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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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73/106

一線の代償

湖畔付近での一夜が明ける。

昨夜の冷え込みはとても強かった。


ガンバヤルがテントの外に出ると、地面の表面に薄い霜が残っていた。

踏むと、乾いた土の下でわずかにバリバリと砕ける音がした。


湖の水面は静かで、黒い湿地の部分だけが、まだ夜の冷たさを抱えている。

風は弱く、隊の焚き火から上がる白い煙が、まっすぐ空へ伸びていった。


ガンバヤルは自分の馬を連れて用を足しに行く。

小高い丘に登ると、周囲には、夜のあいだに動いた小さな獣の足跡が残っていた。

野ウサギか、キツネか。


「肉・・・食べたいな・・・」


丘の上から湿地を見下ろす。

隊がテントをはる場所の対岸側には渡り鳥が羽を休めていた。


「あれ、狙えるんじゃないか?」


ガンバヤルは急いでテントへと戻った。


ちょうど、隊では食事を配っているタイミングだった。

ガンバヤルは馬から降りると、手綱を杭に括り付け、ガナの元へと走り寄る。


「ガナ!」


スープを受け皿から直接飲んでいたガナは、皿を口から離してガンバヤルを見る。


「どうした~? なんかあったか?」


「対岸に渡り鳥が来てる! 狩りに行っても良いかな?」


「・・・・・・・・・。」


ガナはその言葉に少し考えこんだ。


「ねえ、ダメかな? 保存食じゃなくて、新鮮な肉が食べたいと思わない?」


ガナは少し不安だった。

鳥を狙うには、馬は使えない。

馬に乗った状態では、丸見えで警戒されて近づくことすらできないからだ。


だが、ドローン対策として馬から離れることは許されない。

しかし、独り立ちしたばかりの少年が、狩りをしたい気持ちがよく分かった。


「条件がある。」


ガナはガンバヤルの方を向いてそう言った。


「え? なに?」


「馬から降りないなら、行ってもいいぞ。」


「わかった。」


ガンバヤルは嬉しそうに頷いた。


「ちょっと待ってろ、ハサルの許可を取ってくる。」


そう言って、ガナは立ち上がり、ハサルの所へと向かった。


―――


しばらくして、ガナが戻って来る。


「許可は取ってきた、だが出発までの1時間だけだ。」


そう言ってガナはいたずらっぽく笑った。

絶対失敗すると思っていたからだ。


ガンバヤルは馬車に一度乗り込み、革製の弓袋と矢筒を持って出てきた。

口が半分開いた弓袋を馬の鞍の右側に吊るし、左側に矢筒を吊るした。

そして、ガンバヤルは馬の背に跨った。


ガナも自分の馬に跨る。

その行動に、ガンバヤルが驚く。


「もしかして、ガナも来るの?」


「一人で行かせると、約束破って馬から降りそうだからな。」


そう言って、笑う。

二人は馬を走らせ、対岸を目指していく。

それを隊のメンバーが「なにごとだ?」という感じで見送った。


―――


この日、風は弱かったが、それでも風下側から湖を回り込んで、対岸側へと来ると、

馬の速度を落とし、ゆっくりと歩を進めた。

ガナはガンバヤルの後ろ50メートル付近についてニヤニヤしながら見ていた。


ガンバヤルは弓袋から弓を右手で取り出し、左手で矢を取り出し、鳥がいる水辺へ静かに近づく。


だが、馬の背に乗ったガンバヤルは鳥からは丸見えで、見えた瞬間警戒され、どんなに音もなくゆっくりと近づいても、ある距離まで近づいたところで、


バサバサバサ……!

バシャバシャバシャッ!


大きな羽音と水しぶき音を立てながら水面を走り、鳥は飛び立ち、

離れたところへと着水した。


とてもじゃないが、弓矢の射程距離まで近づくことはできなかった。


それを後ろでガナが笑っていた。

ガンバヤルは振り返り睨みつける。


「分かってて、この条件つけたね!!」


「ちがう、ちがう、それはドローン対策だ。

これは本当だ。」


ガナは両手を広げてそう言った。

ガンバヤルはガナの言うことは、正しかったので、それ以上は言わず、狩りを続けた。


渡り鳥はガンバヤルをバカにするかのように同じ距離を保とうと、近づいては離れ、近づいては離れを、何度も繰り返した。


時計を見てガナが言う。


「バヤル! あと10分だぞ~! もういいかげんあきらめろ~!」


「あと一回!」


ガンバヤルはそう言うと、鐙の左側を短くし、右側を長く調整する。


「ん?」


ガンバヤルが何か鐙を調整しているのに気づき、笑っていた顔が真剣な表情に変わる。


「何する気だ・・・?」


「ごめんな、キツイだろうけど、ちょっとだけ我慢してくれよ。」


ガンバヤルはそう言って馬の首をポンポンと叩き、

鞍の出っ張りを、膝の裏でつかむと、左手で馬の首をつかみ、だらりと伸びた右の鐙を踏んで体を落下しないようにした。

上半身を馬の首の下へと入れる。


「よし、チャーッ・・・」


ガンバヤルがそう言うと、馬はバランスを取りながら歩を進めた。


鳥は馬の姿を見つけ、一瞬ビクリと反応したが、背に人間が乗っていないのを確認すると警戒を解いて、水面に頭を突っ込み、水草を食む。


ガンバヤルの目に鳥の姿が映る。


(ホーッ。)


小声で馬に止まれの合図を出す。

馬はその場に停止した。


ガンバヤルは左手を放し、矢を構えた。

体を支える右足がブラブラと揺れ、上半身にその振動が伝わる。


(くそ・・・狙いが・・・定まらない・・・)


そこで、ガンバヤルは右足の鐙を外し、左足だけで馬にぶら下がった。

上半身は耐え切れず、地面に近い所まで頭が下がったが、揺れは止まった。


ビッ!!


次の瞬間、ガンバヤルから矢が放たれた。

放った後、地面に落下する。


矢は鳥の首の付け根に刺さり、水面にしぶきを上げる。

鳥は警戒の声を上げて、群れに危険信号を送り、全羽がものすごい音を響かせ飛び立った。


その光景を見たガナは、口を押さえブルブルと体を震わせていた。


「なんてこと、考えやがるんだ・・・」


転んでいたガンバヤルが勢いよく起き上がる。

そして、射止めた鳥を確認する。


水辺に浮かぶ鳥を見つけ、腕を振り上げて喜ぶ。


「やったぜ~~~!!」


そして、相棒の首に抱き着き感謝する。


「オマエのおかげだ~~~最高の相棒だ!」


ガナは喜ぶガンバヤルを見て、目を伏せ首を振る。


「なんてえ、才能だよ・・・末恐ろしいな・・・」


そして、目を開けてガンバヤルを見て驚いた。

ガンバヤルが、歩いて射止めた鳥へと近づいていた。


ガナは慌てて、馬を走らせる。


「バヤル! ダメだ!」


そして、周囲を警戒しながら見回す。

ガナの目に降下するドローンが映った。


「バヤル!! ドローンだ!! 戻れ!!」


その声に、鳥の首を手に持ちながら、ガンバヤルが振り返る。

視線上にドローンが見えた。


頬に脂汗が流れ、手に持つ鳥を落とした。


ドローンのカメラにガンバヤルの姿が映り、照準が合わさる。


キィーーーン!


レーザーのチャージ音が響く。

発射しようとした瞬間、馬に乗ったガナがカメラに入ってきた。


ドローンは馬を避けるように右へと機体を滑らせ照準をずらし、レーザーを発射した。


ガナはガンバヤルをかばうように左腕を伸ばした次の瞬間。


ジッ!!


レーザーはガナの腕を焼き、左腕が宙を舞う。

左腕を抜けたレーザーは、ガンバヤルの左側の髪の毛をかすめ、水面に着弾する。


ジャアアーーーッ!!


レーザーに焼かれた水がものすごい水蒸気を上げながら、

水面を凄まじい勢いで走った。


対岸にいた隊が、その激しい音と水蒸気に気づく。

ものすごい水蒸気が発生し、向こうの様子はまったく確認できない。


「な、何事だ!?」


ハサルが水蒸気を見つめると、ドローンが飛び去っていく光景が見えた。


ブーン……


ドローンの音は遠ざかって行く。


「おい! 誰か見てたやついるか!?」


ハサルは右へ左へ体をひねって隊員に確認する。

だが、誰も答えなかった。


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