第42話 彼女は招かれる②
今までの大地の日の外出は、本来ジェラールの幸運スキルの恩恵によってなのか、1日を通してエンカウント率がとても低い状態だったのですが。
誘引>幸運のようで、今回、スキルを所持するカミルがPTインしたことによって、通常よりむしろ高くなりました。
具体的に言うと、アレルレン河に着くまでに4回もモンスターと戦闘するハメになったのです。
必要がない限り戦わないというジェラールの方針により、逃走に成功して戦闘を回避出来た分を含めると、エンカウント率は5倍以上ですよ。
内訳は、カットバニィ18匹、カウル6匹。
片道とはとても思えない数です。むしろ、1日のモンスター討伐の最高記録を叩き出すであろうペースになっていますね。
ジェラールが呆気なく蹴散らすので、カミルの悪運スキルの効果は今のところ発揮されていなかったり。
「――おお!? こ、これは、なかなかに創作意欲を駆り立てる風景だね」
目的地であるアルレルン河に到着すると、カミルがキラキラと目を輝かせ、いそいそと河岸へ近づいていきました。
「――カミル。足元に気をつけてください。滑りやすいですよ」
「分かっている」
「本当に? ボクは忠告しましたよ。もしうっかり滑って河に落ちたとしても、助けませんからね」
「ああ、分かっているよ」
さっそく画材を取り出し、霧が漂う中、歩きながらスケッチを始めたカミルの声は生返事もいいところでした。
そんな友人の様子に、ジェラールはふぅと溜め息を1つ。
「ルーシェリカ。よほどのことがない限り、カミルは放置していていいですからね。忠告はしましたし」
そう言うと、ジェラールはリュックから見覚えのある釣り竿とバケツを取り出します。
「では、コレを」
「今回は釣りをするので?」
「ええ。この河で採れる魚で、石を食べる珍しい性質を持っているテルブという魚がいまして――」
ジェラールは目的を説明して桟橋に腰掛けると、ひゅっと釣り竿を振り上げ、水面の中に針を落としました。
少し離れた場所に腰を下ろしたルーシェリカさんも、慣れていないと分かるぎこちない様子で釣り竿を振ります。
ぽちゃんと、針は今回も無事に水面の中に消えて行きました。
ほっ。
そして。
ルーシェリカさんは数分もしないうちに、1匹目を釣り上げました。記念すべき獲物はルティンです。白いナマズっぽい魚。
そんなルーシェリカさんの眼の端では、既にジェラールが目標数に達したらしく、釣り竿をしまっていました。
その代わり、ピッケルのようなものと小型の網を取り出しています。
……ふと思ったのですが、ジェラールのリュック内部ってどんだけ容量あるんですかね?
入手してしまい込んだ戦利品とか探索用装備の数々を考えると、小屋くらい?
ルーシェリカさんが次に釣り上げたチュラ藻から針を外している間に、ジェラールは河岸を削って大量にキーレ貝とタミア貝をげっと。
毎度のことながら、あからさまなほど運の差が如実に表れています。
幸運スキルって、どういう条件満たせば手に入るんでしょう?
「ああ! 待ってくれ、ジェラール。ソレを、ちょっと見せてほしい。すぐスケッチし終えるから!」
そして、静かに風景をスケッチをしていたカミルですが。
納得いくものが出来たのでしょう。
画材道具を片付けていたと思っていたら、そんなことを言いだしました。
好奇心で満ち溢れ、キラキラ輝く茶色の瞳は、ジェラールがせっせと採取して乳鉢に入れたシャインゴケに釘付けです。
言われたジェラールは迷惑そうな表情を隠しませんでしたが、ずいっと乳鉢をカミルに向けて差し出しました。
「……サッサと描き上げてください。変色する前に下処理しなくては効力が激減してしまうんです」
「ありがとう!」
そんな男2人の様子を視界の端に捕えながら、ルーシェリカさんはひたすら釣りを続行。
前周の時よりテルブが釣れると良いんですけど。ジェラールの発言からして高く売れそうですし。
「なんだか楽しそうだね。せっかく、ここまで来たんだ。いい機会だから私も釣りをしたい。なあ。ジェラール。私にも釣り竿を貸してくれないかい?」
ルーシェリカさんが楽しんでいるかはともかく。
真剣な顔で水面を見ながら釣っているので、関心を惹かれたのか。カミルからそんな発言が飛び出しました。
「…………いいですよ」
ジェラールはしばらく考え込んでいましたが、リュックから釣り竿とバケツを取り出してカミルに渡しました。
何気に、先程彼が使っていた物とは違う釣り竿です。
最初から人数分用意していたもよう。ですが、それならどうしてすぐにいいと言わなかったのでしょうか?
「<――恩寵深き、フレメイアに希う――>」
嬉々として地面に腰を下ろし、釣り竿を振るカミル。
そんな彼に、何故か観察の眼差しを向けていたジェラールですが。
不意に詠唱し出しました。
「<――その大いなる力の片鱗を我らに――>」
ジェラールの足下に、グラデーションがかった緑に光る魔法陣が浮かび上がります。呪文が完成すると、彼を中心にして十数メートルほどの範囲にわたって、大地から薄緑に輝く温かな光が湧き上がりました。
その光はすぐに消えましたが、何だか体が軽いというか、力が何処からか満ち溢れてくるような。
どうやら身体能力の一時的な向上効果のある補助魔法のようです。
「ジェラール先生?」
「……保険です、保険。なんとなくですが、嫌な予感がするので」
なるほど。
だから釣り竿渡す時、ちょっと考え込んだんですね。
幸運Sなジェラールが言う嫌な予感って、割と洒落にならない気がします。
「よし! 釣れたって――うわぁ!?」
事件が発生したのは、釣り上げた大きな灰色に近い鯉そっくりの魚を、カミルが嬉しそうに自分の方へ引き寄せかけた、その時のことでした。
突如として、凪いでいた水面が大きく波立ったかと思うと、水中から巨大な影が高速で飛び出し、カミルが釣った鯉っぽい魚を、釣り糸ごと食い千切って奪い取ったのです。
その巨大な影は、ペットボトルロケットのように勢いよく高速で飛んでいき、アッという間に十数メートルもの上空まで到達。その影の正体は、巨大な飴色の甲羅――そう、亀!
何らかの力が加わらない限り、飛び上がった物体は落下するのが理。上昇する運動エネルギーを失った時点で落ちてきます。
例外ではなかったらしき巨大亀は落下してきました。くるくると凄い勢いで回転しながら。
その落下予測点は、桟橋から離れて1人キルトを敷くという食事休憩場所の準備をしていたジェラールの、ほんの少し手前です。
ジェラールは、その場から逃げませんでした。
手前だから当たらない――と、楽観視したからではありません。
ジェラールは半歩分左足を後ろに引き、両手に持ち変えて左足と同じ位置に構えた銀色の棍を、巨大亀が落下するタイミングを合わせて思いっきり振り抜きました。
唸りを上げて棍は見事、巨大亀にジャストミィイイイイトォー!!
ホームランとまではいきませんでしたが、堅い物がぶつかる鈍い音が響き、甲羅はジェラールの前方――数メートル先まで回転速度を更に増しながら、無人の方向に吹っ飛びました。
甲羅の大きさは2メートル近いです。なので、相当な重量であるということが簡単に推察出来ますよ。
本来ならば有り得ない光景ですが、先程の大地属性魔法がそれを可能にしたのでしょう。
ギュルギュルと音を立てて大地を抉りながら叩きつけられた段階で、巨大な亀は首と手足と尾を甲羅の中に引っ込めた防御姿勢を取っていましたが、すぐにその姿勢を解きました。
綺麗な黒い眼が、おそらくは敵意にギラリと輝いています。
その甲羅の一部に、くっきりと棒状の陥没が見えますから、先程の一撃はそこそこ堪えたのでしょうね。
ですが、殺気だって睨んでいるのは一撃を加えたジェラールではなく、ちょうど巨大亀が起き上がった正面方向に居た私――ルーシェリカさんです。
ちょっと!
確かにPT組んでいますけど、相手が違いますよ!
私、犯人じゃありません! 冤罪です!!
私の心の叫びが届くわけがなく。
巨大亀は、その巨体とは裏腹のスピードでルーシェリカさんに突進してきます。
……仕方がありません。
物理防御力は高そうですから、多分、ナイフや鞭は効果が薄いでしょう。
やるなら魔法攻撃ですね。
こちらに接近してくる巨大亀に、ジェラールの魔法とカミルの銃弾が命中した衝撃でか、失速。その隙にルーシェリカさんが拘束効果のある魔法を発動させ、すっかり身動き出来なくなったところを3人でボコにした結果――
『ルーシェリカ達はアレルレンタートル1体との戦闘に勝利した。
ルーシェリカは経験値を36、ジェラールは経験値を14、カミルは経験値を8手に入れた。
ジェラールは新たに先制攻撃Dと直感Dを取得した。
アレルレンタートルの肉を手に入れた。
巨大な甲羅(薄茶)を手に入れた。
核石(水)手に入れた』
キルマーク、げっとです。
戦闘結果の文字が消えうせた直後、効果音と共に新たな天の声が降りてきました。
『モンスターが10種以上以上登場した結果、モンスター図鑑を手に入れました。
自室にてモンスター図鑑がいつでも確認出来ます』
なんと!!
あったらいいなと考えていたモンスター図鑑げっと!
なかったのは、条件が達成してなかったからという単純なことだったようです。
ちょうどアルレルンタートルで10種目だったのでしょう。
せっかく釣った魚を奪われたカミルはちょっと落ち込んだ様子でしたが、ジェラールはご機嫌でした。ドロップ品が珍品だそうで。
それを聞いたルーシェリカさんは、ジェラールに回収したドロップ品を速攻譲渡。
まあね。
ジェラールは毎回ドロップ品景気良くくれますし、欲しいというなら譲った方が心象的にも良いでしょう。
お昼を少し過ぎた頃。
釣りを気に入ったらしく帰還を渋るカミルの首根っこを、ジェラールが文字通り引っ張る形で、王都に帰ることになりました。高速移動再びです。
帰り道も異常なエンカウント率でしたが、ほぼジェラールがあっさり撃退して、一行は無事王都に帰還。
ジェラールから今日の成果(大量)を受け取ると、ルーシェリカさんは若干重量にふらつきつつ、自室に辿り着きました。
あ。
運ぶ量が量なので、ジェラールとは部屋の前の廊下まで一緒でしたよ。
さすがに年頃の女性の部屋に入るわけにはいかないと言って、そこで帰りましたけど。
夕日が差し込んで赤く彩られた室内で、せっせとアイテムを分類していたルーシェリカさんでしたが。
ひゅっ! と、唐突に響いた風切り音に弾かれたように顔を上げ、さっと隠し武器のナイフを手にすると、その場から素早く飛びのきます。
彼女が先程まで居た絨毯の上に跳ねてコロコロと転がるのは、手のひらサイズのボールらしき物体。
え!?
何これ?
ポカンとして展開についていけない私を置いてきぼりに、ルーシェリカさんは襲撃者(?)を探すべく視線を巡らせました。
そして――
「……なんだ。貴方だったの」
程なく見つけた人物の姿に、ほっとしたように呟いて肩の力を抜きました。
そんなルーシェリカさんとは逆に、私は警戒しましたよ。
だって、そこにいたのは怪し過ぎる人間です。
フード付きのたっぷりとした体形を隠す茶色のマント姿で、中に来ている服は見えない。フードを下ろしているので髪の色も分かりませんし、つるりとしたシンプルな仮面を被っているので、口元しか分かりませんよ。
目の部分も細いので、瞳の色すら分からないのです。
どうしてルーシェリカさんは警戒を解いたのか、不思議なくらい明らかな不審人物。
……なんか、や~なデジャヴが。
「――や~っと気付いたか」
聞き覚えのある男性の声が響き、手袋に覆われた手が仮面を外しました。仮面の下から現れたのは、美形ではないけど整った顔立ちと、緑の双眸。
……一週目の下手人は、私の予想通りだったようですね。
ルーファスと書いて、殺害実行犯と読みます。
「それで? ノック無しで勝手に入って来て、私に何か用なの? ルーファス」
普段の執事服ならば仕事の件で立ち寄ったと分かりますが、今回不審者丸出しの下手人スタイルです。
本当に何の用か、大変気にかかりますよ。
見つからない自信あってのことでしょうし、実際騒ぎになっていないのですから見つかってはいないのでしょうけど、その格好に何か意味があるのかとか。
「ああ。今から、ちょっとそこまで刈りに行く。手伝ってくれるよな」
ルーファスは断定口調でした。
YES以外の答えが返ってくるはずがないと言いたげな。
それにしても、かり……狩りですよね?
いったい、何の?
間違っても山に柴刈りに行くという展開ではなさそうですけど。
ルーファスから詳細を聞く
ルーファスを追い出す
怪訝に思う私に応えるように、選択肢が浮かび上がりました。
Jが打てるようになったはいいのですが、今度はМが打てなくなり、大変に不便です。
マ行の言葉になるたびに、かな打ちに替えているのですけど慣れてないから時間がやたらとかかるかかる。
J連打現象自体は治ってないので余計にですよ。時々、執筆中に発生したりして本当にやりにくいのなんの。
スキャンは毎回立ちあげた直後とシャットダウン前にやっているので、ウイルスのせいとは考えにくい。
光に変えた直後からこうなったけど、家族のパソコンは異常ないのでやっぱり違うっぽい。
一番ありえそうなのは、前回書いたように五年たってるノーパソだから……やはり新しく買い替えるべきですかね?




