36.社、発見!
お待たせしました!
エリは手帳に書いたメモ通りに進み、ついに大屋家に辿り着いた。
「えっと、『大屋』。よし間違いない!」
門にある表札に大屋と書いてあるのをきちんと確認する。
「お邪魔します」
確か正式名称数寄屋門とかいう、瓦葺きの門をくぐり、エリは大屋家の敷地に入った。
大屋家はエリ宅の十倍はありそうな敷地面積で、地面には玉砂利が敷き詰められている。
左手に、古民家というより江戸時代のお屋敷みたいな家屋が見える。右には大きななまこ壁の蔵っぽい建物が見える。
あれが、大屋氏の作業場という『離れ』だろう。
エリは寒梨村に移住する前、電力会社の関連会社で電線の保守管理の仕事をしていた。電柱はほぼ公共の場所に置かれているが、私道にもあるし、マイ電柱と言って個人のお宅用の電柱もある。
そのため知らないお宅にお邪魔しての作業も、よくある業務の一つだった。エリ個人としては緊張するが、仕事柄慣れてもいる。
キョロキョロするなど不審な行動は迷惑になるのでエリはまっすぐ右の『離れ』に向かった。
敷地内は白い玉砂利に時折和風庭園の定番、十両や南天などの低木が植えられている。
それを見て、エリはふと思った。
「大屋さんはたまに帰ってきているのかも知れない」
何十年と放置した庭と屋敷には見えなかった。
住職から栗原が聞いた話では、大屋氏はここには住んでないそうだが、住民票もあるし、時折戻ってきているか、住職が代わりに手入れしているのだろう。
古くて立派な家だ。
代々受け継いだ家屋なら自分の代で荒れないよう、心配りしているのもしれない。
と、エリはまだ見ぬ大屋氏に思いを馳せている間に『離れ』に辿り着いた。
エリが住職から受け取った古びた鍵に相応しい大きな錠前がついていた。
海老錠という和錠の中でも古すぎて慣れてないと開け方が分かりにくいタイプの錠前だったので、ちょっと手こずってしまったが、無事に鍵を開けて、エリは、
「よいしょっと」
観音開きの大きくて分厚い扉を開けた。
蔵の内部はエリが思ったより明るかった。
倉庫用の蔵は耐火のために窓が少ない構造になっているが、大屋氏はここを作業場として使用していたらしい。
作業蔵とか納屋蔵と呼ばれる造りで、蔵の上部に明かり取りの窓が付けられていて、自然光が柔らかく室内を照らしている。
一応懐中電灯は用意してきたが、使わなくてすみそうだ。
「よし、探そう、蜘蛛ちゃん」
蜘蛛に声をかけ、エリは「お邪魔しまーす」と中に入った。
エリは大屋氏の職業を聞きそびれたが、おそらくは大工、もしくは家具を作る家具師なのだろう。
作りかけの木材の他、神輿や神社にありそうなエリには名前も分からない物品が置かれている。
広さは普通の家がまるごと入りそうなくらい広い。
エリは困った。
エリはここに『常磐の社の道具』を探しに来た。
だが、『社の道具』とは一体なんなのか? 実はエリはその答えを知らない。
寒梨村村史に何故か『常磐の社』の前で写した集合写真はあってもそのものの写真はなかったのだ。
「どうしよう……」
なんか勢いで来てしまったが、このままでは「分かりませんでした」で帰るしかない。
だが。
エリはあるものの前で立ち止まった。
「これ、かなぁ?」
と呟いて首をひねる。
エリの視線の先には、神社で社殿らしきものがあった。
しかし大きさは大きめの段ボールくらい。
どう考えても小さいが、その社には『常磐』と札が掛かっていた。
「……小さいよね?」
人間が入れる大きさではない。ポストとか、昔小学校にあったという百葉箱くらいのサイズだ。
だが、何度見ても札には『常磐』と書いてある。
神道にも特別詳しい訳ではないエリの目からみると正月に見かける神社っぽい造りで、ミニチュアサイズながら精巧に出来ている。
大屋氏が何を考えてこれを作ったのかはまったく分からないが。
「これかなぁ?」
とエリがもう一度首をひねると、蜘蛛が『常磐の社』に飛び乗った。
「えっ、戻っておいで」
とエリは呼びかけたが、蜘蛛は動かない。
「……これということにしよう」
とエリは決めた。
神鳴寺の住職は「どれでも好きなものを持っていけ」と言った。
ありがたく、持ち帰らせて貰おう。
ここまで精巧なミニチュアだ。
南徒市の大工さんに「これの大きいやつ作って下さい」と頼んだら作ってもらえるかもしれない。
エリはそう考えて、『常磐の社』を蜘蛛ごと「よいしょ」と持ち上げた。
社は小さいとは言え木と金属で出来ている。
重いだろうと気合いを入れたエリだったが、思ったより随分と軽かった。
「あ、これなら持てそう」
エリは『離れ』を出て、また鍵をしっかりと閉めて戸締まりし、大屋家の門をくぐり出た。
門は木製のかなり重そうな門だ。元から開いていたのでここは締めなくていいだろう。
主はいないが、エリは門に向かって「ありがとうございました」と頭を下げた。
それから元来た道を『常磐の社』を抱えながら戻った。
エリは社を落とさないよう、慎重に歩いていたので、後ろでギーッと音を軋ませ、門が閉じたのを知らない。




