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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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68/105

風の中の小さな炎

10月中旬となり、モンゴル地方は青々とした草原は、迎える冬に向けて大地は金色へと移り変わりつつあった。

空気は澄み、乾燥した空気は、空の色を青から紺碧へと変え、大地の金色との対比が美しい情景を映し出していた。


モンゴルキャンプ地は様相を変えていた。

スフレンの息子のビレグが殺されたあと、キャンプ地は月からの情報を元に構造を作り変えていた。


牧草地と人間の営みを分けていた柵は形を変え、ゲルの周囲を囲う様にキャンプ地全体を円周の形で囲み、動物たちの種類によって8つに分割させていた。

丁度、バームクーヘンを8等分に切り、

さらに層を作るように、外側から動物エリア、人間エリア、動物エリアと配置し、

中心の穴の部分に人間エリアを設け、NOBUNAGAが攻撃できないように強化させていた。


そして、そのバームクーヘンは、牧草を求めてトール川に沿って少しずつ西へ西へと移動していく。


(ドローンは東からやってくる。)


そんな噂が、キャンプ地を西へと向かわせる。

今はウランバートルから西へ約100キロの位置にキャンプ地はあった。


そして、“奇跡のキャンプ地”と呼ばれた、モンゴルのキャンプ地に人々が日々集まり、

わずか一か月で、15万人の大キャンプ地へと成長していた。


ただ、その成長速度の速さに、キャンプ地は生活状態を危うくさせていた。


モンゴルの人達は、馬やラクダを使って狩猟ができるのだが、集まるだけの“ただの避難民”は、そんなことはできない。

また、移動するキャンプでは、農業ができないという問題が人々を不安にさせていた。


―――


ガンバヤルの父バトが、ゲルの入り口から外へと出ようとしている。

ゲルの中で母親を手伝っていたガンバヤルに声をかける。


「ガンバヤル! 私は、いつも通り炊き出しをやるから、

お前は弟たちに乗馬の練習をさせなさい。」


「はい、父さん。

じゃあ、今日もフスレンおばさんの所に行ってくるよ。」


バトがガンバヤルを見つめた。


ビレグの死から一か月が経ち、フスレンはずいぶんと元気になった。

だが、まだ息子を失ったショックは簡単には消えない。


バトは、フスレンに乗馬を教えさせることで、ビレグのことを忘れる時間が作れるのではないかと考え、子供達を預けていた。


「・・・フスレンを頼む。」


ガンバヤルはバトの声に、頷いて答えた。


「ほら、ボル、サルール。 今日も馬に乗る練習に行くよ。」


「うん。」「あ~い。」


次男のボルは走ってゲルを飛び出していく。

ガンバヤルは、末っ子のサルールの手を取りゲルを出て行った。


―――


フスレンは自分のゲルの横に積み上げた木箱の上に座り、遠くを見つめていた。

大きくため息をついて、両手で顔を覆う。

そして、静かに肩が震えた。


並んだゲルの影からボルが走ってくる。


「スフレンおばさ~ん!!」


スフレンは慌てて顔を拭った。

一度、鼻をすすって、走ってくるボルを見た。


「ボル! 今日も元気じゃないか。」


ボルが並んでいる木箱にジャンプして乗る。


「早く馬に乗れるようになりたいからね!」


ボルはそう言って笑った。

遅れるようにガンバヤルがサルールの手を引いてやってくる。


「おはようございます。ほら、サルールも挨拶して。」


サルールは手を上げて、スフレンに拙く挨拶する。


「はよーごじゃいまつ!」


スフレンは膝を折って、サルールの目線に合わせて挨拶を返す。


「よくできました。 おはようサルール。」


笑いながらサルールの頭をなで、抱きかかえる。

そして、近くにつながれた馬の背に乗せた。


「ここをつかんどきな。」


スフレンは鞍の前の盛り上がった部分を指さすと、サルールは鞍の前の部分をつかむ。

馬の手綱をほどき、自分も円形の鐙に左足先を差し込み、サルールの後ろに跨った。

そして、手綱を両手で持ち、サルールを両腕で囲う。


「サルール、落ちないようにちゃんとつかまっとくんだよ!」

「あい。」


スフレンが、「チュウ!」と言うと、馬が勢いよく走りだす。

サルールの髪が風になびくと、笑顔になって手を離す。


「こら、サルール!

ちゃんと手でつかんどきな。」


慌てて、鞍をつかむ。

その姿を見て、スフレンの口元が緩んだ。


見下ろす小さな頭を見ていると、小さかった頃のビレグを思い出す。

末っ子のビレグは、スフレンが45歳で産んだ子だった。

歳を取ってからの育児は、愛情が本当に深かった。


スフレンの瞳が揺れると大粒の涙があふれ、頬を伝う。

その涙が、馬の疾走する風で、黄金の大地へと飛んでいった。




草原へと消えていくサルールとスフレンを見つめるガンバヤル。


「兄ちゃん!」


ボルの声にガンバヤルが振り返る。

ボルはすでに馬に跨り、馬を前後に細かく動かし、早く!と伝えている。


ガンバヤルは、繋がれている馬の手綱をほどき、足先を鐙に差し込み、馬に跨った。


「鐙の調整は自分でやったのか?」


「うん。見て覚えた。」


ボルは今年“ナーダム”で騎手デビュー予定だった。

それが、NOBUNAGAによって、今年の開催はなくなってしまった。

その為、馬の扱いはほぼマスターしていた。


「兄ちゃん! 競争しようぜ。」


17歳と7歳、その体重差にガンバヤルは渋い顔をした。


「長距離はダメだ。 短距離ならいいよ。」


「じゃあ、トール川のあの木をぐるっと周って、ここに戻って来るってのは?」


ボルの言ったコースは、まっすぐに川に向かって走り、

木で360度向きを変えて、今いる場所に戻るというコースだった。


「もう一回ターンを入れたいな・・・」


ガンバヤルは、木の周辺を首を振って確認する。


「あの岩がいいな。」


岩を指さして、そう言った。


「木で曲がって、岩で曲がって、ここでゴールってことだね。」


ボルがそう言うと、ガンバヤルが口を開く。


「ただし・・・木は必ず反時計回りだ。 それで、右ターンと左ターンの複合になる。」


ガンバヤルの説明にボルが納得する。


「分かった。 でも、合図はオレでいいよね?」


その問いにガンバヤルは笑う。


「いいぞ。」


そう答えた瞬間にボルがスタートの合図を出して走り出す。

ガンバヤルはその狡さに笑いながら、スタートする。


先行するボルは、両手で手綱を持ち、お尻を浮かせて前傾姿勢で乗っていた。

それに対し、ガンバヤルは左手に手綱、右手で鞍を持つスタイルだった。


ガンバヤルは途中で、地面に刺さった木の棒を、上半身を地面へと近づけながら右手でつかんで手に取ると、鞍に押し当てながら走る。


最初の木でボルが木に近い距離を周った。 だが、ガンバヤルは馬の首を曲がる方向とは逆方向へ押し、木とは距離を取り、次に馬の首の右側を押して、速度を落とさないように木を周る。


一気に距離が縮まる。

ボルが岩を時計回りに回る瞬間、手に持った棒をボルの馬に向かって投げる。


棒は馬の鼻先を通過すると、馬は一瞬たじろいで足を鈍らせる。

岩を曲がったガンバヤルは、あっという間にボルの馬を抜いてゴールした。


ガンバヤルが馬を止め、遅れてゴールするボルを迎え入れる。


「良い作戦だったぞ。」


「悔しい~~~~。」


ボルは天を仰いで悔しがる。

ガンバヤルは笑いながらボルを見て言う。


「満足したか? ほら、スフレンおばさんを追うぞ。」


「ぐっ・・・」


ボルは何か言いたげだったが、必死で考えたフライング案で負けたので諦めた。

二人は馬の向きを変えて、スフレンが向かった方へと追いかけていく。


―――


スフレンとサルールは、キャンプ地から余り離れないように、時計回りに走っていた。

馬の疾走に喜ぶサルールと警戒するスフレンがいた。


時折馬を止め、周囲を警戒する。

スフレンはドローンを見つけ、体が固まる。

喉が渇き、つばを飲み込んだ。


「・・・・・・ドローン・・・」


逃げるように再び走り出す。

動き出した馬にサルールが手を放して喜ぶ。

その動きにスフレンが馬を止める。

体を傾けて、サルールを後ろから覗き込む。


「サルール・・・手を離しちゃダメだって言っただろ?」


サルールはビクッとして挙げた手を、バッと勢いよく鞍へ戻す。


「ごめんチャイ、チュフレン・・・」


スフレンは謝るサルールの頭をポンポンと軽くたたく。


「離さなきゃ大丈夫だよ。」


「スフレ~~ン!」


遠くから声が聞こえて、スフレンが馬の向きを変えて、声の方を振り返る。

ボルを先頭に、2頭の馬が駆けてくる。


サルールがやってくる二人に喜ぶ。


「ニィーニー!」


「早かったね。」


「今日はボルが一回だけで満足したんで。」


「めずらしいね~、負けず嫌いのボルが一回だけのレースで終わらせるなんて。」


「だって、兄ちゃんに勝てそうなアイデアが出ないからさ~」


ボルは、馬を回す動作をさせながら、悔しそうに口を尖らせながらそう言った。


「ほー、正攻法では勝てないことを理解したのかい。

ボル、それは良い傾向だよ。」


スフレンがボルをほめる。


「だって、兄ちゃん馬の操作上手いからさ~

ただ、走るだけじゃ勝てないんだよ。」


「成長したねえ~。

ガンバヤルとアンタは、10年の差があるんだから簡単には勝てないよ。

毎日乗って練習するんだね。」


スフレンがそう言って笑った。


「わかったよ。」


ガンバヤルは東の空を見ている。

それに気づいたスフレンが馬を隣に寄せる。


「いますね・・・」


「ああ、通常運転だね。」


「父さんの話だと、キャンプの形を変えて、外へ人だけが出てこないので、

今後“何か対策してくるんじゃないか”って言ってました。」


「確かにそれはあるね。」


「あと、人が急激に増えすぎているってのも気にしてます。」


「それは会議の議題でも出てるよ。

今後、食料が足らなくなりそうなんだよ。」


そこへボルが馬を横に歩かせて寄せる。


「また、難しい話?」


「いや、ドローンを見てるんだ。」


「どこ?」


ガンバヤルが右手で指さす。


「あそこだ。」


ボルがその方向をジッとみる。


「アイツが・・・・・・」


ボルが馬をスフレンの馬のそばへ寄せる。


「スフレン、オレ戦士になって“ビレグ兄ちゃん”の仇とるから!」


ボルの言葉にスフレンが驚く。


「サルールも~」


サルールがスフレンを見上げて言う。


「あんた達・・・」


スフレンはボルとサルールに腕を回して抱く。


「ありがとうね・・・」


スフレンの肩が小さく震えている。

ガンバヤルはそれを見つめて、もう一度ドローンを見た。


黄金の大地を風が東に向かって吹き、ザアーッ!という音がドローンへ向かって響いていった。


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