17.一ノ瀬家の秘密
祖母の納骨は百田家の菩提寺神鳴寺でしめやかに行われた。
法要は住職とエリの二人だけ。
お隣の井村も行きたいと言ってくれたが、今日は足が痛むらしい。残念ながら参列出来なかった。
墓に行き、住職はお経を上げた。
そして墓の表側墓碑の部分を開けて、中に納骨する。
住職自ら、墓に祖母の骨壺を収めてくれた。
エリは、その光景を見て、涙が止まらなくなった。
悲しい。
だけどその悲しさは祖母が死んだ時に感じた刃物で切られたような鋭利な痛みではなく、しんしんと降り積もる雪のような悲しみだった。
――祖母をこの世に留めては置けない。
改めてそう感じた。
納骨の際、墓の下に安置された他の骨壺がチラリと見えた。
エリの父や母や祖父のものだ。
皆、そこにいるのだ。
それは寂しいような、ホッとしたような、一言では言い尽くせない不思議な感情だった。
すぐに住職はしっかりと墓碑を閉じたので見えなくなったが、それでいい気がした。
納骨が無事に終わり、普段はすぐ無言で立ち去るはずの住職が、黙ってそこに立っている。
エリに何か話があるようでチラチラと彼女の様子を覗っていたが、エリは涙が止まらず、それどころではない。
刃物だろうがしんしんだろうが、悲しいものは悲しい。
エリは墓の前で泣き続けた。
そしてようやく泣き止んだ時には、既に住職の姿はなかった。
なので、結局住職がエリに何を話したかったのかは、謎のままだ。
そんなこんなで忙しい日々を過ごすエリだが、一つ、気がかりなことがあった。
一ノ瀬があれから村役場に姿を見せないのだ。
「ごめんください……」
とその日もやって来たのは、一ノ瀬家の家政婦鴫原一人だった。
「あ、鴫原さん、おはようございます」
「おはようございます、エリさん。またお水を頂きに来ました」
「はい、ただいまご用意しますね」
エリは篠原から大きめの水筒を受け取り、水を汲んだ。
水筒を鴫原に渡しながら、エリは恐る恐る聞いてみた。
「あのう、一ノ瀬さんの具合良くないんですか?」
聞いた瞬間に鴫原はフッと顔色を陰らせ、目を伏せた。
「ええ、そうなんです」
「あの、病院とか行った方がいいなら私、車出しますよ……?」
エリは思い切ってそう申し出た。
鴫原は疲れたように首を横に振る。
「お医者様に見せたところで坊ちゃんのご病気には意味はありません」
その言葉から、強い拒絶と失望がにじみ出ていた。
「では、失礼します、エリさん」
鴫原はそう言うとそそくさと村役場を出て行ってしまった。
そんな鴫原を見送りながら、エリは首を傾げた。
「うーん」
一ノ瀬の病気は一旦はこの村で静養し、更に村役場の水を飲んで快方に向かったようだ。だがその後、タケノコが生える時期には再び具合が悪くなってしまった。
鴫原の態度から察するに、今も病気(?)は治らず、水を飲んでもあまり改善しない。
ただ鴫原が欠かさず水を汲みに来るところを見ると、一定の効果があるようだ。
そしてエリが一番引っかかるのは、鴫原の言葉。
――お医者様に見せたところで坊ちゃんのご病気には意味はありません。
これは一ノ瀬の病が普通の病気とは違うという意味ではないだろうか。
もしかして、一ノ瀬の病気は村に何らかの関係がある?
「一回良くなってその後、悪くなった理由って何だろう……?」
休憩時間、エリは寒梨村村史を読み返した。
何か目的があるわけではなく、スマホの電波状況が悪くて他にすることがなかったのだ。
村史には一ノ瀬家のことが載っていた。
一ノ瀬家は村が寒梨村と呼ばれる以前から続く名家で、ある社の社家をしていた。
社家というのは代々社を管理、奉仕する役目だそうだ。
社は常盤の社と呼ばれており、無病息災、病気平癒、健康祈願のご利益があるそうだ。
明治時代に撮られたのか、村史にはものすごく古い写真も載っていた。
写真の下の説明文には『常盤のお社前にて』と書かれているのに、写っているのは、着物を着た数名の男性が立っている集合写真で、社は影も形もない。
ただ写真に写る男性の一人は、一ノ瀬に少し似ていた。
もっとも彼は一ノ瀬よりは見るからに健康そうだ。一ノ瀬家のご先祖様かも知れないなとエリは思った。
「この村、お社があったんだー。……あれ? 今もあるのかな?」




