表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/102

繋がる旅路

フィリップはマーカスの発した言葉に一瞬たじろいで、後ろにへたり込みそうになった。

瞬きを数回して、尋ねる。


「さ、猿真似とは・・・一体どういう意味だ?」


マーカスは自分の席に腰を落としなおす。


「言葉の通りなんですが、分かりませんか?

猿が人間の動作を真似るように、人間も猿でも何でもいい、動物の真似をするんですよ。」


「動物の真似をするとどうなるんだ?」


「AIが人間を、人間と認識できない可能性があるんですよ。」


「いやいや・・・そんな馬鹿な!?

人間は人間だろ!?」


ミラーはマーカスの説明が冗談にしか聞こえなかった。


「そうですか?

では、どうしてペマは殺されなかったんですか?」


「そ、それは・・・犬が邪魔だったんじゃないか?」


「ミラー、本当にそう思ってますか?」


「あ、ああ~、犬がいたんだ、そうとしか思えない。」


「レオン、すいません。

その動画の3時間34分辺りを再生させてください。」


マーカスはレオンの方を向き、静止中のジョーの動画の再生を指示する。


「ん? あ、ああ・・・この動画でいいのか?

ペマの方の動画じゃなく?」


「その犬目線がいいんです。」


「わ、わかった・・・」


レオンはそう言うと、モニターに向かいタブレットを操作する。

マーカスを囲んでいた輪が、モニターを見るために広がっていく。


「3時間34分だな・・・再生するぞ。」


モニターに動画が再生される。

画面上にジョーの見上げた顎があり、その先には画面に入りきれないドローンが空中に浮いており、激しい風に砂が画面に向かって飛んでくる。


ジョーが吠えるたびに画面が激しくブレる。


(こいつ・・・何してるんだ?)


ペマの声がかすかに聞こえ、その後ジョーの左側にペマの腰が入ってくる。


そして、さらに歩いて行く。

ジョーは唸りをやめ、ペマの方を見る。

ペマは左手を広げ、ジョーに大丈夫と伝えている。


ペマはジョーよりもドローンに近づいていた。


「う、嘘だろ・・・」

誰かが呟いた。


ペマ視点の動画ではジョーの位置は確認できなかったが、ジョーの動画ではペマの位置がハッキリと分かった。


「これが、動物に守られてますか?」


マーカスが尋ねた。


「・・・・・・・・・。」


誰も反論できなかった。


「なんでアンタは、見てない犬の動画の内容を知ってるのよ?」


アリサが尋ねると、マーカスは真面目な顔して答える。


「え? 内容なんて知りませんよ。」


「何言ってるのよ! 時間も指定したし、証明できるって分かってたんでしょ?」


アリサの問いに、マーカスは“ああ~”という顔をする。


「時間は、ペマの動画とジョーの動画のずれを計算しただけです。

証明の方は、映像から位置関係を頭の中で描けば、動きの予測ができますけど?」


部屋の全員が唖然とする。


「そんなことできるのはアンタだけよ。」


アリサは、あきれた顔をして嫌味を言った。


「はぁ・・・ありがとうございます。」


「そういうところよ!」

「まあまあ・・・」

アリサが指さして怒ると、ケンが腕を前に出して止める。


「本当に、騙せるのか?」


「検証はしてませんからね・・・

四肢が全部ある人間がやってみないと、わかりませんけど・・・

まあ、襲われそうになった時にでも、対処してみれば検証できるんじゃないんですか?」


「まあ、検証しろって言わないだけ、マシだな・・・」


フィリップは、前に『犬でも連れて散歩しろ』というマーカスの言葉があったのでそう切り返した。 そして、マーカスの前から立ち上がる。

マーカスがフィリップの動きを追うように視線を上げる。


「次のアリ天文台との通信で確認してみてください。

きっと鍵があるはずですよ。」


マーカスの言葉にフィリップは視線を落とし、マーカスに向かって分かったと手を開き、何度か小さく頷く。


「アリ天文台との通信は、次が最後になる。

参加できる者は全員参加してくれ。」


フィリップがそう言うと、レオンとケン以外が驚く。


「最後って・・・どういうことです?」


部屋がざわつく中、アリサが尋ねた。

フィリップが悔しそうにこぶしを握り、絞り出すように口を開く。


「・・・実は・・・アリ天文台はすでに壊滅している。」


衝撃発言に部屋の中の雑音が大きくなる。


「それなのに、動画が届いた? どうして?」


フィリップはアリ天文台の顛末を一つずつ説明しはじめる。


アリ天文台の一番近い都市がNOBUNAGAに乗っ取られていたこと。

山の中に建設されていた中国軍の秘密基地が完全にNOBUNAGAの基地として活動を始めたこと。

その秘密基地のせいで、ドローンの活動が活発になり、人の少ない集落ですら攻撃を始めたこと。

そして、アリ天文台も同じように攻撃される予測を立て、レーザー通信搭を守る為に、天文台で働いていた人達が、自分達を餌にしたこと。


アリ天文台のあまりの結末に、クルー達は衝撃を受け、誰一人声を発せられなかった。


フィリップが口を開いて、クルーを鼓舞する。


「このまま、ただうな垂れていても埒が明かない。

我々はアリ天文台のスタッフから、残る人類の為にバトンを渡されたんだ・・・


天文台の最後は我々の心に常に残そう。

それが、バトンを渡された我々の使命でもある。

そうだろう?」


そう言って最後にフィリップは、ブリーフィングルームのモニターに平手を打ちつけた。


バンッ!


「そうだな・・・その通りだ。

そして、NOBUNAGAへの怒りがオレ達を強くするんだ。」


ミラーはこぶしを強く握りしめ、爪が刺さり、血がにじんでいた。

その様子にアリサが気づく。


「ミラー、自虐はやめなさい。」


ミラーはハッとして、手を広げると、傷がいくつもあった。


「ああ、もう・・・アンタも大概にしなさいよ。

ほら、これを両手で挟んでおきなさい。」


アリサはミラーの手に自分のハンカチを押し当て、もう片方の手をその上に被せた。

マーカスは背もたれにもたれ、天井の明かりを見上げる。


「私に身を捧げるなんてできるだろうか・・・考えるだけで恐ろしいですね・・・」


そんなマーカスにハワードとドミトリーが顔を近づける。


「班長はいざとなったやりますよ。」

「そうそう、ネジ外れてるぐらいが丁度いいですよ。」


ハワードがそう言って口角を上げる。


「ははは、そうでしょうか?」


徐々にブリーフィングルームにざわめきが戻って来る。

その様子をフィリップは見回して確認していく。


(もう大丈夫のようだな・・・)


フィリップが口を開く。


「ケン、次のアリ天文台とのウインドウは何時間後だ?」


ケンは自分の端末を操作して確認する。


「約19時間後です。通信可能時間は昨日より短くなります。」


「短くなる?」フィリップが確認する。


「ええ、アリ天文台との位置関係上、

太陽が沈んだ後の時間、月も地平線に近いです。


その為、月が沈むまでの短い時間となります。」


「何もかもが悪い方向だな・・・」


フィリップが口を真一文字にして眉を寄せた。


「そんなことないでしょう。」


レオンがそう言うと、フィリップが視線を送る。


「どういうことだ?」


「さらに次の日になると、もっと短くなっているんです。

動画の受信ができたかどうか・・・

月のない夜・・・受信できないタイミングだったとすると、次は日の出までの短いタイミングです。


それと水のことを考えれば、タイミング的に間に合ったってことでしょう?」


レオンの説明を聞いて、フィリップの表情が柔らかくなる。


「そうだな・・・確かに人類に必要な動画を手に入れる、

最後のタイミングだったのかもな・・・」


「ええ、奇跡のタイミングだったんです。」


「奇跡のタイミングと、奇跡の動画」


ブルッとフィリップは身震いをさせる。

思いが重なり、瞳が揺れた。


――― 約19時間後、シャックルトン基地(管制室)


アリ天文台と、最後のウインドウが近づく。


レオンがフィリップに近寄って話しかける。


「観測班からの報告が入りました。

アリ天文台周辺は、雲一つない晴天だそうです。」


「天が我々に味方した・・・?」


「ええ、最後のタイミングで・・・これはまさに奇跡ですよ。」


レオンの言葉に、フィリップは全身に鳥肌が立った気がした。


ケンは通信機器のモニターを見て、報告する。


「トラッキング完了! 通信、確立しました。」


ヘッドセットのマイクを口元へ動かし、機器のスイッチを押す。


「こちらシャックルトン基地! アリ天文台! 聞こえますか!?」


(・・・・・・こちらアリ天文台、ツェリンです。感度は良好、よく聞こえます。)


「こちらも感度良好です。動画も無事確認できました。

――本当に素晴らしい動画でした・・・クルー全員が感謝しております。」


(・・・・・・・・・・・・役に立ってよかったと、ペマが言ってます。)


「今日は時間も少ないので、さっそく担当に変わりますね・・・」


ケンがヘッドセットを差し出す。

マーカスがそれを受け取り、頭にセットする。


「初めまして、技術班の班長をしているマーカスです。」


(・・・・・・初めまして、マーカス。

私はツェリン、もう一人はペマ。そして、チベタン・マスチフのジョーがここにいます。)


「よろしく、ツェリン、ペマ、ジョー。

早速ですが、動画を見て気になった点を、質問させてもらえますか?」


(・・・・・・はい。どうぞ。)


「ペマは身体的に欠損している部分があるようだけど?」


(・・・・・・はい、ペマは右腕の二の腕から先、右の太ももから先がありません。)


管制室で聞いている他のクルーたちがざわつく。


「初めてドローンと接触した後、何かありましたか?」


(・・・・・・伝言で会話すると時間がかかるので、本人に代わりますね。)

(・・・・・・ペマです。初めてドローンと遭遇した後は、ツオ・モリリの避難キャンプ地に指令がきて、この旅に出たあと・・・すぐだったかな?)


「その時にも接近を?」


(・・・・・・ううん、ただ遠くから監視されてる感じだった。)


「監視・・・ということは、ずっと監視されてたってことでしょうか?」


(・・・・・・うん、夜は・・・“いるか”、“いないか”わからなかったけど、

ジョーは何かを感じ取っていたよ。)


「夜は、普通に寝れたってことでしょうか?」


(・・・・・・うん、普通に寝れたよ。

ジョーは危険があるとすぐに起こしてくれるから。)


マーカスはマイクの前で腕を組んで考え込む。


《監視してるのは、何をしてるんだ?

動画の時に“人間じゃない”と判断したんじゃないのか》


黙り込んで考え込むマーカスを、後ろで見ていたフィリップが、頭を近づけ耳元でささやく。


「考え込むのは後にしろ、時間がないぞ。」


フィリップの言葉にハッとする。


「では、旅の道程では監視されるだけで、何も危険はなかったということでしょうか?」


(・・・・・・・・・・・・)


向こうから、何も返答がなかった。


「ペマ?」


(・・・・・・すみません・・・その後は、PTSDのきっかけとなった事件が起きたので、

ちょっと今しゃべれなくなってます。)


ツェリンの言葉に、管制室内に冷たい空気が流れる。


「マーカス、聞いちゃダメよ! PTSDが悪化する可能性があるわ!」


後ろからアリサが慌てて伝えてくる。

マーカスは後ろを振り返る。


「あなたも経験したでしょ? あの時のあなたに起きた症状よ!」


マーカスがヒュッ…と息を飲みこむ。


首筋に冷たい汗がジワリと滲んだ感覚がマーカスを襲う。

マイクのスイッチを握る手がブルブルと震える。


「ど、どうすれば・・・時間も少ないというのに・・・」


そんな時、ペマの声が響く。


(・・・・・・だ、大丈夫! しゃ、しゃべるよ・・・あたいがしゃべらないと・・・

あの時、死んだ人たちに申し訳ない・・・)

(ペマ、私の手を握ってて・・・)


向こうでのやり取りがかすかに聞こえた。


(・・・・・・あれは4日目だったかな・・・ある村にたどり着いたんだ・・・

村に近づいたら、農作業している人たちが・・・・・・あたいに気づいて・・・・・・)


(・・・・・・大声であたいを呼んで・・・・・・あたいもうれしくなって、大声を出しちゃって・・・それでドローンを呼び寄せちゃって・・・・・・

あたいは馬に乗ってたから・・・平気で・・・・・・でも、村人たちは・・・・・・ううっ・・・)


流れてくる音声に、アリサは口元を押さえ、

眉が何度も上下して瞳が揺れる。何かに耐えているようだった。


「マーカス・・・やめさせて・・・」


(・・・・・・目の前で・・・切り刻まれて・・・・・・あたいが来たことで、村が襲われたって・・・・・・あたいに・・・あたいが死神だって言われて・・・ヒック・・・ヒッ・・・)


「もういい! ペマ! もうわかったよ・・・それ以上、思い出さなくていいよ・・・」


マーカスがペマを止めた。

これ以上ペマを苦しませたくないことと、聞く必要がなくなったからだ。


(・・・・・・・・・――)

(・・・・・・ペマは、この後倒れていたんです。 それを私が保護しました。)


ツェリンの音声が響いた。


「その後の村の様子を知りたいんですが・・・」


(・・・・・・夜だったんで、細部までは分かりませんが、近くに動く村人は一人もいませんでした。

あちこちに分断された体が、嫌な焼けた匂いを放っていました。)


ツェリンは、その後の話を説明した。

ペマを保護して、アストロノミカル天文台へ連れて行ったこと。

ペマが撮影したドローンの動画を見たこと。

馬に乗れるツェリンが、ペマの旅に同行したこと。


そして、ついに欠けていたピースが埋まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ