↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

無口な護衛と、月白という男

 試着室だから、当然ながら姿見の鏡もある。鏡を見ると、そこには成人式以来となる和服姿の私が映っていた。

 どこがどういいのかはよくわからないけれど、なんとなく朱色の色合いと模様が気に入った。

 私は脱いだ覚えもないのに、なぜか手元にある、さっきまで着ていた洋服を持ち、試着室を出る。


「こんな感じになりましたが……どうですか、半之助さん……」


 半之助さんは、一瞬だけ目を見開いた。

 そして、すぐにいつもの表情へ戻る。


「お似合いですよ、武田殿」


 そう言って、腕を組んでいた。


(半之助さん、今、無表情じゃなかったよね!?)


(私のこと、しっかり見てたよね!?)


「このままでよろしければ、お会計しちゃいますよ? 帯とか、気に入らなかったら言ってくださいね」


 猫獣人のお姉さんが、明るい声で言った。


「じゃあ、このままお会計でお願いします!……でも、大丈夫ですか、半之助さん……」

「無論です」

 彼は無表情のまま答えた。


 猫獣人のお姉さんは、にこやかに言う。


「全部で二十五貫になります!このままお帰りいただくこともできますし、先ほどの洋服に着替えることもできますよ」


 私は、ちらりと半之助さんの様子を窺った。

 二十五貫って、かなりの出費ではないのだろうか?


「……できれば、このままで……」


 半之助さんは、消え入りそうな声で答えた。


(半之助さん……なんか照れてる?)


 私は、猫獣人のお姉さんから渡された、小さな紙のバッグに今まで着ていた洋服を詰める。


「ありがとうございました~!」


 猫獣人のお姉さんは終始笑顔だった。



 二十五貫もの大金を払わせてしまった。

 私は申し訳なくなり、半之助さんに頭を下げる。

「二十五貫もの大金……本当にごめんなさい」

 私の謝罪に、半之助さんは穏やかな声で答えた。


「武田殿が気に入ってくだされば、それで十分です。ですから、頭を上げてください」

 私はゆっくりと頭を上げる。

 すると、半之助さんと目が合った。


「ありがとうございます!半之助さん!」

 私は明るく笑ってみせた。

 すると半之助さんは、なぜか、


「……コホン」

と、小さく咳払いをした。



 着物屋を離れ、私はひときわ大きな建物を見つけた。

「半之助さん、あの建物は何ですか?」

 そう尋ねると、半之助さんが答える。


「あれは冒険者組合の建物です」


「冒険者組合?」


 馴染みのない言葉に、頭の中が疑問符でいっぱいになる。

 それを察したのか、半之助さんは説明してくれた。


「冒険者たちが集まる場所です。依頼を受けたり、報酬を受け取ったりするのも、あそこで行います」


 ファンタジーでいうところの、ギルドみたいなものかな?

 和風の世界に、冒険者なんて職業があるとは思わなかった。


「気のいい連中が多いですが、中には怪しい人間もおりますので、お気を付けください」


 その時、その冒険者組合の建物から、狼の耳をもった銀髪の男性が出てきた。

 半之助さんは顔見知りなのか、その男性に声を掛ける。


(わ、近くで見ると、この人もイケメンだ!)


「ああ、今日から相撲が始まるからな、そろそろ引き上げだ」

(相撲って、私の時代にもある、あの相撲の事?)


「お相撲好きなんですね」

 私がそう言うと、彼は怪訝そうな顔をして、


「……誰だ、あんた」

と、尋ねてきた。

 すると半之助さんが、

「今日来たばかりの転移者様だ。拙者が護衛をしている」

と、説明してくれた。


「あ、武田さやかです」


 私は狼耳の彼に名乗る。


「……あ、そ」

 彼はそれだけ言うと、背中を向け、そのまま走り去ってしまった。

(……え?)


 私は呆気に取られ、走り去っていく彼の背中を見つめた。


「…私、何かしたんでしょうか?」

 半之助さんは、

「いえ。変わったやつですが、仲良くなれば、いい奴ですよ」

と、彼をフォローしていた。

(「月白(げっぱく)」…変わった人でお相撲が好き…メモメモ)


 思った以上に、江戸は不思議な街だ。

 江戸時代風の街並みなのに、魔法石が使われていたり、冒険者ギルドのようなものがあったりする。

 お相撲もある。

 魔物が出るというのも怖いけれど、少し興味がある。


「半之助さんは、魔物と戦ったりするんですか?」

 興味本位で聞いてみる。

「……必要があれば、です。魔物と戦うのは本職の冒険者ですから」

 半之助さんはそう答えてくれた。


「冒険者、ですか……。さっきの月白さんは、冒険者なんですか?」

 気になったので聞いてみる。

「ええ。月白は冒険者ですよ。それも一流の」

 半之助さんは、相変わらず無表情だ。


 月白さんは一流の冒険者……。


 ゲームでいうところのSS級とか、そういうことだろうか?


「それだけに、いつも危険と隣り合わせですよ。彼は」


 強そうな魔物と戦っているんだ。

 ゲームで言えば、中ボスくらいの魔物かな?


「凄いですね。私の世界……日本では、魔物なんていなかったので。やっぱり違う国に来たんだと実感します」

 私がそう言うと、半之助さんは、

「でも、いい国ですよ。羅来国は。拙者はこの国が好きです」

と、答えた。


 私は半之助さんを見て、

「私、もっとこの国を知りたいです!」

と、力強く言った。


「転移者様がそう言ってくださるのは、とても嬉しいことです」

 半之助さんの口角が、わずかに上がっていた。

(喜んでくれているのかな?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。