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エルフの常連さん、いつものご注文

「月見蕎麦、一丁、あがり!」


 その声を聞き、私は月見蕎麦を取りに行く。


「よろしくね、武田さん」


 竹子さんに励まされ、月見蕎麦をお盆に乗せて、半之助さんのテーブルへ向かう。


「お待たせしました。月見蕎麦です、半之助さん」


 半之助さんは無表情のまま、月見蕎麦を受け取る。

 でも、かすかに口角が上がっていたのを、私は見逃さなかった。


(好物を前にすると、半之助さんでも無表情のままではいられないのね)


「ごゆっくりお召し上がりください」


 私は半之助さんにお辞儀をして、次の注文へと向かう。


 手前のテーブルから手が上がる。


「お姉ちゃん、俺は日替わり一丁頼むよ」

「はい!」

 私は、注文を取って、竹子さんのところへ行く。


「日替わり、一丁」


 竹子さんの声に厨房からも「おう!」と声がかかる。


「だいぶ慣れてきたわね、武田さん」

 竹子さんの言葉が嬉しい。

「まだまだです。頑張ります!」

 私は竹子さんに返す。

「無理しないで頂戴ね」

「はい!」


 私は食べ終わった食器を片付けに向かった。

 そのとき、半之助さんが手を上げているのが見えた。

 多分、お勘定だな。


「お勘定ですね」


 梅さんが半之助さんのテーブルに行く。


「500文になります」


 半之助さんは大きながま口から、銅貨を取り出している。


「確かに500文いただきました。ありがとうございます~!」

 梅さんはお辞儀をする。

 半之助さんは、私の顔を見て、少し笑う。


(普段無表情なのに、時折見せるその微笑みがズルいのよ…)


 半之助さんは、そのまま店を出て行った。



「ふう、だいぶ落ち着いてきたわね」


 梅さんが言う。


「そうね、あとはお茶の時間、今日はどれだけ混むかしらね」


 先輩の給仕さんが言う。


 そうか。

 ここは甘味もやっているから、おやつの時間に来る人もいるのね。


「結構、お茶の時間も混むんですか?」


 私は梅さんに聞いてみる。


「うーん。何とも言えないわね。その日によってまちまちなの。お昼ほどは混まないとは思うわ」


「そうなんですね」


 私はそう答えながら、あたりを見回す。店内はさっきまでの喧騒が嘘のように静かになっていて、テーブルの上には食後のお茶を待つお客さんがぽつぽつと座っているだけだった。


「今のうちに、お団子の補充をしておきましょうか」


 梅さんがそう言って、厨房の方へ向かう。私も後をついていく。


「甘味処って、意外と裏の準備が大変なんですね」


「そうよ〜。見た目は優雅でも、裏はてんてこ舞いなんだから」


 梅さんは笑いながら、ガラスケースの中を覗き込む。


「あら、みたらし団子がもうほとんど残ってないじゃない。武田さん、厨房から持ってきてくれる?」


「はい、わかりました!」


 私は厨房へ小走りで向かう。まだ働き始めたばかりで、右も左もよくわからないけれど、少しずつこの店の空気に慣れてきた気がする。


 厨房に入ると、料理長らしき年配の男性が忙しそうに何かを刻んでいた。


「すみません、みたらし団子を追加でお願いできますか?梅さんに頼まれてきました」


「ああ、いいよ。ちょっと待ってて」


 彼は手を止めずに、奥の冷蔵庫らしきものを顎で示す。


(えっ!冷蔵庫があるの!?転移者の館にはなかったわよ!)


「そこの棚に予備があるから、持っていっていいよ」

「ありがとうございます!」


 冷蔵庫らしきものを開けると、綺麗に並んだみたらし団子のトレイが目に入る。


(……あ、三つも魔法石が並んでる!冷蔵庫も魔法石なんだ)


 私はそれを両手で持ち上げ、慎重にホールへと戻っていった。


「ありがとう、武田さん。実はね、みたらし団子、このお店の名物だったりするのよ。お昼についでにこのお団子頼む人多いのよ」

「そうなんですね。みたらし団子、人気なんですね~!」

「実際美味しいのよ、時間があったら食べてみて」


 そう言われると、気になってくるな。みたらし団子。

 私の好み的には洋菓子派なんだけど、和菓子も大好き。

 時間があったら食べてみよう。


 時報石を見ると、昼二つ……つまり、昼の二時だ。

 おやつにはまだ早い時間だ。


 ガラッ。


「いらっしゃいませ!」


 私が言うと、梅さんが、


「あら、イリアさん!いらっしゃいませ!」


 イリアと呼ばれた人……ゲームで見たような大きなエルフ耳をしている。


(エルフでいいのかな?)


「どうも~。また来ちゃったわー。」


 先輩の給仕さんも、「イリアさん~こんにちは」と言っている。常連さんなのかな。


「羅来国に来たら、『飯屋・藤』に来ないと、落ち着かないのよ~。いつものある?」

「はい、はい。いつものですね。ありますよ。期間限定の栗饅頭もありますけど、どうしますか?」


 イリアさんは、目を大きくして、


「えぇっ!?期間限定の饅頭!!……それは気になる!!いつものとその栗饅頭を二つずつ貰おうかな~。お茶もお願いね」


 なんか声も高くて可愛らしいんだけど、この人……。女性なのかな。

 しかし、いつものって何だろう?栗饅頭といつもの二つずつって合計四つも食べちゃうの?!


「あら?見たことない顔ね。新しい人かしら?」


 イリアさんが私を見て言ってくる。


「初めまして。今日から働くことになった、武田さやかです。よろしくお願いします!」


 私は自己紹介をした。イリアさんはにこやかに笑う。


「私はイリア。見ての通り、エルフ族で、エルフ族の村の副村長をしているの。たまにお店に顔出すから、こちらこそよろしくね」


 親しみやすい感じの人だ。

 エルフっていうと、ゲームなんかをやっていると、知的で高尚なイメージが勝手にあったのだけど。

 副村長なんて凄い肩書を持っているのに、私にもフラットに接してくれている。

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