弥吉さんと、蕎麦好きな半之助さんと
「こんにちは!」
「いらっしゃいませ!……弥吉さん!」
忙しい中、彼の笑顔は清涼剤のようにさわやかだ。
「転移者さん、大変だね。大丈夫?」
「あ、ありがとうございます!私は大丈夫です!」
私のこと気にかけてくれる弥吉さん。名前はまだ覚えてくれない……。
「あ、俺、日替わり定食で!……ちなみに今日の日替わりは、何?」
「生姜焼き定食です!」
「俺、生姜焼き大好き~!楽しみ!」
「はい。お待ちくださいね!」
私は竹子さんに注文の紙を渡す。
「日替わり、一丁!」
「日替わり、一丁、あがり!」
私は、生姜焼きと、ご飯、お味噌汁、お新香を持って弥吉さんのところへ行く。
またお客さんの手が上がる。
「こっちも日替わり二丁頼むよー!」
梅さんが行って対応している。
ガラッ。
「いらっしゃいませ!」
お客さんが絶えない。
「弥吉さん、お待たせしました、今日の日替わりです」
弥吉さんは、目を輝かせている。
「うわ!美味そう!!ここの肉料理とか最高なんだよ!!」
「ゆっくり召し上がってくださいね!」
私が立ち去ろうとすると、弥吉さんが、
「……あ、そうだ、君の名前、何だっけ?」
(やっぱり覚えていてくれなかったんだ)
「武田さやかです」
「武田さん…か。ありがとう、武田さん!」
私はお辞儀をして、次の注文を取りに向かう。
(今度こそ弥吉さんに、しっかり名前覚えてもらったぞ!親密度アップ!)
「武田さん、お客さん入れなくなるから、後片付けお願い!」
梅さんに言われ、私は注文受けから後片付け係になる。
いくつもテーブルの上に食べ終わった食器が並んでいる。私は、食べ終わった食器を一つずつ下げていく。
何度も厨房と店内を行き来して、ようやく終わった。
お客さんの手が上がる。
先輩の給仕さんが対応に回る。
私も負けてはいられない。
別のテーブルで手が上がったので、私はすぐにそちらへ向かった。
「お勘定をお願い」
ああ、これは私にはまだできない。私は、梅さんを呼んで対応してもらう。
あ、また隣の席で手が上がる。私はそのテーブルに行く。
「日替わりを頼む」
「はい!日替わりですね!」
私は紙に向かって日替わりと言い、字が浮かんできたのを確認し、その紙を竹子さんに持っていく。
「頑張ってるわね、武田さん。無理しないでね」
竹子さんの一言に、
「はい!」
と、元気に答えた私だったが、少し疲れてきているのが自分でもわかる。
でも、これは仕事。
慣れないなりに頑張らないといけない。
弥吉さんの手が上がる。
「お勘定お願い、武田さん」
ええ?!弥吉さん、それは出来ないんだけど!!
それを聞いた梅さんが、私を連れて弥吉さんのところへ向かう。
「武田さん、見てて」
梅さんは、私に言うと、
「お客様、申し訳ありません。武田はまだ入りたてなので、私がお勘定させてもらいますね」
と、弥吉さんに声を掛ける。
「700文になります」
「あ、そうなんだ。ごめんね。騒がせちゃって」
弥吉さんは大きな財布を出して、そこから銅貨を出す。
「はい、700文きっちりいただきました。ありがとうございます!」
私も梅さんに続いて、
「ありがとうございます!」
と、弥吉さんにお辞儀をする。
「また来るね。今日も美味しかったよ!」
爽やかな笑顔を残して、弥吉さんは去っていく。
弥吉さんが去った後は、爽やかな風が吹き抜けていくようだ。私の心も満たされる。
「弥吉さん、いい人よね。爽やかで。冒険者の中でもモテるらしいわよ」
先輩の給仕さんが教えてくれる。
弥吉さん、モテるんだ。
そうよね。イケメンで爽やかで、優しいってそれだけでモテ要素詰め込んだ状態よね。
……ん?
私は違和感があって、先輩の給仕さんに聞く。
「……え?冒険者って女性も居るんですか?」
そうじゃなきゃ、男性にモテるってことになってしまう。
「当然よ。羅来国は職業選択、自由だからね。昔は居なかったみたいだけど、今じゃ普通よ、女性の冒険者って」
ホッとした。弥吉さん、男性にモテモテだと思ってしまった。
女性冒険者にモテるんだ。弥吉さん。
告白とかもされてたりするのかな。
羅来国にバレンタインがあるかどうかはわからないが、チョコいっぱい貰いそう。
(高難易度ね、攻略するのは……!)
「……こんにちは」
「いらっしゃいませ!……半之助さん!」
まさか半之助さんが来てくれるとは思わなかった。私は半之助さんのテーブルへ注文を取りに行く。
「今日の日替わりは生姜焼き定食ですよ」
と、半之助さんに教える。
「今日は月見蕎麦を……。拙者、この店の蕎麦を全種類食べるのが楽しみで……」
えええ。そんな楽しみが半之助さんにあるとは!
そんなにお蕎麦が好きなの?!
私は注文を取って、竹子さんのところに持っていく。
「あら、半之助さんまたお蕎麦なのね」
竹子さんは不思議がっていた。
私は、半之助さんが「この店の蕎麦を全種類食べるのが楽しみ」と言っていたことを話していいものかと悩んだ。
でも、これは私と半之助さん、二人だけの秘密にしておこう。




