06.村役場復旧 その3 ツクシの炊き込みご飯とフキノトウの天ぷら
エリはぎゅんぎゅんと快調に草を刈り進めたが、一時間もすると替えのバッテリーを含め、全ての充電が切れてしまった。
「ありゃりゃ」
丁度良いので、今日の作業はこれでおしまいにする。
時刻はまだ三時だが、人通りが少ない場所での作業は日が暮れるとめちゃくちゃ危ない。
このくらいの時間に撤収するのが吉なのだ。
一時間で刈り進んだ距離は、三十メートルあまり。
ジャングル状態の草刈りでは、刃が絡まないよう上から段階的に細かく刻みながら刈る。そのため結構時間が掛かる。
草刈り機を肩に背負い、車に戻る道すがら、エリは山菜を見つけた。
「おおっ、フキノトウ! 土筆にヨモギも。今日は天ぷらにしようっと」
夕飯のおかずを手に入れて、エリは大満足で家に帰った。
使い終わった道具を片付けた後、エリは先に夕食の支度をすることにした。
泥や埃の汚れは想定内。その他、想像したくないような目にも合わずに済んだし、汗もそこまで掻いてない。
労働してお腹が空いたので、お風呂より先にご飯が食べたい。
作業服から普段着に着替え、よく手を洗い、エリは夕食の準備に取りかかった。
メニューはツクシの炊き込みご飯に、フキノトウとヨモギの天ぷら。主菜はガッツリしたものがいい。一日働いたので味が濃くて食べ応えあるやつ……。
「肉じゃが食べたいなぁ」
ちょっと面倒だが、大鍋いっぱい作れば、今日の夜、明日の朝晩と三食分のメインのおかずになる。
「よし、作ろう」
まずはお米をとぎ、吸水させる。
その間にツクシを洗い、はかまと呼ばれる下の部分を取り、さっと茹でる。水にさらし、食べやすいサイズに切る。
炊飯器をセットし、肉じゃが作りに移る。
油を引いた大鍋で牛肉を炒め、よく洗った小さめのジャガイモを皮付きのまま入れ、さらに炒める。
小さいジャガイモはおつとめ品として少しお安く手に入るのだ。
その後、白滝、ななめのくし切りにした玉葱をたっぷり入れて、また炒める。
玉葱がしんなりしてきたら、水、ダシパックを入れて、一煮立ち。
沸騰したら、食べやすいサイズに切った人参を入れて落とし蓋をして、蒸気が逃げるように斜めに鍋の蓋をかける。
五分経ったらお酒、みりん、白だし調味料と醤油で味を付け、二十分ほど煮込む。
横のコンロで味噌汁を作る。具は、ワカメと刻んだ油揚げ。
「うーん、もう一品、欲しいなぁ」
とエリは思った。
新たに何かを作るのは面倒くさいので、冷蔵庫にあった三個セットのめかぶをワンパックを取り出し、器に空ける。
炊き上がったツクシご飯を茶碗に盛り、ぬか床から大根の漬物を出し、めかぶ、出来上がった肉じゃがをちゃぶ台へと運ぶ。
「よし、準備万端」
このタイミングで、エリは「とりゃっ」とフキノトウとヨモギの天ぷらを揚げた。
ご飯を作る人と食べる人が一人の場合、こうでもしないと熱々の天ぷらにはありつけない。
天ぷらを揚げ終えたら、台所の後片付けは後回しで、エリは食卓につく。
「いただきまーす」
エリは夕食を食べ始めた。
何はともあれ、まずは揚げたての天ぷらだ。
「あ、美味しい」
新鮮なせいか、フキノトウもヨモギも渋みもなく柔らかい。
春の野草のなんとも言えない良い香りがする。
肉じゃがもちゃんと味が染みている。
肉じゃがが味濃めなので、ツクシご飯は薄味にしたが、
「合うわー」
エリはぱくつきながら自画自賛した。
「美味しいな……」
祖母が亡くなってから『今日のご飯が、一番美味しい』と思った。
労働して、空腹になって、食事する。
そんな当たり前のサイクルが、今まで止まっていたのを感じる。
エリはチラリと仏間を見た。
納骨はまだ。祖母の遺骨は仏間に安置されている。
「美味しいよ、お祖母ちゃん」
返事なんてあるわけない。
でもエリが囁いた言葉に、写真の祖母は微笑んでくれた気がした。
***
翌日もエリは草刈り作業に励んだ。
朝ご飯を食べて、すぐに草刈り。途中、草刈り機のバッテリーを入れ替えつつ、作業を続ける。
そして十二時になり、エリは自宅に戻り、昼食を取った。
昼食のメニューは、ご褒美メニュー「カップ麺」である。
カップ麺は、
意外とかさばる。
村では採れない(売ってない)。
日持ちする。
の三つを兼ね添えた食品で、寒梨村では、貴重で重宝な非常食という位置づけだ。
それを今日みたいに何でもない時食べるのは、この上ない贅沢なのである。
お湯を注ぎ、三分待って、十分で食べ終える。
「美味しかったわー」
片付け入れても、二十分!
この手軽さがたまらない。
「さて、午後も頑張ろう!」
エリは機嫌良く仕事に戻った。
そして草刈り四日目。
ついにエリは井戸に辿り着いた。
井戸は、丸いコンクリート製だった。上に雨よけの屋根が付いている。
井戸の上部は分厚い鉄製の蓋で塞がれており、その上に年代物のポンプが設置してあった。
エリは軍手を嵌め、気をつけながら、鉄製の重い蓋をずらし、中を覗き込んだ。
変な匂いはしない。水面が反射しているのが見えるから、枯れてもいなそうだ。
慎重に匂いを嗅いだが、おかしな臭気は感じなかったので、簡易バケツで井戸の水をくみ上げてみる。
水は綺麗に澄んでいた。
「うーん、大丈夫そう?」
井戸の側にはトタン屋根の小屋が建っていた。これが本来の共同井戸用のポンプ施設なのだが、今回は使用しない。
新たに栗原から受け取った小規模用の新型電動ポンプを据え付けるつもりだ。
まずエリは草刈り機を左斜め後ろに方向転換した。今度は村役場に向かって草を刈る。
村役場の外部コンセントまでの電源コード用の道を作るためだ。
コード用の道を作ったら、まずは井戸にポンプを取り付ける。
今回は既存のポンプは触れないで、その隣に新たなポンプを設置する。
下手に古い配管を引き抜くと、井戸の水が濁ってしまう恐れがあるのだ。
エリは鉄蓋の隙間から、新しい吸水ホースを慎重に井戸の奥へと垂らした。
今は作業の途中なので軽く仮留めをしているだけだが、ポンプ取り付け後は井戸に雨水などが入らないよう、しっかりと隙間を塞ぎ、蓋を閉じるつもりだ。
小屋の脇から役場へと伸びている古い水道管を見つけ、その根元に新しいポンプの吐出側を工具で接続する。
塩素消毒装置も設置する。
最後に長いドラムコードを伸ばして役場の外部コンセントへと繋ぐ。
「よし、これで配線と配管は終わり」
エリは村役場の中に入り、配電室のブレーカーを入れ、井戸に戻る。
「電源良し。電源入れます!」
ポンプの電源を繋ぎ、エリは新しいポンプのスイッチを入れた。
「ウィーン……」という心地よい駆動音が響き始めた。
エリは急いで村役場に戻り、台所の流し台の蛇口をひねってみる。
ゴボゴボッ、と激しい音を立てて、赤茶色のサビ混じりの水が勢いよく飛び出してきた。
「出たっ!」
しばらく出しっぱなしにしていると、水はだんだんと澄んできた。透明で綺麗な水へと変わっていく。
「やった、水が通った!」
流れる水の音を聞きながら、エリは達成感に満ち満ちた歓声を上げた。




