15.焼きタケノコと新たなる妖怪玉
エリはまず井村家に行き、農作業用コンテナ二つ分のタケノコを井村に渡した。
「はい、井村さんの分」
井村は嬉しそうに目を細め、
「ありがとう、でもエリちゃん、大変じゃったろう? すまんねぇ」
「いいんです。えっと、助っ人もいたんで、全然大丈夫です」
「そうかい、じゃあ、私はタケノコご飯でも作ろうかの。エリさんも食べるじゃろう」
「はい、頂きます!」
次にエリは、愛用の軽バンの後部にコンテナを四個載せた。むじなのおかげで思ったより沢山のタケノコが採れたので追加分を入れるためのコンテナだ。
エリは車を走らせ、竹林に向かう。
そこでコンテナ二個分のタケノコを積み込み、一ノ瀬家に届けに行く。
一ノ瀬は、寒梨村でも一番端の平地の部分に住んでいる。
村内とはいっても竹林から離れているので、車を使った方が便利なのだ。
「はー」
エリは一ノ瀬の家を見て感心した。
「立派なお屋敷だぁ」
一ノ瀬家は時代劇に出てきそうな古くて大きなお宅だった。
エリがいつも車で使う道からは少し離れているのでこんな立派な家があるのは知らなかった。
チャイムを押すと、応対したのは鴫原で、
「まあまあ、エリさん、ありがとうございます」
とこちらも感謝された。
「いえいえ、じゃあ、失礼しまーす」
エリは一ノ瀬家を後にしたが、一ノ瀬家のもう一人の住人、一ノ瀬裕真は姿を見せなかった。
その理由が、単に忙しいからなら構わないのだが。
「また具合、悪くなってないといいけど」とエリは少し心配した。
その後、エリは竹林の近くに車を乗り付け、
「むじなさん、お待たせー」
むじなと残るコンテナ二つ分のタケノコ、それから道具一式を詰め込み、自宅へと車を走らせる。
むじなはシートベルトを着用して助手席に乗っている。
「エリさん、エリさん」
とむじなはエリに声を掛けた。
「んー、何?」
むじなは期待に満ちた眼差しで問いかけた。
「タケノコで何を作るんですか?」
作業が終わった時、エリはむじなに「ありがとう、助かったよ。このまま帰ってくれてもいいけど、待っててくれたらタケノコ、ご馳走するよ」と声を掛けると、むじなは一も二もなく、
「待ってます!」
と答えた。
「うーん、タケノコご飯は井村さんが作ってくれるって。だから私は七輪出して焼きタケノコ作ろうかな」
「や、焼きタケノコ?」
「うん、掘りたてのタケノコの、小さいヤツを選んで皮ごと七輪で焼いて食べる料理なんだよ。コロコロ転がして全体的に真っ黒に焦げるまでじっくり焼くの。簡単だけどすごく美味しいよ」
「皮ごと焼く、真っ黒……」
むじなは何故かショックを受けたようだ。
「聞けば聞くほど恐ろしいですが、それはとても美味しそうです」
家に戻ったエリは早速庭に七輪を出して焼きタケノコを作った。
作り方は簡単。掘ったタケノコの中でも小さめのタケノコの泥を綺麗に洗い流す。
先端を斜めに切り落とし、腹の部分を縦に一本、深めに包丁を入れる。
焦げ付き防止にタケノコを一度水にくぐらせてから、七輪の網に載せて、コロコロと転がしながら、三十分くらい焼く。
その間に、エリはタケノコのお刺身を作ることにした。
これは生のタケノコで、掘り出してから時間が経っていないタケノコで作らないと美味しくない。
具体的には掘って三時間の間に作るのがベストだ。
タケノコの皮を剥き、先端の穂先の部分を取り出して繊維に沿って出来るだけ薄くスライスする。
お刺身を作っている間に、焼きタケノコが焼けた。
タイミング良く、「エリちゃーん」と隣家から声が掛かる。
「あ、井村さん」
「タケノコご飯出来たよー」
早速タケノコご飯を取りに行くと、井村は「味噌汁もあるよ」とお味噌汁もくれた。タケノコとアオサの味噌汁だ。
タケノコと海の幸は「出会いもの」といい、ベストマッチな組み合わせらしい。
エリも作った焼きタケノコとタケノコのお刺身をお裾分けした。
「「頂きまーす」」
早速エリとむじなは美味しいタケノコを食べた。
***
「はー、またご馳走になりました」
食事が終わると、むじなは満足そうに息をついた。
「はい、お粗末様です。今日は本当にありがとう」
エリはむじなにお礼を言った。
本当に助かった。
むじながいなかったら大変だったろう。
「エリさんはまたタケノコ掘りをするんですか?」
「あ、うん、もう何回かはすると思うよ」
むじなの質問にエリはそう答えた。
タケノコは長期保存可能だ。
そのためこの時期にたくさん取って一年分保存する。
「だったら、はい」
とむじなはエリに半分の妖怪玉を差し出した。
「えっ? いいの?」
「はいです。これがないとエリさんはわっしを呼べませんので、使ってください。そのかわりわっしにタケノコ料理をご馳走して下さい」
「ありがとう。じゃあまたね」
エリは狸の半玉を手に入れた!
そしてその夜、エリは奇妙な夢を見た。
どことも分からない不思議な空間で、エリは誰かに呼ばれた。
「エリさん、エリさん」
声のする方を向くと、そこに立っていたのは、和服を着た二人の男女。
だがその顔はトカゲだった。
「きゃっ」
驚くエリだが、女性のトカゲはニコニコと笑って、
「エリさん、どうもありがとうございました。おかげでこの人を助けることが出来ました」
と嬉しそうに傍らに立つトカゲ男を見上げる。
トカゲ男はトカゲ女より大きくて見るからに強そうだ。
ただ檻に捕らえられていたせいか、かなり痩せている。
微笑むトカゲ女とは裏腹に、トカゲ男は不機嫌そうにエリをじっと見つめている。
「あ、もしかして、あなたたちは昼間のトカゲさん?」
「あなた様、お礼を言ってくだされ。エリさんに助けてもらったんですし」
とトカゲ女はトカゲ男をたしなめるが、男は「ふん」と横を向いた。
「そいつはすぐに俺を助けなかったぞ」
「あ、いえ、それは、その、すみません」
怖かったので、見捨てたいなーと思ったのは事実である。
「だが、助けてもらったのは事実だ。受け取れ」
とトカゲ男の手から何か光る物体がふよふよと飛んできた。
エリはそれをキャッチする。
「あ、これ」
エリはそれに見覚えがあった。
昼間、狸にもらった妖怪玉にそっくりだ。
むじなの妖怪玉より大きく、一層キラキラとしている。
そしてむじなの妖怪玉と同じく、半分に切り取られていた。
「お前のことはまだ信用出来ない。半玉だけやる」
「もう、山太夫様、そんなことおっしゃって」
トカゲ女は男にそう言うと、にっこりエリに向かって微笑んだ。
「エリさん、ありがとうございます。私は村役場に住むヤモリの山吹と申します」
「あ、もしかして配電室にいたヤモリさん?」
「覚えていてくださいましたか。はい、あのヤモリです」
「山吹さんて名前なんだ」
「はい、この名前は山太夫様に付けて頂きました。この方は私の夫ですが、位の高い大妖怪なのです」
「山吹は、綺麗な山吹色だからな。その名が良いと思った」
山太夫はボソリと言い、山吹は頬を染めてはにかんだ。
「いやだ、あなた様ってば」
……何故か、トカゲとヤモリのいちゃいちゃを見せつけられるエリ(独身)であった。
「エリさん、私の妖怪玉も受け取ってください」
と山吹の手から同じように光が放たれ、エリに近づいてくる。
山吹の妖怪玉は、山太夫よりも小さくて少し控えめなキラキラ具合だ。しかし形は綺麗な丸い玉だった。
「私は一玉を差し上げます。位の低い妖怪ですので大してお役に立てませんが、使ってくださいまし」
と山吹は言った。




