第44話 彼女は招かれる④
随分間が空いてしまいました。
「……私は先に帰るわ」
「そうか」
幸いなことに、ルーファスは特に気分を害した様子はなく、あっさりと頷きました。
「じゃあな、気をつけて帰れよ。ああ、今回の手伝いの報酬の件になるけど、それは明日渡すからな。あとコレ、持ってけ」
そう言って、ルーファスが差し出してきたのは、大事な物証であるファイルです。
『ルーシェリカは顧客ファイルを手に入れた』
顧客って……
ルーファスのさっきの嬉しそうな声からして、子爵以外の貴族の名前が載っていそうですよ。
「分かった……気をつけてね」
ルーシェリカさんはそう告げると、そのままスタスタと足早に歩き出しました。
お屋敷を離れ、ひと気のないところで仮面を外します。
当然のことながら、真直ぐに王城に帰ったわけではありません。
酔っ払いや警羅など、夜中に行動している目撃者が居るかもしれない可能性を考慮したのか、だいぶ遠回りで帰りました。
ルーシェリカさんは、血の匂いがついている可能性が頭にあったようで、入浴時間がいつもより2倍くらい長かったです。
それ以外は特にこれといって普段と変わりない様子で、そのまま就寝。
「――おい。起きろ、ルーシェリカ」
ほんの数秒のブラックアウトが終わった瞬間、知った声が響きました。
ルーシェリカさんがぱちりと目を開けると、天蓋から垂れるカーテンをどかすルーファスの姿が視界に入ります。
王宮に帰って来て、すぐにこちらへ来たのでしょうか?
彼の制服である執事然とした燕尾服ではありません。
昨日の仮面+マント姿ではないですけど、その中に着ていたと思われるシンプルな黒の上下です。
「……おはよう、ルーファス。何の用?」
起きた直後だからでしょう。ルーシェリカさんの声はあくび混じりで、非常に眠そうです。
「お前なぁ……手伝いの報酬、朝に渡すって言ったぞ」
「それは覚えているけど、この部屋に来るとは考えてなかったわ」
「表沙汰に出来ない労働で発生した報酬を、同じ陣営とはいえ、不特定多数の目に触れる可能性のある場所で渡すわけがないだろう」
確かに。それはそうですね。
ですが、この部屋に早朝私服で出入りしていたところを誰かに目撃された場合、ルーシェリカさんとの噂が立つような気がするんですけど、そっちの方面は考慮してくれないので?
先程まで熟睡していたので、ルーシェリカさんは当然寝巻姿のままなのですが。
足首までしっかり覆う露出の少ないタイプの寝巻とはいえ、体の線はくっきり透けて見えるのですよ。
だというのに、ルーファスは全然薄着のナイスバディな美少女を全然気にしていない+本人も恥じらっているような様子は見られないので、考えに浮かんでない可能性大。
……名字が同じ『シリス』なことから、同じ孤児院出身ということは間違いないです。もしかして、双方、兄妹のような感覚を相手に持っているから気にならないのかも。
「ほれ、今回の報酬だ。ファイル寄越せ」
ルーファスは何処からか取り出した白い封筒を、スッとこちらに差し出しました。
反射的にルーシェリカさんがソレを受け取り、枕の下に隠してあった黒革のファイルを差し出した瞬間、ピローンと響き渡る効果音と浮かび上がる天の声。
『ルーシェリカは30000ギラーを手に入れた。
ルーシェリカは顧客ファイルを失った』
サポートだけで30000!?
後ろ暗い仕事ですし、危険手当と沈黙料込みでしょうから、驚くほどの大金と言うほどではないですけど。
今までコツコツ頑張って貯蓄してきたギラーは、確か56000ちょいだったはずです。
初日の遭遇イベントで入手して売り払った額を差し引いて、装備やその他を購入したおおよその額を足すと、1ターン未満の行動で、10日以上かけて手にしたのと同額近く稼げたってことに!
理屈は分かりますから納得は出来るのですけど、ちょっとばかし理不尽を感じます。
「……ルーファス。貴方、ちょっと匂うわよ」
「そうか? 一度湯を浴びたから血の匂いはしないと思うんだけど」
指摘されたルーファスは袖口を鼻先に近づけ、首を傾げました。
「ええ。焦げ臭い」
「あー……そっちね。火の回りが遅かったからって、ちょっと現場に居過ぎたようだな。多少鼻が馬鹿になっているようだし。また洗うか」
ルーファスはあの後、屋敷に火を放ったようです。
彼の言っていた後始末――証拠隠滅の一環でしょう。
あの屋敷は王都郊外にある――犯罪行為があったとしても、外部からはなかなか気付かれにくい立地ですから、早期の消火活動はよほど偶然が重ならない限り行われないと思います。
コレは私の想像でしかないですけど、当事者であるあの屋敷の人間は生け捕りにした証人以外の全員が、放火する前にルーファスの手によって片付けられたでしょうから、余計に。
「とにかく。俺1人で十分こなせただろうけど、今回はお前のサポートがあって結構助かった。分担出来たから書類が予定より短時間で発見出来たし。また気が向いたらでいい。よかったら手伝ってくれ」
そう言い残したルーファスがさっさと退出するや、ピローン! と効果音と天の声が響きます。
『ルート共通イベント『暗殺サポート』を回収し、『暗殺NO.001』を達成しました。
このイベントが発生したことで、コマンド<暗殺>が出現します』
なんだか流れ的に強制イベントっぽいなぁとは思っていましたけど、やっぱりそういう扱いでしたか。
『今後、ルーファスに話しかけるとコマンド<暗殺>が出現し、標的情報を見ることが出来るようになりました。
暗殺依頼を引き受けるかどうか、その場で選択出来るようになります。
引き受ける場合、代行暗殺者として実行するのかサポートに徹するのか、2つの選択が可能です。
依頼について。
最低限の条件を果たせば達成されたと判断され、ルーファスにより報酬が支払われます』
リスクを考えるのなら、サポートの方を引き受けるべきですよね。
ルーファスとのレベル差を考えると余計に。
彼がサクッと簡単に倒していたからといって、ルーシェリカさんにとってもザコだとは限らないですし。
『特定の追加条件を果たすことで、報酬が変化します。
標的情報に載っている達成内容には、プラス条件とマイナス条件双方あり、プラス条件は報酬が増えますが、マイナス条件を達成してしまうとぺナルティとして報酬が減りますので、行動に注意が必要です』
なるほど。
あの時『手伝う』を選んでいたら、おそらく追加報酬があったということですね。
最低限条件を達成したサポートの場合、30000。
覚えておきましょう。
『なお、<暗殺>の内容によっては特定の人物の好感度が下がる可能性があるので、依頼情報をよく読んでから引き受けるようにしましょう。
貴族支持率が10上がった』
あ。
成功した場合でも、報酬面以外で軽くペナルティあり、と。
では今回の件で、誰かの好感度が下がっていたりするのでしょうか?
ふと気がつけば、メイド服姿。
私が少し考えているうちに、ルーシェリカさんは朝の身支度を整え終えていたようです。
外出する用意が自動で出来ていたので、これ幸いにと私はドアに近づき、選択肢を出現させました。
誰かに会いに行く
自室で過ごす
1人で街に向かう
職場に行くので、一番上の『誰かに会いに行く』を突っつくと、泡が弾けるように今まで浮かんでいた文字が掻き消えました。
毎度のことですが、創造神はエフェクトに凝っていますね。実は毎回地味に消え方が違ってたりするんですよ。効果音は一種類だけなのに。
とっくにカーティス神経由でバレていると知っているでしょうに、ゲーム風にする理由はなんなのでしょうね?
何かの拘り?
そう考える私をよそに、新たなる選択肢が出現します。
ナタリーを探す
ベネットを探す
エドガーを探す
シャールを探す
シュダァを探す
セルマを探す
セリガンを探す
ミハイルを探す
カミルを探す
ジェラールを探す
職場へ行く
……ロゼの位置が空欄なのは、彼女が留守にすると言った翌日から。
空欄=選べない。つまり、王宮内にはいまだに帰還していないということですね。
ロゼ――騎士団の一部が出動したのは、12日のこと。
大量発生したカットバニィ討伐を実質3日で切り上げて帰ってくるというのは、いくらなんでも早過ぎですから。居なくて当然です。
早速、『職場に行く』を選択。
通い慣れた通路を通ってルーシェリカさんがドアを開けるなり、満面の笑みを浮かべたミレイ嬢と、常備しているホウキを手にしたイリスに出向かえられました。
「――おはようございます、お姉様!」
「メイド長、おはようございます」
「ミレイ、イリス。2人ともおはよう」
ルーファスは居ませんね。
多分、今度こそ誰にも指摘されないよう、消臭に励んでいて出勤が遅れているのでしょう。
ミレイと話す
イリスと話す
顔を出しただけと言って、職場を去る
まずは『ミレイに話す』を突っつき、次の選択肢である『支持率をチェックする』、『どう思われているかをチェックする』、『おしゃべりする』を出します。
で、『どう思われているかをチェックする』をタッチ。
支持率&好感度+友好度のチェックは二週目と比較すれば頻繁に行っているので、数値の予測はついているんですけどね。
昨夜の<暗殺>の影響が既にあるのかどうかを調べるのが目的ですよ。
むしろ、覚えている数値からかけ離れていたら困ります。
「どう思われているか、知りたいのだけど……」
「はい、お姉様」
ナタリー 好感度24/80 友好度2/100
ベネット 3/200 1/200
エドガー 8/200 4/200
シャール 3/200 1/200
シュダァ 8/200 8/200
セルマ 3/200 5/200
セリガン 0/200 4/200
ミハイル 3/200 2/180
カミル 0/120 4/200
ロゼ 5/50 16/50
ジェラール 22/100 17/100
アレン 22/200 14/200
セシル 26/200 13/200
グレーテル 10/200 10/200
パッと文字の羅列が広がった瞬間、私は驚きました。
ジェラールとカミルとの探索だった14日は、当然ですがチェックしていません。
この好感度&友好度リスト。
私が覚えている13日の数値より、一緒に行動していたその2人が変化していますし、<暗殺>で支持率が上がったせいなのか、ご主人様の好感度が上昇しているくらい。特に減少している人間はいないようです。
私が驚いたのは、そうではなく。
リストの変化があったからです。
今までは数値が出ているだけで、最大いくつまで上がるかなんて出てなかったんですよ。
……それにしても。
前から仲良かったとかで、差が出過ぎのような気が。
特にロゼ。ジェラールやご主人様も難易度的に低いですけど、際立ってロゼの50は低いですよ。
他陣営や初対面だった人達の200は、むしろ納得です。
「お姉様。幼馴染の方と順調に仲を深めていらっしゃっているようですね。ですけど、生真面目で職務に忠実な方のようですから、こちら側に引き込むのは少し難しいのでは?」
リストをタッチするとミレイの総評が流れ、文字の羅列が解けるようにして消えていきます。
その後。
ミレイと話して回復薬(小)をげっとし、金額が足りてないせいで今だに<賄賂>コマンドが出てこないイリスと世間話をすると、私は『職場を去る』を選択。
それを受けたルーシェリカさんが廊下に出ていき、そのまま何事もなく自室に辿り着くと、ピローン! と、効果音が鳴り響きました。
『一時的なパーティメンバー加入人数が5名を超えたことで、好感度友好度の上限値が追加されました』
単に条件が解除されたからだった様子。
ロゼ、ジェラール、エドガー様、カミル、ルーファス――確かに、これで5人ですね。
さてと。
今日のことで決めているのは、冒険者ギルドに行って割高買い取り中のカットバニィの爪を売り払うことと、昨日の探索で手に入れたアイテムの中に依頼品がないかどうかの確認。<青い鳥>で腐敗というか鮮度の関係するアイテムの売却。闇神殿でのステータスUP作業。
これくらいですね。
ロゼが居ない代わりといってはなんですが、他の人と王都の外にだっていけるのですけど。
どっちと行くかが悩みどころなんですよね。
アレンさんに同行してもらうか、それとも、セシルさんに500ギラー支払ってPTインしてもらうか。
……ここで考えていても、セシルさんと違って、アレンさんは確実に同行出来ると決まっていませんし。
とりあえず。
先に冒険者ギルドに行ってから考えるとします。
読んで下さってありがとうございます。
ちなみに。
ゲーム、金と黒の王国での<暗殺>出現条件は、
ルーファスが出現している、
ミレイバットエンド条件を満たしていない、
14日夜に王城に居る、の3つです。
隠し条件に、14日までにルーファスへ話しかけた回数によって渡される変装アイテムが変わる仕様。
ルーファスに話しかける回数が多いほど、質・効力が高い変装アイテムをGETできます。
ついでに。
現在の支持率。
平民45/200、貴族41/200




