抱きしめる。
「わんわー!」
「気に入ったか?」
「あい!」
何度も頷いている。
「……よかったな」
作った甲斐があったというものだ。
「じゃあ、他にも作ってみるか?」
「ほかー?」
「ああ。他の動物も作れるぞ」
「やったー!」
せっかくだ。
余った布を使って、いくつか作ってみる。
茶色の布では猪と熊。
黄色っぽい布では狐。
そうやって増やしていくと――。
「わーい!」
清花の前には、犬、猪、熊、狐の四匹が並んだ。
「しししゃん!」
猪を抱き上げる。
「くましゃん!」
今度は熊。
「きつねしゃん!」
狐まで抱え込む。
「こらこら。一度に全部持ったら落とすぞ」
「だいじょーぶ!」
「いや、絶対落とすだろ」
案の定、狐がぽとりと床に落ちた。
「あ」
「ほら」
俺が拾い上げる。
「乱暴にすると足とか取れちゃうから、優しく扱うんだぞ」
「わあったー」
素直に頷く清花。
……本当に分かっているのかは怪しい。
しかし。
これだけ喜んでもらえるなら、作った側としても嬉しいものだ。
そんなときだった。
「わちしもやいたいー」
「ん?」
清花が俺の袖を引っ張る。
「自分で作りたいって?」
「あい!」
「うーん……」
さすがに小刀や針は危ない。
まだ一人で作らせるわけにはいかない。
「じゃあ、一緒に作ってみるか」
「あい!」
「動物は何がいい?」
「うさしゃんー!」
「ああ、うさぎか」
犬よりも手足を短くできる分、型紙も少し簡単そうだ。
「よし。うさぎを作るか」
「あーい!」
紙を広げる。
俺がうさぎの形を描いていく。
「清花も描いてみるか?」
「あーい!」
「じゃあ、一緒に持とう」
「あい、いっしょー」
清花の小さな手に筆を握らせ、その上から俺も手を添える。
「じゃあ、書くぞー」
「あーい」
「まず、こうして」
「こして」
「それから耳を長くして」
「こきて」
「最後はこんな感じだな」
「こんあー!」
清花が嬉しそうに笑う。
……まあ、うさぎに見えるかどうかは置いておこう。
「ここから先は危ないから、父さんがやるな」
「あい」
型紙を小刀で切り抜く。
清花には布を押さえてもらい、裁断は俺がやる。
それから布を縫い合わせて、うさぎの形にしていく。
耳を付け。
足を付け。
中に綿を詰める。
最後に赤い布で目を作れば――。
「よーし、できたぞ」
「やったー!」
完成したうさぎを清花へ渡す。
「うさしゃんー!」
今度は犬以上の喜びようだった。
自分も一緒に作ったから、余計に嬉しいらしい。
「気に入ったか?」
「あい!」
うさぎをぎゅっと抱きしめる。
これはきっと、今日から寝るときにも一緒だな。
俺はそんな清花を眺めながら、ふと思う。
「しかし……」
今回、布を切るのに使った小刀では、やっぱり少しやりにくい。
ある程度厚みのある布なら、なおさらだ。
「洋鋏が欲しいな」
布を裁断するなら、鋏のほうがずっと扱いやすい。
「これは誰かに作ってもらうかね」
ぬいぐるみを作っていたはずが、次は道具作りの話になってしまった。
まあ、こういうこともある。
「……でも、作ってよかったな」
「うさしゃんー!」
清花は、うさぎのぬいぐるみを抱えたまま、満面の笑みを浮かべていた。




