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第7部 第3話 暴君の咆哮――侵食される王座

「……ハッ、ハハハッ! 聞いたか、エレオノーラ! お前の産み落とした『なり損ない』が、よほど死に急いでいるらしいぞ!!」

王宮の奥深く、エレオノーラの寝所に、禍々しい圧力を纏ったシオン王が踏み込んできた。

その瞳は以前のような冷徹さを失い、どろりと濁った暗紫色の光を放っている。

「……シオン様。……相変わらず、騒々しい方ですね」

エレオノーラは、月明かりの下で静かに椅子に座ったまま、表情一つ変えずに応じた。その傍らでは、メイドのアノーラが影のように控え、密かに指先に魔力を込めている。

「貴様ぁッ……! 余裕をぶっていられるのも今のうちだ。ルーニーが旧領を奪った程度で、この俺に勝てると思っているのか!?」

シオンが咆哮すると同時に、彼の背後からドス黒い魔力の触手が溢れ出し、部屋の壁を侵食していく。

その腕には、血管のように脈動する二つの**『魔人核』**が埋め込まれていた。

「……見ていろ。俺はすでに人を超えた。魔人核二つを取り込み、魔族の力さえも我が血肉としたのだ! この国は、もはや人間のものではない。俺と魔族が支配する、絶対的な闇の帝国となるのだ!!」

シオンの肉体は、取り込んだ魔族の力によって異形に変貌しつつあった。

彼はエレオノーラの顎を乱暴に掴み、その醜悪な笑みを近づける。

「ルーニーがここへ辿り着く頃には、この王都は魔族の巣窟だ。……お前の息子が絶望の中で死にゆく様を、特等席で見せてやるッ!!」

シオンは狂ったような笑い声を残し、嵐のように去っていった。

一人残されたエレオノーラは、顎を拭うこともせず、ただ静かに窓の外を見つめた。

「……あの子は、負けません。……今のあなたには見えない『義』の光が、あの子にはあるのですから」

一方、ハクザン領――。

シオンの狂気が王都を覆う一方で、ハクザン城には「希望」の光が集結していた。

地平線を埋め尽くすように進軍してくるのは、エヴァの父・ヴァレンタイン伯爵率いる精強な魔導軍。その数、五千。

そして、その横に並ぶのは、白銀の甲冑に身を包んだ一団だった。

「――第3番隊長エリーゼ、聖騎士団を率いて、ルーニー様のもとに参上いたしましたッ!!」

凛とした声と共に、ハクザン家直参・第3番隊長であるエリーゼが、軍馬から降りて膝を突いた。彼女が率いるのは、シオンの圧政に反旗を翻した教会の「聖騎士団」。魔族の力を取り込んだシオンに対抗しうる、唯一の聖なる力を持つ軍勢だ。

バルコニーに立つルーニーは、眼下に広がる壮大な軍勢を見つめ、静かに頷いた。

「ヴァレンタイン伯爵、エリーゼ。……よく来てくれた。……皆の『義』、確かに受け取った」

ルーニーの隣には、父との再会に目を潤ませるエヴァ、そしてゲオルグやテイラーといった信頼する臣下たちが並んでいる。

「……敵は王都。……母上を救い出し、この国の闇を払う。……全軍、進軍の準備をせよッ!!」

ルーニーの力強い号令が、ハクザンの空に響き渡った。

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