第7部 第5話 軍神の盤面――関ヶ原の再来
ハクザン城の大広間。
広げられた巨大な軍地図を囲み、ルーニー、ヴァレンタイン伯爵、そして第1、第3、第4番隊の隊長たちが顔を揃えていた。
ルーニーの黄金の瞳が、地図上の駒の配置を静かに射抜く。
(……間違いない。この地形、この布陣の偏り……。これは、あの日の『関ヶ原』だ)
西から迫る我らに対し、東の要所に陣を敷くシオン王の軍勢。
だが、当時と決定的に違うのは、シオンの背後には魔族領という底なしの援軍が控えていることだ。力押しでは、消耗戦の末にこちらが潰える。
「……圧倒的な兵数差、そして背後の魔族領。……正面からぶつかれば、我らに勝機はありませんな」
ヴァレンタイン伯爵が、苦渋に満ちた声を漏らす。
「……ああ。だが、シオンの軍勢は決して一枚岩ではない」
ルーニーが、地図上の一点――シオンに従わされている「王国正規軍」の駒を指差した。
「……彼らは魔族に魂を売ったわけではない。シオンの恐怖と、人質によって無理やり従わされているに過ぎない。……彼らを内側から崩す『調略』こそが、この戦の分水嶺となる」
「調略……。シオンの手から、王国軍をこちらへ寝返らせるということですか?」
エリーゼが、謀略のプロとしての眼光を鋭くさせる。
「……そうだ。幸い、王都にはランザがいる。彼が兵たちの不満を煽り、離反の土壌を作ってくれている。……あとは、決定的な『正義の所在』を彼らに示すことだ」
ルーニーは、かつての友・三成との苦い記憶を脳裏に過らせながらも、今度は「負けない軍略」を組み立てていた。
「……マックスウェル、お前の第4番隊は最前線で『不屈の壁』となり、敵の猛攻を耐え抜け。……その隙に、エリーゼの第3番隊が敵陣の王国軍へ、秘密裏に『特使』を放つ」
「御意に。……彼らの心に、眠っている騎士の誇りを呼び覚ましてみせましょう」
エリーゼが不敵に微笑む。
「……全軍に告ぐ。この戦、単なる殺し合いではない。……迷える王国軍の同胞を救い出し、シオンという『病』を切り離す手術だと思え。……調略が成るまで、決して膝をつくなッ!!」
ルーニーの力強い言葉に、広間は熱い士気に包まれた。
前世の敗北を知る軍神が、今、歴史を塗り替えるための「知略の糸」を紡ぎ始めた。




