↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

時告げ石と羅来国の朝

 襖を叩く音が聞こえた。私は「はーい」と、返事をする。

「失礼いたします」

 襖をあけて、お辞儀をしたのは、志乃さんだった。


「おはようございます!志乃さん!」

 私は元気よく挨拶をする。


「武田様、おはようございます。お元気そうで何よりです…って、あらっ」

 志乃さんは、きれいに畳まれた布団を見て驚いていた。

「私が片付けますのに……」

と、言って畳んだ布団を押し入れに仕舞っていた。


「いいんですよ。起きて何もやることなかったですし」

 私は志乃さんに言う。

「働き者ですね、武田様は」

 そう言って、志乃さんは笑った。


「昨日、お渡しするのを忘れてたのですが…」

 そう言って、志乃さんは銀色に光る石を私に渡す。


 …また、魔法石?


「これは『時告げ石』といって、指定した時間になると音で知らせてくれる道具です。武田様が指定した時間になると、音で知らせてくれる道具です」


 時計みたいなものかな。

「試しに、朝七つと言ってみてください」

 志乃さんに言われ、私は渡された石に向かって「朝七つ」と、言う。


 カランカラン。

 ベルのような音が石から聞こえてきた。しかも時間が経つにつれ、音が大きくなっていく。


「音を止める時は、手を叩いてください」

 私は一回手を叩く。すると、ぴたりと音が止んだ。

 …便利。目覚まし時計にぴったりだ。


「羅来国は、朝一つから十一まで、昼はれいから六つまで、夜は七つから零まであるのです。詳しくは『転移者のための読本』に書いてありますから、読んでみてください」


 そんな時間の呼び方なんだ。午後、午前じゃないのか。後で本読んでおこう。


「それと、この石に向かって、「今の時間は?」って言うと、石が時間を告げますよ」

 志乃さんは親切に教えてくれた。私は早速試してみる。


「今の時間は?」

「朝七つ半」

「……朝七つ半ですね。八つより半刻ほど前になります」


 凄い、石が喋った!さすが魔法石…。


「高級なものは、『時報石じほうせき』と言って、文字盤がある魔法石です。それは裕福な方や役所等で使われています。時告げ石よりも正確な時間がわかると言いますね」


「『時告げ石』に『時報石』ですか…便利ですね」


「生活雑貨店で、時告げ石をはめ込んだ『時告げの腕輪』が売っていますよ。そんなにお高いものではなかったと思います」


 そんなものがあったんだ!生活雑貨店、色々見たのに気づかなかった。見つけてたら、半之助さんに時間の事とか教えてもらえたかもしれないのにな。


「そろそろ朝食になります。私と一緒に食堂へ行きましょう」

 志乃さんはそう言うと、出入り口の襖をそっと開ける。私は志乃さんの後をついていく。



 初の羅来国での朝食。

 今朝のメニューは何だろう。私は廊下を歩きながら、朝食のことをあれこれ考えた。

(トーストとハムエッグとかはないだろうな…)


 食堂についた。志乃さんは「また後で」と、言って去っていく。女中頭だ、忙しいのだろう。

 私は空いているお膳のところに行って座る。


 今回のメニューは、白いご飯と納豆、焼き魚、生卵に豆腐とワカメのお味噌汁だ。夕べはコロッケを二個食べたくらいだったから、久しぶりに健康的で理想的な食事になっている。

 今までのテキトーな食事が嘘のようだ。こんな生活を続けていたら、会社の健康診断ばっちりだ。

 …もう帰れないけれど…。

(一緒に働いていた、同僚や先輩の顔が浮かんでくる…もう会えないんだ…)


 私は首を左右に振り、雑念を払う。朝から感傷にひたっていられない。

(私は、羅来国の転移者、武田さやかとして生きていくんだ!)


 そう自分に言い聞かせながら、私は朝食を食べ進めた。


「ごちそうさまでした~」


「おはようございます、田中さん!」

 私は田中さんに挨拶をする。田中さんは、

「おはよう、武田さん。ねえ、ねえ…日本じゃまだSMAPとか元気に活躍してるの?」


 いきなり…。

 私は芸能人とか疎いからよく解らないけど…お母さんが好きだった気がする。


「もう解散しましたよ、私が小さい頃だったと思います」

 そう言うと、田中さんはショックだったらしく、がっくりと肩を落としていた。

「私、キムタクのファンだったのよ…あ~…ショック……」


 芸能音痴な私でも、キムタクはわかる。顔も声も浮かんでくる。

「そうなんですね。かっこいいですよね、キムタク」

って、私が言ったら、田中さんは「でしょ、でしょ!」と、迫ってきた。

 私にはキムタクよりも『ヒト恋』で何回も攻略に失敗した神崎隼人の方が気になるけど…。


 それにキムタクより、半之助さんの方が…って、なんで半之助さんが頭の中によぎるのよ!

 ま、半之助さんは長髪イケメンなのは認めるけど。私は顔が勝手に赤くなった。


「…どうしたの武田さん?」

 田中さんに言われて、私は、

「な、何でもないです!」

と、ぶるぶると首を振った。


 半之助さんは私のボディガードなんだから、その辺はしっかり意識しなきゃ!



 私は田中さんと食堂で別れ、部屋に戻った。

 芸能人か…昨日、甘味処で会った女性二人は樹がどうとか話してたっけ。

 私は興味ないな、今のところ。

 まだ羅来国初心者の私には、そこまで追いつけないというのが正しいかな。時間の事も志乃さんに言われるまで知らなかったし。


 もっと羅来国のこと知ったら違うのかもしれないけれど。

 それには、この大きな冊子、『転移者のための読本』を読まなければ。私はたった数ページしか読んでいない。

 まだ頭の中には、通貨と時間のことくらいしか入っていない。便利な魔法石には頻繁に会ったけど。


『羅来国には春夏秋冬があり、一年は365日、ないしは366日(四年に一度)』

 羅来国も日本と同じように一年は365日なんだ。四年に一度のうるう年かな?きっと二月は29日あるのだろう。この部屋にカレンダーはないから確認しようもないけど。

 春夏秋冬もあるというのも日本と同じだ、わかりやすい。


『羅来国の時間は朝一つ~十一、昼は零~六つ、夜は七つ~零と時間の区分が別れている。一時間は60分、半刻は30分を表す。

 時告げ石は大まかな時間を把握でき、時報石は文字盤があり、細かな時刻を伝えることができる』


 これは志乃さんが言っていたとおり。一時間は60分だとは初めて知ったけれど。時間感覚は日本と同様でいいのね。時告げ石と時報石の説明はだいたい志乃さんに教わったけれど、思っていたとおりだった。


『羅来国の便所トイレは全て水洗。浄化の魔法石で処理するため、日本にあった水道、下水道ははない』


 これ、地味にびっくりしたのよね…。江戸風なのに、水洗トイレ!って思った。さすがにウォシュレットとかはなかったけど、それでも水洗なのはありがたい。水道みたいなところに触るだけで水が出てくるんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。