また一歩
―――10月19日
エルデネサント隊の隊員は減ってしまったが、再びエルデネサントを目指す。
ドローンに攻撃された傷跡は大きいが、道程はまだ半ばだ。
次のキャンプポイントを目指して動き出す。
振り返ると、黒い帯のように沈んだ水面が、風が止むとわずかに光を返す。
湿地を離れると、地面はすぐに乾いた色に変わる。
草は低く、ところどころで土が露出している。
踏み跡は古く、最近この道を通った者はいないと分かる。
丘は緩やかで、登っても景色は大きく変わらない。
同じ調子の斜面が、角度をわずかに変えながら続いていた。
ハサルは隊の先頭でドローンの警戒を続けながら、延々と続く大地にため息をつく。
「この辺りは、なんにもないな・・・」
右側にいる馬車の御者が答える。
「この季節だと、ここは季節湖が小さくなって、乾いた大地が続きますからね。」
「君はエルデネサントの住人だったか?」
「ええ・・・7月までは、この辺りを車で走り回っていましたよ。」
「ほう。」
「この辺りも観光客が多かったんですよ。
『こんな場所を見たことない』って海外からわざわざやってきて、『案内してくれ』って頼んでくるんです。
当時は、変わった人もいるもんだと思ってましたけどね。」
そう言って、御者は笑う。
「その丘の向こうへ5キロほど行くと、大きな湿地帯があります。
春から夏は大小の季節湖が、昨日通った集落『ブレン』まで40キロほど続くんです。」
御者は左側の丘を指さして説明した。
「エルデネサントは攻撃を受けたのか?」
「受けてないと思いますよ。」
「受けなかったのに、街を離れたのか?」
「ええ、私はラジオで、奇跡のキャンプ地があるって聞いて移動したんです。
でも、まさか食料不足で戻るとは思ってもみませんでした。」
御者はそう言って苦笑する。
ハサルも苦笑した。
丘は登って下ってを繰り返しながら同じような風景が続く。
昼を過ぎた頃、湿地帯が現れた。
「この先、季節湖があるはずです。」
御者が左前方を指さす。
ハサルは頷き、後ろを見て手を上げる。
「停止~!! ここで休憩をとる!!
馬を休ませるぞぉ~!!
いつものように数頭ずつ水場へ連れて行け!!」
三日目になると、隊の動きもスムーズになっている。
それぞれが何をやれば良いのか全員が分かっていた。
ハサルはガンバヤルに視線を送る。
朝のショックを引きずっていないか確認したかった。
ガンバヤルは馬を降りると、馬の鞍を外す。
馬の背からは湯気がふわりと立ち上がった。
馬車から布を取り出し、汗を拭きとっていく。
馬着を背に被せ、蹄のチェックをしていく。
その動きを見て安心したのか、ハサルは隊の方へ視線を巡らせた。
御者たちも馬車の重いハーネスを浮かせて、汗を拭いている。
そして、おのおのが順番に水場へと馬を連れて行く。
それらをハサルが確認し、ニヤリと笑ってつぶやく。
「練度上がってきたな~・・・」
そして、軽くこぶしを握った。
―――
休憩をはさみ、隊は再び動き出す。
朝のガナの件で隊は神経質になっていたが、あれからドローンの影は見当たらない。
その様子にハサルはガンバヤルを前に来るように振り返って指示をする。
「おい、ガンバヤルにオレの所へ来るように伝えろ!」
後ろの隊員が頷いて、後方へと声を伝えていく。
しばらくしてガンバヤルが馬の速度を上げて、馬車の列を追い抜いてくる。
「何か?」
左側に馬を並べて、話を始めた。
ハサルは首を回し尋ねる。
「落ち着いたか?」
「はい、なんとか・・・それの確認ですか?」
「いや、朝は動揺していたようだったんで、尋ねなかったんだが・・・
朝の件を確認したくてな。」
「確認ですか?」
「我々からはドローンがまったく見えなかったんだよ。
水蒸気の中から飛び去るドローンは見えたんだがな・・・
やつは、どっから飛んできたんだ?」
ガンバヤルは思い出そうと、首を何度か傾げ、眉間を指で押さえ考える。
「・・・・・・あの時、風向きがやや南東だったんで・・・反時計回りに湿地を周って・・・だから・・・南東もしくは東南東・・・です。」
ハサルは地図を横25センチほどに折り畳み、地図の南北を確認して、ガンバヤルに見せながら手のひらを立てて方向を示す。
「つまり、コッチ方向からコッチ方向の間ってことか?」
「そうですね。 自分の視界には左上から近づいてきた感じです。」
「そうか・・・馬車の隊列の場合は直上で、それ以外はやはり東方向なのか・・・・・・?」
ハサルはそう言って地図を睨む。
「我々がいたのはこの位置だ・・・この方向から飛んで行った方向は・・・・・・西か・・・
そのあと、どこに向かったのか・・・・・・」
目を伏せ、口元で手をこねながらドローンの法則性を考える。
「そういえば、ガナに確認してなかったんだが・・・
ガンバヤル・・・オマエを殺そうとしたドローンの攻撃は何だったんだ・・・?」
その問いにガンバヤルは答えが見つからなかった。
ガナの腕を断絶した何か熱いもの。
それがガンバヤルにとってすべてだった。
「わ・・・わかりません・・・
自分の視界をふさぐようにガナの手が右側から入ってきて・・・・・・
次の瞬間・・・視界が広がったと思った時には・・・ガナの腕はなくて・・・・・・
ただ、こめかみに熱を感じました。」
そう言って、ガンバヤルは縮れた髪を、体を捻ってハサルに示す。
ハサルは手を伸ばして触る。
ガサッ…ガサガサッ……
髪が崩れるようにポロポロと肩へ落ちた。
「焼けて焦げてる感じだな・・・」
ガンバヤルはコクリと頷く。
「熱線・・・レーザー兵器か・・・?」
「レェーザァー・・・?」
「ああ・・・ビレグを焼き切った・・・兵器だ・・・
高出力の光で焼き切る・・・そんな装置だ・・・」
ハサルは、こぶしを握り締めブルブルと体を震わせる。
「ビレグ・・・」
ガンバヤルは、背筋に冷たいものが走った。
ビレグの死体を見ていたからだ。
(あれが・・・まともに当たっていたら・・・・・・僕も・・・ガナも・・・)
「しかし、外した理由は何だろうな・・・?
ガナは『お前をかばった』と言っていたが・・・」
ハサルは目を細めながら、顔を少し上げつつ地平線を眺める。
そして、口を尖らせた。
「あ・・・あの時、ガナが馬と一緒に・・・」
ガンバヤルは視線を落とすと、左右に動かしつつ、ドローンが現れた時のことを思い出しながらつぶやき始めた。
ハサルはその声に顔をガンバヤルへ向ける。
「そうだ・・・いったんドローンは静止したんです・・・多分、僕を狙って・・・
そこにガナと馬が・・・目の前に飛び込んで・・・きた・・・
ああ・・・そうです。
それで、ドローンは横に滑った!」
「馬か!?」
ガンバヤルはコクリと頷く。
ガンバヤルは手綱を放し、手を動かして説明する。
左手を握って、
「僕がここに立ってた所へ・・・」
右手をまっすぐに伸ばし、左手の前に右側から差し込む。
「そこに、ガナと馬が、こう入ってきた・・・
ドローンは左側へ滑ったんです。」
右手を軽く丸め、左手の正面に距離を取り、左方向へ動かす。
「でも・・・馬に勢いがあったんで、正面に馬が大きくかぶって・・・」
再び、右手を伸ばして、左手の正面の近くをゆっくりと先へ進める。
「馬を避ける為に照準をずらしたのか!」
「多分・・・」
そう言って、ハサルを見た。
ハサルは大きく頷きながら、
「だとすると、動物の壁は有効ということが確定したな!」
そう言って、自分の乗る馬の首をポンポンと叩いた。
それを見て、ガンバヤルも目を細め自分の馬をさすった。
―――
夕方が近づくと、徐々に標高が上がり始めた。
御者がハサルに説明する。
「この山の向こう・・・エルデネサントまで、あとは10キロ程度です。」
ハサルは太陽の位置を確認する。
太陽は、その山に連なる場所へ沈もうとしていた。
陽がなくなると、一気に空気が冷え込む。
「よし、今日はここまでにしよう。」
御者が頷く。
「止まれ~~~!!
今日はここでキャンプする!!」
ハサルの号令で、隊は停止した。
隊の旅が半分終わろうとしていた。




