表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/106

風止みて、旅は再び

――― 10月20日AM3:00 デムチョクから北西へ約25キロ地点


ビュウ!ビューッ…ビュ……ヒュゥーッ………


店舗に響く風の音が次第に静かになり、ジョーが頭を持ち上げる。

窓の外はまだ暗かった。


舞っていた砂が次第に薄れていくと、上空に細い月が見え始めた。

ジョーはその様子を見て、目の前で寝ていたペマの首筋に鼻をつける。


「わあっ!!」


ペマは首筋を押さえて、飛び起きた。

その声にツェリンも目を覚まし、首を上げて目をこすりながら確認する。


「ペマ~~~っ、どうかしたの~~~?」


ペマはジョーを睨んで怒鳴った。

「ジョー、その起こし方やめろよ!!」


ジョーは頭を窓に向ける。


「ん?」


ペマはジョーの視線を追う。

そこには、なんの音もなく窓から差し込む淡い光の筋があった。


「あーーーっ!!」


三日間、聞き続けた吹き付ける風の音がなくなっていた。

慌ててペマは起き上がり、ピョンピョンと片足で窓際に近づいていった。


窓から外を覗き込むと、空には細い月が浮かんでいた。


「ツェリン! 風止んでる!!」


その声に寝ぼけていたツェリンがハッとして、起き上がった。


「ほ、本当!?」


そう言って立ち上がり、ペマと同じように片足でピョンピョンと窓際へ寄っていく。

窓の両端に両手をつけて外を見る。


細い月の放つ微かな光で、防風用の石壁がはっきりと見え、その先には山脈が見えた。


「おおぉ・・・やっと止んだか~・・・どうする? すぐ出発する?」


ツェリンはペマを見て尋ねた。

ペマは腕時計を見る。

時間は3時20分を指している。


「荷物はもうずいぶん前に準備出来てる。

朝ごはん食べても4時ごろには出発できそうだね。」


「わかった。 私は馬たちに餌を与えてくるよ。」


ツェリンはそう言うと、義足をはめて、ズボンを穿いていく。

上着を羽織り、前を閉じてドアを開けると、冷たい空気に顔をしかめた。


パタン!


ドアが勢いよく閉められた。

ペマは、夜の間に弱まっていた薪ストーブに追加の薪を放り込む。

すぐに新しい薪は温められ、火がつくと一気に発火して明るい光を放ち始めた。


ストーブの上に置かれていたヤカンから鍋にお湯を注ぎ、ヤカンに新しい水を入れる。


「さて、3日ぶりにバター茶作ろうかな。」


嵐の最中は、カロリーが必要なかったので、ツェリンの持っていた即席の食べ物ばかりを食べていた。

だが、今日から再び旅が始まる。

ペマは旅に必要なエネルギーを摂れるよう、バター茶とツァンパを用意するのだった。


―――


二人は馬たちに鞍をつけ、出発の準備をしていた。

ツェリンはノルブに荷を乗せながら、ペマに確認する。


「ペマ・・・さっき、ご飯食べながら話したけど、デムチョクまで約30キロ。

どうする? 手前でキャンプするか、先でキャンプするか・・・?」


ペマは手を止めて、プンツォに取り付けようとしていた荷物に視線を落とす。


「――道程が遅れちゃってるけど・・・被害出したくないし・・・手前かな・・・」


「オッケー! じゃあ、いつものペースで行こう。」


ツェリンは一度ペマを見て、小さく頷き作業へと戻る。

ペマは星空を見上げて、ドローンのことを考える。


(・・・・・・あの嵐の中、アイツらはどうしていたんだろう・・・?)


―――


出発準備が終わると手綱を引き、馬たちを石壁の外へと引いていく。


「さあ、行こうか!」


ツェリンが、ペマを見て言った。

ペマは頷き、馬たちの方を見る。


「やっと動けるね。 ソナム、プンツォ、頼むよ!」


ペマはソナムの首を軽く叩き、プンツォに視線を向ける。

ソナムは耳を回し、プンツォは歯を見せて鼻を鳴らした。

そして、ペマは鐙に足をかけ、ソナムに跨った。


「行こう!」


そして、二人と四頭は、バターランプの明かりを頼りに、暗闇の中へと溶けていった。


―――AM8:00


山の頂から、刺すような眩い光があふれ出す。

氷点下の冷気に晒されていた砂と岩が、遮るもののない直射日光に叩かれ、表面の霜が一気に気化して「シュー…」という微かな音を立てた。


「なんか、久しぶりの太陽って感じだね・・・」


ツェリンはそう言いながら、山から登る太陽を眩しそうに見つめた。


まだ吐く息は白いのに、服がジリジリと焼かれ、凍えた体に熱が染み込んでくる。

先ほどまで極寒だった場所は、ユラユラと荒野の輪郭が歪み始めた。


久しぶりに見る空の青がまぶしかった。

ペマは目を細め、周囲をきょろきょろと確認する。


「ジョー、あいつらの音する?」


ジョーはしっぽを振った。

ペマはその動作を確認して、ボソリと呟く。


「・・・まだ、見つかってないのか・・・?」


「さすがのドローンでも、あの嵐の中は飛べないんじゃないかい?」


ペマのドローンを探す様子に、ツェリンが自分の考えを伝えた。


「えっ? ドローンってそういうものなの?」


「私たちも仕事でドローン飛ばすことあったんだけど、風の強い日は機体が安定せず、カメラがブレて使いものにならなかったねえ・・・」


ツェリンは眉をひそめ、思い出すように続ける。


「さすがに私たちが使っているのは20メートル級のドローンではないけどね・・・

でも、絶対影響はあると思うよ。

あと、あの砂嵐も機械には良くないはず・・・」


「・・・ってことは・・・?」


「砂嵐が始まった位置から、私たちを見失ってると思う・・・しかも、3日も時間は過ぎてるわけだし。」


「それって良いことだよね?」


「現状は、このまま現れなきゃ、明るい時間帯でも集落を抜けれるかもね。」


「おお・・・本当にそれが出来れば予定通り進めるね。」


ペマの顔がパッと明るくなった。


この予測は、半分は合っていた。

実際に強風による砂嵐をドローンは苦手にしていた。

エアの吸込口のフィルターの目詰まりや、回転するモーター部分にこびりつく砂は、動作後のメンテナンスを必要とするほどダメージを与える。

だが、NOBUNAGAはドローンなど使い捨てとして考えるため、故障など気にはしないのが現実だった。

そしてまた、ドローンは砂嵐が始まる3日前からではなく、4日前から姿を消していた。

ペマとツェリンは、この事実に気づくことは無かった。


その後、道程は遅れたままだったが、順調に何事もなく、中国への国境を越えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ