提示された未来と、新たな一歩
食堂に着いた。
すでに二、三人の人が、小さなテーブル……いや、お膳で食事を取っていた。
「今度は何かな~」
私は誰も座っていないお膳の前へ行き、座布団に座る。
今夜の夕食は、真っ白なご飯に刺身こんにゃく、ネギが乗った冷奴、お漬物。
それに、じゃがいもと玉ねぎが入ったお味噌汁だ。
なんてヘルシーな献立なんだろう。
昔ながらの和食って、ダイエットにもいいのよね。
羅来国で健康的に痩せられるかも!
(しかも、作ってくれるし、無料だし……羅来国万歳だわ~!)
そこに、志乃さんがやってきた。
「武田様、ご夕食の後、旦那様から明日からのお仕事の件でお話があるそうですよ」
……明日からのお仕事?
志乃さんは続ける。
「私はこの食堂におりますので、ご夕食が終わりましたら、お声を掛けてください。旦那様のところへご案内します」
「わかりました!」
明日からのお仕事か……。
一体、どんな仕事を紹介してもらえるんだろう。
冒険者なんて言われたらどうしよう……。
それだけは無理だ。絶対に無理!
冒険よりも、手堅い仕事がいいな。
今日はいくつかお店に行ったけど、店員さんも楽しそうだった。
私は和服の知識とかないから、無難に雑貨屋さんとか。
生活雑貨店なら、半之助さんも来てくれるし!
……って、私、半之助さんのこと意識してる?
私のボディガードだから、いつでも会えるんだろうけど、なんかそれとお店で会うのって別な気がする。
普段の半之助さんが見られるかも!
でも、あの様子だと普段から無表情っぽいんだけど……。
お相撲関係はわからないけど、きっとお茶とかグッズとかを売る人もいるんじゃないかな?
そしたら、変わり者の月白さんにも会えるな。
……私の妄想は、とめどなく広がっていった。
私は夕食を食べ終えて、志乃さんに声を掛けに行く。志乃さんは女中頭らしく、女中たちに色々指示をしていた。
私は夕食を食べ終え、志乃さんに声を掛けに行く。
志乃さんは女中頭らしく、女中たちに色々と指示をしていた。
「志乃さん! 私、夕食終わりました!」
私が志乃さんに報告すると、志乃さんはにこりと笑って、
「では、旦那様のところへ向かいましょうか」
と、言った。
「はい!」
私は元気よく返事をする。
板張りの廊下を歩き、いくつかの建物を通り過ぎていく。
「ここです、武田様。私も一緒に参りますので」
この襖の先で、旦那様が待っているのか。
……でも、志乃さんがいてくれれば百人力だ。
志乃さんは襖を開けた。
「いらっしゃいませ、転移者様……いえ、武田様」
丸いテーブルの向こう側に、旦那様が座っていた。
旦那様は、見た感じ、とても人の良さそうな好々爺だった。
年齢で言えば、七十歳くらいに見える。
声は少ししわがれ、髪はすべて白髪だったが、元気そうなお爺ちゃんそのものだ。
「わしも、実は転移者でな。この屋敷で世話になっておったんじゃ」
旦那様は、懐かしそうに話し始める。
「冒険者を辞めて、その後、この屋敷の主人になったわけじゃ」
旦那様も転移者!それに冒険者だったんだ!
私は旦那様に勝手に親近感を持った。
「仕事を探してるそうじゃな」
旦那様は、そう言うと、テーブルに置いてあった紙を差し出した。
「この中で気に入ったのをなされ。まぁ、もしこの中になかったら、またわしが明日にでも探しに行ってくるでの」
私はテーブルの近くまで行き、座る。そして、旦那様が見せてくれた紙を見る。そこには五枚の紙が並んでいた。
『来たれ!冒険者!日給1貫~/江戸・麴町/寮完備/生活補助有り』
『甘味処・花 給仕募集 時給1貫/江戸・花麹町/土日出勤有り』
『飯屋・藤 給仕・料理人募集 時給1貫500文~/江戸・花麴町/日曜出勤無し』
『来たれ!雑貨職人 雑貨職人募集 月給1両50貫/江戸・麹町/週休2日/賞与有り』
『呉服屋・高野 事務員募集 月給1両80貫/江戸・武門町/週休2日/賞与有り』
「わ…たくさんありますね…」
私としては前まで事務員をやっていたから、呉服屋さんの事務員が気になった。けれど、甘味処、飯屋の給仕も気になる…。そんなに器用ではないので、雑貨職人は難しいかな。冒険者は論外。
「武門町と花麹町、麹町ってどの辺なんですか?」
通うなら、転移者の屋敷と近い方がいい。
「花麴町と麴町はすぐ隣で、この転移者屋敷に近いのお。武門町はやや離れとるって言っても、馬車で通えばあっという間じゃ」
車はないけど、馬車はあるのね。
「まぁ!飯屋・藤からもお誘いが来てるんですね!」
志乃さんは、驚いたような声を上げる。
「ああ、そうじゃ、有名店の飯屋・藤じゃ。なかなか普通は話が来ないんじゃが、今回は人が辞めて困っとったから、話が出た。あの店、転移者は優遇されるでの…」
…そんなに有名店なんだ。私、学生時代ファミリーレストランでバイトしてたし。
事務の仕事も嫌いじゃないけど、有名店の給仕に軍配が上がる。
「私、その『飯屋・藤』で働いてみたいです!」
すると、旦那様も志乃さんも頷いていた。
「あの店はいいところで、わしもおすすめするところじゃ」
「私もよくお休みの日に行きますよ、あの雰囲気がいいんです」
二人は私の背中を押してくれる。
「よし、武田様がそう言うのであれば、明日にでも『飯屋・藤』にわしが連れて行こう」
旦那様がそう言うと、志乃さんは、
「いいのですか?明日のご予定は…」
と、心配そうに旦那様に言う。
「大丈夫じゃ、志乃。ここのお屋敷は転移者様あってのお屋敷じゃからな。わしも『飯屋・藤』の飯が食いたいのでな」
旦那様は楽しそうだ。よほど美味しいのだろう。
有名店なら、半之助さんや月白さんも来るかも!?私は明日が楽しみになった。
「じゃ、『飯屋・藤』には明日早く連絡して、武田様は午後出発でよろしいかな?」
旦那様に言われ、私は元気よく、「はい!」と答える。
「いいお返事じゃ。元気があっていいのお~」
旦那様はますます、いい人オーラを出して笑う。
「半之助にも連絡を。明日は午後からでいいと」
志乃さんは、
「かしこまりました、連絡を入れておきます」
と、言った。
(連絡ってどうやって取るんだろう?電話とかあるのかな…?)




