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限界集落妖怪喫茶  作者: ユーコ


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14.ヤモリの願い事

 エリが付いてきたのを確認するとヤモリはスピードを上げた。

 エリはあわててヤモリに付いてく。


 ヤモリが立ち止まったのは、道からそう遠くない場所で、ぬかるんだ元田んぼのような場所だった。

 もう田んぼとしてはとっくに放置されているが、雨水などが溜まっている。

 そこに、鉄製の網籠みたいなのが置いてあった。

「これって、動物の捕獲器だよね」


 畑を荒らす野生獣を捕らえる罠籠で、アニマルキャッチャーとも呼ばれている。


 エリはこわごわ罠籠をのぞき込み、「ひっ」と声にならない悲鳴を上げた。


 そこに居たのは、一メートルを優に超えるでっかいトカゲだった。

 多分、トカゲ。

 別にトカゲ詳しくないから種類は分からない。


 痩せて元気のないトカゲは檻の中で身じろぎ一つしない。


「死んでるのかな?」

 エリが呟くと、トカゲは薄目を開けてエリを見た。

 その目に、怯えも希望もない。

 人間に何の期待もしていない。そんな声が聞こえてくるようだった。


 トカゲはすぐにエリに興味を失い、またうずくまる。

 ヤモリは鉄籠に近づくと、「キュッキュッ」とトカゲに向かって鳴いた。

 そしてエリを振り返る。


「えー」

 どう見ても助けてくれって感じだが、

「怖いよー。そのトカゲおっきいし、噛まれたら痛そうだし」

 と助けない方向で行きたいエリだった。


 だが、ヤモリはエリを見上げて、「キュッ」と哀願するように鳴いた。


 ――お願い、助けて。


「うーん、でも」


 ――お願い、お願い、どうか助けて。


 押し問答はしばらく続いたが、結局エリはヤモリの熱意に負けた。

「あー、はい。分かりました」

 意を決して罠籠に近づき、扉を開けた。

「ぐぬぬぬっ」

 鉄製の扉は思った以上にずっしりと重量がある。

 エリは思わずトカゲに向かって叫んだ。


「おーもーいー、早く出てっ」


 文句が聞こえたのか、トカゲはするりと籠から抜け出ると近くのヤブに逃げていく。

 ヤモリはトカゲの後を追いかけ、去り際、まるでエリにお礼を言うようにエリに向かって頭を下げた。



「あー、疲れた」

 あんな大きなトカゲを間近で見たのは初めてだ。

 エリは精神的にも肉体的にも疲れて、その場でへたり込みそうになるが、こんなジメジメしたところではエリの方が行き倒れかねない。


「ふんすー」と気合いを入れて立ち上がり、エリは猫車のところに戻った。

「いい天気だなぁ」

 暗い藪の中から這い出たエリは春らしい好天の空を見上げた。

 綺麗な青空が広がっている。エリは思わず目を細めた。


「よし、タケノコ掘りに行こう」



 今度は何事もなく、竹林に辿り着き、エリは中に入っていった。

 タケノコがたくさん生えていそうな気配がある。

 実は地面から目視出来るくらい大きくなったタケノコはもう育ちすぎて硬い。

 狙うのは、土のひび割れや、足の裏で感じるわずかな膨らみである。掘り返すとそこに美味しいタケノコが隠れている。

「よし、やってみよう」

 タケノコ掘りは、祖母と当時はまだ健在だった祖父と一緒にやったことがある。

 一人で作業するのは初めてなのでちょっと心配だが、なんとかなる……はずだ。

 タケノコ掘りはまずタケノコを探し、スコップを使ってタケノコを傷つけないように周囲の地面を掘る。その後、クワでタケノコの根元を切り取る。

 エリは背負い籠を邪魔にならない場所に置き、スコップ片手にタケノコ掘りを開始した。


 タケノコ掘りは順調に進んだ。

 ほぼ初心者だが、意外となんとかなっている。

 ただ、作業は結構重労働で、五つ掘り返すともう汗が噴き出てきた。


「あー、疲れた」

 エリが、作業を中断し、背負い籠に入っているタオルを取ろうと手を伸ばした時、エリは背負い籠の中にキラリと光る何かを見付けた。

「あれ? なんだろう」

 籠の中にあったのは、半分に切ったビー玉のようなもの。

 エリはそれに見覚えがあった。

「これって、あの夢で見た、『なんとか玉』だ」


 玉一個で一回願い事を叶えてくれるという。

 エリは夢でお願いした通り、狸がお墓を綺麗に掃除してくれたことを思い出した。

 あれで半玉の願い事だそうだ。


「じゃあ、半玉でタケノコ掘りお願い出来ないかなぁ」

 エリが呟いた時、手にした半玉が意思を持ったように急に跳ねた。

「きゃっ」

 突然、煙が立ち上り、エリは一瞬で視界が奪われる。


「エリさん、呼びましたか?」

 煙が晴れた時、そこに立っていたのは、夢であった化け狸、穴野むじなだった。


「あ、あのたぬきだー。夢じゃなかったの?」

「わっしは夢じゃないですよ。それでエリさん、ご用は?」

「えっ、はっ、あの、タケノコ掘りお願いしたいんだけど……大丈夫?」


 エリは一人でタケノコ掘りをする大変さを身に染みて味わってしまった。

 猫の手でも狸の手でもいいから、借りたい。


 むじなはぽんと胸叩き、快諾した。

「はいですよ、お手伝いいたします」



 手伝って貰うことになったが、こっそりエリは『どのくらい頼りになるのかなぁ』と疑っていた。

 しかしむじなはエリの想像以上に有能だった。


 クンクンと匂いを嗅いでタケノコを見付けたら、両手で素早く周囲を掘り返す。

「エリさん、こっちです」

「あ、はーい」

 エリの仕事と言えば、クワを振るってタケノコを切り取るだけだ。


 あっという間に、一ノ瀬家、井村家、エリと三軒分のタケノコ掘りが完了した。


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