乙女ゲーム脳で読み解く黒髪長髪サムライ男子
だいぶ江戸の町を歩いたところで、私は空腹を感じ始めた。
カフェみたいなところで、ちょっと軽食でも食べられたらいいな。
「……あの、お願いがあるんですけど……」
私は半之助さんにお願いしてみることにした。
「どこか、甘いものを食べたり、お茶を飲んだりできるところってありませんか?だいぶ歩いたので……その……」
私が少し俯きながらお願いすると、半之助さんは、
「そうですね。茶屋にでも入りましょうか」
と、すぐに答えてくれた。
半之助さんについて行くと、暖簾に『甘味処』と書かれた店に着いた。
店に入ると、
「いらっしゃーい!」
明るい声の女性が迎えてくれた。
ここは転移者の屋敷とは違い、素朴な木のテーブルと椅子がいくつも並んでいる。
髪を結った女性たちが、何人かお茶を楽しんでいるようだった。
半之助さんが空いている席に座り、私はその向かい側に腰を下ろした。
「いらっしゃいませ! お品書きはこちらになります」
先ほど私たちを迎えてくれた女性が、メニュー表とお茶の入った湯呑を持ってきた。
「わー!結構、食べ物がたくさんありますね」
甘味処には、日本の和菓子をはじめ、ところてんやひやむぎなどもあった。
値段も手頃だ。
私は迷いに迷って、
「あんみつが食べたいです、半之助さん」
と、半之助さんに言った。
半之助さんは手を上げて店員を呼び、
「あんみつと、ところてんを一つずつ頼む」
と、注文した。
(半之助さんは、甘いものは食べないのかな?)
「ねぇねぇ、このあいだの樹のライブ行ったー?」
「勿論~! 樹って、いつ聴いてもいいよね!」
私の隣の席にいた女性たちの会話が聞こえてきた。
(この世界にもライブとかあるんだ!樹っていう人が人気なのかな?)
「あの……樹っていう人、知ってますか? 半之助さん」
「いえ。拙者、芸能などには興味がないので」
芸能人!
確かにライブとかをやるんだから、芸能人になるんだ。
(芸能人に興味ないって、なんか半之助さんらしい)
すると、私たちの会話が聞こえたのか、隣の席にいた女性たちがこちらへ近づいてきた。
「えー!? 樹を知らないとか、ありえないんですけど!」
「この浮世絵の人よ! カッコいいでしょ!」
女性の一人が、私に浮世絵を差し出してくる。
私はその浮世絵をじっと見つめた。
(うーん……よくわからない……)
「『この愛の言葉を君に~♪』とか、知らない?」
半之助さんは、
「この方は転移者様で、まだこの世界のことをよく知らないお方だ」
と、説明してくれた。
女性たちはお互いの顔を見合わせる。
「転移者様!?」
「それなら、ぜひ樹のライブに行ってみてください!すごくいいから!」
彼女たちに樹という人を大プッシュされ、私は苦笑いを浮かべた。
私は日本にいた頃から、あまり芸能人などには興味がなかった。
周りが芸能人の話で騒いでいても、どこか冷めた目で見ていた。
私は三次元の人よりも、ゲームに出てくる二次元のキャラクターに愛を感じていた。
同じ趣味の友達もいたから、余計にそうだったのかもしれない。
(だから、年齢=彼氏いない歴になるんだよね……きっと…)
「お待たせしました!あんみつと、ところてんになります!」
店の女性が、お盆に乗せて持ってきてくれた。
私はあんみつを受け取り、さっそく一口食べてみる。
(ほわーっと甘さが広がって、美味しい!)
半之助さんもところてんを受け取り、黙って食べていた。
「美味しいです、このあんみつ!なんか、私がいた日本より美味しいかも!」
私がそう言うと、半之助さんが少しだけ笑顔を見せた。
その笑顔に、胸がドキンと跳ねる。
(普段無表情なだけに、その笑顔は反則!)
「…?」
半之助さんは、私の顔を見た。
私はその視線に耐えられなくなり、俯く。
(この気持ち、なんだろう……)
「は、半之助さんのところてんは、どうですか?」
視線に耐えられなくなった私は、思わずそんなことを口にしてしまった。
「ええ、美味しいですよ」
「そ、そうですか……」
私は妙に落ち着かなくなった。
……が、ここで乙女ゲーム脳が働く。
(たまにしか笑顔を見せないっていうのが、ポイント高いキャラっていたな……)
そう考えると、不思議と落ち着いてきた。
(黒髪長髪のサムライ男子。モテ要素しかない、高レベルの攻略対象キャラね!)
「…なんですか?」
攻略対象キャラだと認識した私は、逆に半之助さんのことをじっと見つめる。
「半之助さん、髪がきれいだなーって思って」
私がそう言うと、半之助さんは少し困ったような顔をして、
「シャンプーを最近変えたからでしょうか……?」
と、答えた。
シャンプー?
この世界には、シャンプーがあるの!?
しかも、最近変えたということは、一種類だけじゃないってことよね?
(どこまで不思議なの、羅来国って……)
「そのシャンプーって、どこで売ってるんですか?」
気になったので、思わず詳しく聞いてしまった。
「拙者は生活雑貨店で買っています」
生活雑貨店!
雑貨屋さんみたいなお店があるんだ。
私は雑貨を見るのが好きなので、
「半之助さん、その生活雑貨店に連れて行ってください!」
と、お願いしてしまった。
「御意」
(ああ、また『御意』がきちゃった……)
「では、この後に生活雑貨店に行ってみますか」
半之助さんの言葉に、私は、
「よろしくお願いします!」
と、元気に答える。
お互い、あんみつもところてんも食べ終わっていたので、席を立つ。
「合計で500文になります!」
半之助さんに料金を支払ってもらい、私と半之助さんは店を出る。
「ありがとうございます! 半之助さん、美味しかったです!」
私はぺこりとお辞儀をした。
半之助さんは、少しだけ目元を緩めていた。
(……ずるい。ずっと無表情なのに、こんな時に笑顔を見せるとか……こりゃ、高難易度すぎるよ、攻略!)
「……生活雑貨店に行きましょう、武田殿」
半之助さんが前を歩き、私はその後をついていく。
場所がわからないから、当然だ。
通り過ぎていく江戸の人たち。
人間も獣人もいて、多種多様な種族が暮らしている町だ。でも、ほとんどの人が和服を着ている。
そこだけは変わらない。
(でも、月白さんだけはTシャツにGパンだったな……。周りから浮いてた……っていうか、TシャツにGパン、羅来国にあるの!?)




