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第7部 第2話 月下の誓い――後宮の暗闘

王都・白亜の宮殿。

かつて平和の象徴であったその場所は今、シオン王の執念と狂気が渦巻く檻と化していた。

青白い月光が差し込むバルコニーに、一人の女性が佇んでいた。

シオンによって無理やり王妃の座に据えられた、ルーニーの母――エレオノーラ。

彼女は、窓の外に広がる夜空を見つめ、ただ静かに、祈るように立ち尽くしていた。

「……夜風が冷え込みます。エレオノーラ様」

背後から音もなく現れ、彼女の肩に薄いショールを掛けたのは、長年彼女に仕えてきたメイドのアノーラだった。

一見、慎ましやかな使用人にしか見えない彼女の正体は、ハクザン家直参――第5番隊長。

潜入と暗殺、そして護衛の極致を極めた、ルーニーが最も信頼を寄せる影の一人だ。

「……アノーラ。今夜は、風が騒がしいわ。……あの子の、ルーニーの匂いがするの」

エレオノーラが微かに微笑み、声を落として囁く。

アノーラは周囲の気配を殺したまま、主の耳元で、風の音に紛れるほど小さな声で応じた。

「……お察しの通りです。……ルーニー様が、ハクザン城にて旗を上げられました。魔将ランガを討ち、旧領を完全に奪還されたとのこと」

その言葉を聞いた瞬間、エレオノーラの細い指先が、バルコニーの手すりを強く握りしめた。

「……そう。……あの子が、ついに」

「はい。第2番隊長のランザがすでに王都内で扇動を開始しております。ヴァレンタイン伯爵も反旗を翻しました。……ルーニー様がこちらへ軍を進めるまで、あと少し。どうか、もう少しのご辛抱を」

アノーラの瞳には、普段のメイドとしての柔和さはなく、主君の母を守り抜くという猛き「武人の意志」が宿っていた。

彼女がこの後宮に潜伏し続けてきたのは、すべてはこの「反撃の日」に、内側から門を開き、エレオノーラ様を救い出すためだ。

「……ええ。分かっているわ、アノーラ。……私は、あの子がこの城の門を叩くその時まで、決して屈しはしない」

月光の下、二人の女性は言葉を交わすのを止め、再び静寂に戻った。

だが、その心には、シオン王の圧政を焼き尽くすほどの「反撃の炎」が静かに、しかし激しく燃え上がっていた。

一方、その報告は、冷酷な玉座に座る王シオンの元にも届こうとしていた――。

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