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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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90/106

認識の外側

――― 10月22日 シャックルトン基地


ケンはウィンドウが開いたアリ天文台との交信を試みていた。


「アリ天文台! こちらはシャックルトン月基地! 聞こえましたら、応答をお願いします!」


ケンの様子を見ていたフィリップが険しい表情に変わっていく。


(頼む・・・人類の灯台は・・・無事だという事実が欲しい・・・)


レオンがケンの側へと近づくと尋ねる。


「いったいどんな状況なんだ?」


ケンはレオンの方に向き直して説明する。

だが、表情に余裕がなかった。

眉間にしわを寄せ、状況が悪化していることが伝わる。


「レーザー通信の1発目には反応するんです。

こちらからのビーコンには返事は返ってきてます・・・・向こうからのキャリア波は掴めているんですが・・・

――ですが、次の同期プロトコルが起動しないんです。」


「それは・・・どういうことだ?」


ケンは俯きつつ説明する。


「機器は正常に動作してます。

ですが、操作が必要なところが動作してないんです。」


「操作が必要なところが動作しない・・・?」


レオンは首を少し傾げ、耳をケンに向け、聞き逃しがないように顔を少し近づける。


「・・・アリ天文台に・・・人がいないってことです・・・」


ケンは、その言葉を言いたくなさげに、つぶやくように口にした。

その言葉は重い。レオンも、他のスタッフに聞かれないよう、さらに顔を近づける。


「人がいないというのは・・・攻撃があった可能性か?」


「機器の反応があるので、完全に沈黙しているわけじゃありません・・・

仮に攻撃を受けていたとしても、レーザー通信の施設は生き残っています・・・


昨日から他の天文台との通信でわかったんですが・・・アリ天文台周辺・・・ガリ地区・・・徐々に侵略を受けてるというやり取りを、アリ天文台のスタッフとしてたようで・・・」


「侵略? 新型の死神か?」


「・・・わかりません。

こればかりは・・・誰も見ていないんで・・・」


二人のやり取りを見ていたフィリップが気になって呼ぶ。


「レオン! ケン!」


二人が振り返ってフィリップを見ると、フィリップが手招きをする。

レオンがすぐにフィリップに向かう。

その動きを見てケンが立ち上がって続いた。


「どうした? トラブルか?」


フィリップの問いにレオンが口を開く


「アリ天文台に――・・・」


―――


説明を受けたフィリップは椅子の肘掛けに肘をつき、項垂れて両手の人差し指で眉間を押さえる。

レオンとケンは、フィリップの命令をただ黙って待っている。


「アリ天文台が攻撃された可能性は否めないんだな・・・・・・」


「あくまで、可能性ですが・・・」


レオンが答えると、ケンが補足するように口を開く。


「南極の・・・南極基地の状態に近いです・・・、機械だけは残滓だけで動いているような・・・」


ケンはそれ以上、言葉を紡げず黙り込んだ。

フィリップは大きなため息をついて、天を仰ぐ。

そのまま、瞬きを数回してジッと天井を見つめる。


(生き残った天文台が、これ以上減ってしまってはネットワークが築けないぞ・・・

何か抜本的なシステム構築が必要かもしれんな・・・)


――― チベット 同日


前日の中国軍の基地を離れて進むと、ルート上に存在する建物にはミサイルが降り注いだのだろう。

焼け跡と衝撃でできた穴が無数に広がっていた。辺りには基地と同じように引きちぎられた死体が乾いた大地に転がっていた。


二人は、その死体が見当たらなくなった辺りで、キャンプをした。

ただ、死体を漁った野生動物が心配で、交代で馬の番をして夜を過ごした。


――― デムチョクから中国領内40キロ付近


朝を迎え、二人は眠い目をこすりながらアリ天文台へとできるだけ急いでいた。

道程が遅れていることもあるが、昨日破壊された中国軍基地の破片の中国語が気になってしょうがなかった。


インダス川に沿って道は続いていく。

川の水量が多いので水がうねりを上げている音が時折聞こえてくる。


「最近、ドローンを全く見かけなくなったけど・・・何でだろうね・・・」


ツェリンが空を見上げながら、独り言のように呟いた。

ドローンを最後に見たのは、ツェリンが襲われた時だった。

それから5日経過したが、ドローンは影すら見せなくなっていた。


「襲われる心配をしなくていいけど、逆に怖くないかい?」


そう言いながら、見上げた顔をペマに向ける。


「あたいも、それ思ってた・・・

ツォ・モリリを出てから、あれだけ執拗に監視してたくせに、

興味が無くなったような・・・そんな感じがするよ。」


「興味? ・・・それって何?」


「動画で見たでしょ・・・あの時、感じたんだ・・・『コイツは何者だ?』ってそんな興味・・・」


ペマはそう言って、義足の右足に視線を落とした。

そのペマの言葉を聞いて、ツェリンは「何言ってるの?」って顔をした。


「何者って・・・人間でしょ?」


「そうなんだけど・・・う~~ん・・・そんな感じがしたんだってば!」


ツェリンの真面目な返しに、ペマは説明の言葉が見つからず、腕をブンブンと振りながら、アピールだけした。

そんなペマを見てツェリンは笑いながら「わかった。わかった。」と手のひらを上下に振った。

そんな態度を見て、ペマは頬を膨らませた。


「もういい!」


そして、アスファルトの道の先を見据えた。


―――


途中、道は分かれ道に差し掛かる。

片方の道は北東方面で、その先は川幅が狭くなったインダス川に、頑丈な橋が築かれていた。

もう片方は、まっすぐ東南へと進んでいた。


ペマは地図を広げて確認する。

その地図を見ようと、ツェリンが馬を寄せてくる。


ペラ…


ツェリンは地図に引かれた線を追いかけて、折りたたんだ地図をめくる。


「ここだ・・・」


地図から視線を外し、北東を指す。


「橋を渡るルートみたいだね。」


そう言ってツェリンを見る。


「目的地はもう近いよ・・・」とツェリンが北東を見て言った。


「行こう!」


ペマはソナムの向きを変え、橋を渡っていく。


―――


「・・・・・・」


ジョーが耳をピクピクさせ、右を向く。

その動きにペマが気づいて尋ねる。


「何かあった?」


ジョーは耳をピクピクさせる。

ペマはソナムの歩みを止め、左手を耳の後ろに当てて耳をすます。


「ペマ、どうし――」

「シッ!」


ペマは手と口でツェリンを制止すると、目を伏せ少しずつ首を回していく。


「・・・こっち・・・ダメ・・・危険・・・」


小声が聞こえた。

ペマは目を開けて声のした方を見つめると、ツェリンに伝える。


「だ、誰かいるよ。」


そう言って、ソナムから降りて、ジョーに指示する。


「ジョー、どこにいる? 見つけて!」


そう言うと、ジョーは声のした方へと走って行く。

ペマとツェリンは手綱を引きながら、ジョーの向かった先へと歩いていく。


向かった先にはくぼ地があり、その底にジョーの尻尾が見えた。


「あれ?」


くぼ地の底は砂だったが、ジョーがいる場所にはありえない影が出来ていた。

ペマは目をこすって確かめるが、まさしく影だった。


二人はくぼ地を降りていくと、影の正体が分かった。

くぼ地の底には屋根が作られており、その屋根の上には砂をかけて見えにくいように偽装してあった。


「わ・・・ちょ・・・やめ・・・おねがい・・・」


屋根の下に入っていくと、その空間は意外に広く30平米ほどあった。

屋根は工事現場にあるパイプ管で骨組みされ、くぼ地に差し込んであり、縦の強度を取る為に柱が2メートルおきにずらりと地面に突き刺さっている。

柱の数は多いが、意外に生活には邪魔にならない。


そして、その屋根部分のパイプ管の上には、中国軍の物と思われる濃い緑色と薄緑の迷彩模様の防水シートがかぶせられており、その上に先ほど外から見たように、砂が被せて偽装されていたのだ。


そこには5人の子供がいた。

ジョーは、先頭で後ろの小さな子たちを守る男の子の顔を、大きな舌で舐めていた。

後ろの4人は抱き合って震えている。


「ジョー、ストップ!」


ペマがそう言うと、ジョーは舐めるのを止めて、振り返って尻尾を振る。


「君たち・・・こんなところで何してるの?」


ツェリンは腰を折って、子供たちに尋ねた。


「敵から隠れてる・・・」


「敵ってなに?」


「空を飛んで来るやつ・・・」


そう言われてツェリンは腰を伸ばして、ペマを見る。

ペマはコクリと頷き、子供たちの方を見て尋ねる。


「ねえ・・・さっき何を言ってたの?

小声だったからよく聞こえなかったんだ。」


「そっちの道は危ないって・・・敵がうようよいるから。」


男の子はそう言って、ペマたちが進もうとしていた道の北東を指さした。

その指さす方を一度見て、視線を戻しニコリと笑った。


「教えてくれたんだね。 ありがとう。」


ペマがそう言うと、男の子は笑顔になった。

ツェリンがパイプ管の天井を見上げ、手を添えながら尋ねた。


「これは君たちが作ったんじゃないよね?」


男の子はツェリンが手を添えるパイプ管を見て、天井を見上げながら答えた。


「この秘密基地は、大人が作ったんだ。」


「その大人は一人?」


男の子は、指を折りながら数える。


「6!」


「その6人はどこへ?」


「みんな殺された。」


「――ツッ・・・」


その答えに、ツェリンは言葉が詰まった。

ペマが話題を変えようと男の子に尋ねる。


「ねえ、みんなの名前教えてよ?」


「・・・僕はリジン。

この子達は、ダワ、パサン、ニマ、タシ」


リジンは、他の子を指さしながら名前を教えた。

リジンの説明によると、リジンは10歳、ダワが7歳、パサンは5歳、ニマは4歳、タシが3歳とのことだ。

ペマはツェリンを見て尋ねる。


「この子達・・・どうしよう?」


「連れていくってこと!?

アリ天文台に連れていくのは危ないよ。」


「でも、放ってはおけないよ。」


ペマは両手を広げてツェリンにアピールする。

その様子にツェリンは少し考えたあと、義足に手を添えながら腰を落としてリジンに尋ねる。


「ねえ、リジン。

君たち私たちと一緒に来る?

来るなら帰りに迎えに来るけど・・・」


リジンはすぐに首を振る。

それにペマが反応する。


「え? なんで? ここにいると危険だよ?

食べ物だってなくなるよ。」


「大丈夫。 敵の騙し方は分かってるから・・・

食べ物は沢山あるから大丈夫。」


「食べ物たくさんあるの? え? 騙し方・・・?」


リジンは、ダワに「手伝え」と言うと、二人で近くにあった木箱を重そうに持ってくる。


「これ・・・」


ペマが木箱を開けると、中にはB5サイズぐらいの長方形の箱が大量に入っていた。

顔の前まで一つを持ち上げて見ると“13式餐譜1”という文字が大きく書かれていた。


「なにこれ?」


「こ、これ、レーションだよ!」


覗き込んだツェリンが驚いた声を出す。 続けてリジンに尋ねる。


「これ、どうしたの?」


「外にたくさんあるよ。」


「えっ!?」


ツェリンがくぼ地の縁まで登っていく。 ペマは入口の所でそれを見つめた。

ツェリンは、縁の所で周囲を見回した後、縁の外へと歩いていく。


カッカッカッ……


蹄が固い大地を蹴る音がして、次第に遠ざかって行った。

ペマは気になり、縁の所まで登っていく。

周囲は30メートルほどの丘がうねっていた。

西と東方面の丘のうねりの隙間に何かが見えた。


「あれ、なんだ?」


「深い穴が掘ってあるんだよ。」


「穴?」


ペマが声のした方を見るとリジンが四つん這いになっていた。


「お姉さんたち、なんで普通に歩けるの?」


「え? なにが?」


「普通に歩いてると、敵が襲ってくるでしょ?」


「あ~、動物と一緒にいると襲われないんだよ。」


リジンはペマの横にいるジョーを見る。


「へえ~、そうなんだ・・・」


ペマもリジンが四つん這いになっているのが気になって尋ねる。


「なんで・・・そんなカッコしてるの?」


「こうやって歩くと襲われないんだよ。」


リジンが四つん這いで歩いて見せる。

膝を曲げて、手と足の長さを合わせて腰を落とし、

右手を前に差し出して、右足をその後に動かす。

あとは、左も同じように動かすと、ノロノロだがスムーズに歩いていく。


「早く動けないけど・・・」


「へえ~、そうなんだ~。知らなかった~。」


ペマはそう言って、感心する。

そこにツェリンが砂煙を上げながら戻ってくる。


「中国軍の塹壕がすごい規模であるよ。

中には大量のレーションの木箱が置いてあって・・・

多分、向こうもそう・・・」


ツェリンは、そう言うと今来た方向とは逆の東側を指さした。

ペマがその方向を見ると、確かに丘の影に何かがあるのがわかる。


リジンは、ツェリンの乗る馬に興味津々の顔をして近づいていく。

その動きを見て、ツェリンが尋ねる。


「リジンは何やってるの?」


後ろ足の所に来たリジンに、ノルブは尻尾を振ってリジンの顔に当てる。


「わわわっ!」


尻尾を顔に当てられ、リジンは笑顔になった。

左右からやってくる尻尾を両手で掃って遊び始めた。


「この歩き方だとドローンに襲われないんだって・・・」ペマが答える。


「え? なにそれ?

さっき言ってた“騙す方法”ってこと?」


ツェリンは答えたペマを見て、リジンに顔を向けて尋ねた。

リジンはノルブの尻尾と戦いながら、首を縦に振る。

ペマとツェリンは首を傾げる。


「どういうことなのかね・・・?」

「なんでだろう・・・?」


「僕もわかんない。

けど、大人が襲われている時に、一番年下のタシが歩けなくて、

手をついて這って移動したら、大丈夫だったんだ。

それを見て、僕たちも真似したら・・・」


「生き残ったと・・・」


「うん。」


ビュウゥーッ!!


強い風が吹き、砂が“ブワッ”とペマ達を襲う。

冷たい風と砂から逃れようと、全員が肩をすぼめて、風下に体を捻った。


ツェリンが空を見上げると、すでに太陽は西に広がる5000メートル級の尾根に近づいていた。


「今日はここでキャンプするしかないね・・・」


ツェリンの声にペマが顔を太陽に向ける。


「そうだね・・・今日はここまでだね・・・

ここからなら明日、アリ天文台にはつけそうだね。」


「お姉さんたち、泊ってくれるの?」


リジンがノルブのしっぽをつかみながら尋ねた。

その問いに、ペマとツェリンが驚く。

いつものようにテントを設置する予定だったからだ。


二人は顔を見合わせると、ツェリンがペマにウィンクした。


「リジン、泊めてくれる?」


その問いに、リジンは満面の笑顔を見せ、胸を叩く。


「もちろん!」


ペマとツェリンは馬たちをくぼ地の底へと誘導し、入り口の傍に杭を打って馬たちのねぐらを作っていく。


リジンたちは、巻き取って開いていた入り口の防水シートを元に戻して入り口を塞ぐ。

太陽が尾根に沈むと、あっという間に世界は真っ暗になっていった。


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