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限界集落妖怪喫茶  作者: ユーコ


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24/39

24.第四村人、十条兼人

 社再建に必要な三つのもの。

 その一つ、元神使、山太夫の説得は失敗した。

 山吹とは明日の夕方に会う約束をしたが、山太夫の怒りようでは神使に戻って貰うのは難しそうだ。


 だがエリは村の職員として、他にも仕事がある。社のことは気になるが、午後からは別の仕事に励んだ。

 向かったのは村役場の隣。草刈り作業だ。

 夏が近づき、植物はあっという間に成長する。特に雑草の勢いは凄まじく、二週間もすれば元に戻ってしまう。

 井戸までの道は常に手入れして置かないといざという時困るので、エリは定期的に草刈りしている。

「ふひー、終わったー」

 伸びた分を刈ればいいので半日もあれば済む。最初に草刈りした時よりは、断然に楽な作業だ。

 エリは刈った草はすぐに日の当たる道路側に纏めて置いた。

 その場に放置すると蛇や動物の巣になってしまう。

 知らずに近くを通るととても危険なので、邪魔にならない明るい場所に置くのが草刈りの鉄則なのだ。





 ***


 翌日の午前。

 鴫原とほとんど入れ違いにキィーっと小さな音を立てて玄関扉が開いた。

「?」

 鴫原が何か忘れ物でもしたのかなとエリが玄関を見ると、そこには一人の男性が立っていた。

「あのう」

 と彼は遠慮がちに声を掛けてきた。


 エリは、驚いた。

 村役場には誰も用がないようで、一ノ瀬、鴫原しか村人は役場に来ない。

 だが訪ねてきたのは今まで見たことがない男性だ。


「あっ、ははっ、はい。何かご用でしょうか?」

 声はちょっと裏返ってしまった。


 男性の年齢は三十歳ほど。服装はグレーの作業着姿で、靴はスニーカー。ぷんと草と堆肥の匂いがかすかにした。

 小太りで人の良さそうな青年だ。

「あのう。農業の助成のことで来たんです」

「もしかしてSNSをご覧になったんですか?」


 エリは役場の職員になった後、栗原のアドバイスで村の公式アカウントを作成した。そこでちょっとずつ村のことを発信している。

 最新の情報は村人が受けられそうな様々な支援についてだった。

「は、はい。そうなんです」

 それを見て来たらしい。

 エリは感動した。

 今まで手応えゼロで「一体、このお知らせを読んでいる人はいるのだろうか?」とやや世を儚みながら書いていたが、ちゃんと読んでいる人がここにいた。

「どうぞお入りください」


「あ、はい。ありがとうございます。あの、あなたは百田エリさん、ですよね」

 男性は、自信なさげに質問してきた。

 SNSにはエリの名前は載せていないので、ちょっと驚いたが、「はい、そうです」とエリは頷いた。

 すると男性は、直立して、エリに頭を下げた。

「キヨ子さんのこと、ご愁傷様です」

「あ、えっと、お祖母ちゃんのこと、ご存じなんですか?」


「はい、僕は十条兼人(じゅうじょうかねと)と言います」

 エリは男性が名乗った姓の方に聞き覚えがあった。

「十条さんて、確かお通夜とお葬式に来て下さった……?」

 確か十条という名の老人と五十過ぎの中年の女性が、通夜と葬式の両方に来てくれた。

 十条家の住所は寒梨村の『下(しも)』でも平地側で、同じ村内とはいえ、間に畑とか田んぼとか廃屋とか休耕地があり、山側のエリの家からはかなり離れている。


「はい、うちのじいさんと母親です。家は酪農をやっているので、家を留守には出来なくて」

 と事情を話す。エリはそんな彼にお礼を言った。

「あ、そうでしたか。わざわざありがとうございます。祖母も喜んでいると思います」


「今日はうちでも受けられそうな助成や補助があるってSNSに書いてあったので、来てみたんです」

 十条は来庁の目的を話した。

「あ、はい。十条さんは酪農農家さんですね。ございますよ」

 エリは早速市の講習で聞いた話を語った。

 一通り説明した後、エリは言った。

「実は私、まだ新人でして」

「あ、そうなんですか?」

「そうなんです。十条さんの担当は私と、それから南徒(みなみと)市の地域振興課の栗原の二人になります。これ、栗原の名刺です」

 エリは事前にもらっておいた栗原の名刺を十条に差し出した。

 十条は興味深げに名刺を受け取った。

「ご丁寧にありがとうございます」

「私でも、直接栗原にでも構いませんので、何かありましたらご相談ください」

「はい、ありがとうございます。助かります」

 求めていた助成が受けられそうと知り、十条はホッとした表情になる。


 用件が済んだので、エリは十条を出口まで見送った。

「では提出する書類、書いてきますね」

 といったんは乗って来た軽トラックに乗りかけた十条だが、ふと、村役場の横に置かれたものを指さした。


「百田さん、あれ……」

「あ、あれは草刈りした草です」

 エリが草刈りして纏めておいた草である。


「あれ、捨てるんですか?」

「はい。もうちょっと放置して水分が減ったら捨てます」

 エリは何の気なしにそう答えたが、十条の目がキラッと輝いた。

「あれ、『上(かみ)』の草ですよね。僕、もらっていいですか?」

「えっ、草ですか? 勿論いいですけど、草、何に使うんですか?」

「僕んちは牛と豚がいますので、食べさせます。それにいい草は肥料になるんですよ」

「あ、そうなんですか。……豚も草、食べるんですね」

 とエリは感心した。

 牛が草を食べるのはなんとなく知っていたが、豚が何を食べるのかは知らない。

 残飯や美味しくないものを『豚の餌』と表現することがあるが、具体的に豚は何を食べているのか?


「はい。牛も草をたくさん食べますが、豚も少し草を食べた方がいいんです。大体配合飼料に一割ほどの割合で食べさせています。ただ、家庭菜園をやっているお宅でも無農薬ってほとんどなくて……」

「そうですね。ちょっとくらい農薬使いますよね」

 自分達が食べるものである。体に害が出る程は使っていないが、ちょっと病害虫用の薬を撒くくらいはエリもする。

「牛は食べる量がすごいので、無農薬がいいんです。その点、こちらは……」

「はい。除草剤もなにもまったく使っていない雑草です!」

 とエリは胸を張った。


 十条には村が所有や管理する土地の草刈りをお願いすることにした。

 ボランティアなので報酬は発生しないが、万が一作業中の事故などが発生した時は市が加入している保険から損害を補償する。

 そして刈った草は、十条が持ち帰り、動物の肥料として利用する。

 エリは大助かりだし、十条は飼料代が節約出来るし、地球に優しい。

 一石三鳥、一粒で三度も美味しい。



「あ、そうだ、十条さんは一ノ瀬さんのこと、何かご存じですか?」

 別れ際、エリは十条に一ノ瀬のことを聞いてみた。

「一ノ瀬さんですか? 最近引っ越して来た人ですよね。母から話だけは聞いています。ただ、うーん」

 十条は困った様子で声を上げた。その後で言いづらそうに続ける。

「じいさんが、『一ノ瀬とは関わるな』と言うので、挨拶くらいで付き合いはないんですよ」

「そうなんですか……」

「はい。一ノ瀬さんは昔、この村に住んでいた人だったらしく、その頃に色々あったようです。じいさんは詳しくは教えてくれませんでしたが。……あ、今の一ノ瀬さんではありませんよ。僕らが生まれるずっと前のことみたいです」

 一ノ瀬家と村人の間には少しわだかまりがあるようだ。

 当時のことは井村も深く話したがらない。色々あったのだろう。


「じゃあまた書類提出と草刈りに来ます」

「あ、はい。両方お待ちしてます」

 と挨拶し合い、エリと十条は別れた。


 エリは、第四村人十条と出会った!

 ちなみに第三村人は隣人井村である。


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