役目
左腕を失ったガナは急遽、本拠地のキャンプ地へ戻ることになった。
レーザーで焼かれた腕は止血できているとは言え、キャラバン隊の持つ医療ツールでは完全な治療はできないからだ。
また、一人で馬に乗り降りができない為、サポート要員として2人(ガナを入れて3人)が一緒に戻ることとなり、その為、10台のうちの1台の馬車がこの場所で乗り捨てられることになった。
「僕もガナのサポートとして帰ります!」
ガンバヤルがハサルに直訴していた。
「だめだ。」
ハサルは首を振った。
この答えにガンバヤルは両手を広げて問い詰める。
「何故ですか!?」
ハサルはため息をつき、淡々と説明する。
「問題は華奢なオマエの体だ。
オマエがガナの重い体を一人でサポートできるか?」
「一人で? ・・・そ、それは無理です。」
「サポートは二人だが・・・
もし、一人に何かあった場合、一人で二人をサポートしなくてはならなくなる。
あと、今日中にキャンプ地まで戻る。
約60キロ・・・速歩とはいえ、オマエ長時間の移動は経験あるか?」
「ぐっ・・・」
ハサルの答えにガンバヤルの顔に悔しさが表れ、俯いた。
狩りには出ていたが、1日中走り続ける長距離移動の経験がなかった。
ハサルは俯き黙って立っているガンバヤルの肩を叩く。
「ガナにも言われてるんだ。
『オマエはオマエの仕事をしろ!』とな・・・」
「・・・そ、そうですか・・・」
そう言って、ガンバヤルは手を強く握った。
ハサルが隊の後方へと歩いていく。
ガンバヤルは、それに気づくと後をついていく。
隊の後方では、捨て置く馬車から馬とラクダが外されていた。
「隊長、馬やラクダはどうしましょう?
3頭立てや4頭立ての馬車を作りますか?」
「いや、それじゃ全体のバランスが悪くなる。
裸馬のまま、最後尾で連れて行こう。
その方が、馬の故障リスクが減るだろう。」
「わかりました。」
隊員はそう言うと、馬の手綱を引っ張っていき、最後尾のラクダにつなげていく。
さらにその後ろでは、ガナ達が出発の準備をしていた。
荷物はほとんどなかった。 できるだけ最小限にして、馬の負担を減らす目的だ。
「ガナ!」
ガナの姿を見つけ、ガンバヤルが大声で名前を呼ぶ。
ガナはその声に振り返った。
服は肩口で切られ、断端部は包帯が巻かれていた。
消毒液なのか、包帯は濃い茶色に染まっていた。
ガンバヤルはその姿をみて、顔をしかめる。
それに気づきガナはガンバヤルに近づき、頭をポンポンと叩く。
「今日中に戻って、完全な治療する。
だから、そんな顔をするな。
キャラバン隊に油紙があって助かったよ。
包帯だけだと、剥がす時が大変だからな。」
ガナは心配させないよう、できるだけ平気なことをアピールする。
しかし、強張った顔が胸に突き刺さる。
だが、口を開けなかった。
口を開くと、謝る言葉しか出ないような気がしたからだ。
ガナは黙っているガンバヤルを見て、口角を上げた。
「よしよし! バヤル、頑張って来いよ。」
ハサルが声をかける。
「どうだ? 走れたか?」
「ああ、オレの馬はジョローができるからな。
ほとんど上下の揺れがないんで、問題なかった。」
その答えにハサルはホッとした。
「そうか、よかった・・・
とにかく、はやく戻って治療を・・・」
ハサルはサポートの二人に向きを変える。
「オマエたち、大変だと思うがサポートを頼むぞ。」
「任せろ!」「はい。」
「じゃあ、バヤルを頼むぞ。」
ハサルは頷く。
ガナは馬の右側へ移動して、鞍を見つめる。
馴れない右からの乗馬に緊張していた。
サポートの二人が馬の両サイドに立つと、ガナはふーっと息を吐き、鞍を右手で握り、右足を鐙に差し込む。
サポートの二人に目くばせをする。
「・・・頼む。」
二人は頷き、ガナ側のサポートは左足の太もも部分と右の肩甲骨辺りに手を添えた。
ガナは右足と右手に力を入れ、体を持ち上げる。
サポートの手があるので、左足は馬の背を楽々と越えたが、体は左側にバランスをくずした。
右側のサポートが服を握り、左側のサポートが左側の脇腹を押さえることで、無事に乗ることが出来た。
「ふう~~~~~っ」
三人は大きくため息をついた。
サポートの一人は額の汗を腕でぬぐう。
二人も馬の背に跨る。
ガナは馬の向きを、ハサルとガンバヤルに向け、
「あとは任せたぞ。」
ハサルは片手を上げた。
「チョー!」
ガナがそう言うと、馬は走り出した。
タッタッタッ……タッタッ、タッタッ……
馬は2拍子の足音を立てながら、どんどん小さくなっていった。
ガンバヤルはそれを見つめて、涙があふれた。
ハサルは、肩に手を置く。
「よく我慢したな・・・・・・」
「ズズッ・・・」
一度、鼻をすすり、ガンバヤルは隊の方へ方向を変えた。
ハサルはその姿を見守るような目で見つめた。
「よーし! 我々も出発するぞ!!
予定よりちょっと遅れているからな!」
そう言って、隊の方へ歩いていく。
再びエルデネサント隊は動き出す。




