表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
PR
34/47

第34話 彼女は選び②

「――今から貴女に、この影相手に戦ってもらいます」

「コレと……戦うのですか?」


 ルーシェリカさんは少し戸惑った声で呟きました。


 基本的に血生臭さとは無縁の清浄な空気に満たされた神殿内。

 その中で、信徒を導く神官にごく穏やかな空気と口調でもって、いきなり戦えと言われれば、そういう反応になるでしょうよ。


 まあ、私は部屋が広い理由が理解出来て、そういうことか――と、出来ましたけど。

 この部屋は鍛練所だったようです。

 これだけ広いのは、充分に動き回れるようにとの目的があってのことだったのですね。


「影も、生きるモノの身の一部。頭や体に覚え込ませた経験やスキルが、元々宿っているのですよ。それをカーティスの御力により一時的なことですが、より強くより鮮明に仕立てあげた。

 カーティスの僕である私を含めたここの神官は、1人の例外なく、己の影を神聖術によって切り離し、一時的に物質化して挑むことによる自己鍛練を毎日行っています」


 セシルさんはルーシェリカさんから距離を取ったまま、ゆったりとした口調で詳細を話してくれました。


「己の影と戦うことによって戦闘中の体の動かし方、武器の癖などを客観的な目線でに見つめ直すことが出来ますし、カーティスの神気で一時的にとはいえ物質としてます。結果として、モンスターを倒した時のように術に込められた神気を取りこむので、影を傷つけ、倒すことによってレベルを上げることも可能です。逆に影に倒されたとしても痛みこそありますが、死までには至りません」


 要するに。

 1000ギラーは、経験値の入る死亡危険のない神官専用の戦闘訓練ということですね。

 セシルさんがわざわざ離れた位置に移動したのって、巻き添えを避けるためだったもよう。

 もしかしたら術者を倒した場合でも影が消える――倒せるのかもしれないですが、セシルさんから無駄に反感を買う必要はありません。


「何か聞きたいことがありますか?」


  最初から説明を聞き直す

  特に聞くことはない


 今回、天の声による補足説明が無いようですね。

 ま。スキル操作とは違って、具体的な数値が出てくるわけではないですし、単に戦うだけです。

 それなら『特に聞くことはない』で。


「それでは、今から戦闘を始めます」


 そうセシルさんが言った瞬間、即座に影は動きました。

 いつの間にか取り出された闇色の細いナイフを握りしめ、ルーシェリカさんへ一気に接近し、肉薄してきます。そのまま流れるようにナイフが一閃。


 後から考えれば、スピード系統で戦う暗殺者訓練を受けていたルーシェリカさんの思考と技術がある影らしいといえばらしい、奇襲に近い先制攻撃なのですが。


 開始合図と同時に突っ込んでくるとは思って見なかった私は、慌てて攻撃を受け止めることを考えました。

 結果。

 何とかナイフの一撃を止めることが出来たものの、頭の切り替えがいまいちだった私が作ってしまったタイムラグの結果――ナイフを受け止めることによって出来た隙を突かれました。

 具体的にはルーシェリカさんは片足を低い位置で払われて、体勢を崩すことになってしまったのです。


 ぐらつきながらも、何とか怪我をしないように避けようと私が考えていたからでしょう。

 体勢を崩したところに襲ってくるナイフの一撃を、避け切れはしませんでしたが、マトモに喰らうことはどうにか回避することが出来ました。


 それにしても。

 久々に痛いですよ。

 ルーシェリカさんに私がさせていた、遠距離からの先制攻撃スタイルだと怪我を負うこと自体少ないですし、そもそも単独での近距離戦闘経験事体が少なかったのです。

 ここまで痛い思いをしたのは、ソードバニィBOSS戦以来と言っていいでしょう。


 神聖術によって物質化した影のナイフは刺さっても、実際に皮膚を引き裂くことはありません。ですが、痛みはあります。

 セシルさんの言った通りですね。

 おそらく見た目の怪我は負わなくても、数値としてはHPがしっかり減っているように思えます。


 最初の出足が悪かったからでしょうね。

 私が近距離戦闘に慣れていないせいもあって、そう時間が経たないうちにルーシェリカさんは何度も激痛を味わうことになりました。


 持っているスペック自体は同じはずです。

 それなのに、影には2回に1回しか攻撃が通りません。

 無意識の判断として指示を出している私がへっぽこなせいでしょう。落ち込みます。


 実際、敵対してみると実にやりにくいスペックの持ち主ですよね。ルーシェリカさんってば。

 距離を取ってもすぐにその分詰められるか、攻撃方法を切り替えて追撃されますし、当たりにくい。

 特に『連続攻撃』と『急所攻撃』なんてスキル持ちの敵が存在するとしたら非常に怖いのだ――と、思い知らされました。

 それに――影は真っ黒でモンスターと認識出来ますけど、人型なのです。

 今までルーシェリカさんが戦ってきたのは、主に動植物系統のモンスター。勝手が違います。

 まったく気が抜けません。


 息詰まる、この戦闘は。

 ルーシェリカさんの敗北に終わりました。

 ええ。

 やっぱり私では状況を立て直せなかったんです。

 

 影の振るったナイフの一撃が、首に叩きつけられたと思った瞬間、激痛と共に視界が暗転しました。

 ルーシェリカさんが気を失ったようですね。


『ルーシェリカはシャドウ1体との戦闘に敗北した。

 ルーシェリカは25の経験値を手に入れた。

 ルーシェリカはレベルが1上がった』


 暗転した視界の中、効果音と共に天の声ナレーションが浮かび上がりました。


 ええ?

 負けたのに、何で経験値が?

 戸惑う私に構うことなく、レベルUP時の手続きは続きます。


  現在のスキルポイントは34Pです。

  スキルポイントを使用しますか?

  

  はい

  いいえ


 ……う~ん。

 いろいろ気になりますが、とりあえずコレを終わらせないと状況は進まなそうですね。


 昨日いろいろ覚えたばかりなんで、どれを上げるか迷います。

 ランクDのスキルを2つ上げるか、それともランクCの1つをBにするべきか。

 いっそのこと、今回は貯めましょうかね?

 上げるスキルが決まってからでも全然構わないんですし。

 

 よし。貯めましょう。

 浮かび上がった『いいえ』の文字をタッチします。


『神殿内でセシルに1000ギラーの寄進をすることにより、シャドウとの戦闘訓練を受けることが出来ます。

 出現するシャドウのステータスは、術を掛けられた対象と防御力以外のステータスと同一です。防御力はその対象の半分なので、とにかく攻撃を命中させましょう。

 この戦闘訓練の勝利によって得られる経験値は、20×レベルです。敗北した場合でも、ある程度シャドウに攻撃が通っていれば、5×レベルの経験値を獲得することが出来ます。

 ただし、ショドウから得られるドロップアイテムは存在しません。

 この寄進によるターン経過は、1ターンです』


 『いいえ』を選んだ途端、ピローンという効果音が鳴り響き、天の声ナレーションによる待望の説明が入りました。


 なるほど。

 攻撃は最大の防御という仕様なんですね。

 多分、神の力を借りているからと言って完全に同一の存在を人間が一時的とはいえ作成出来ないという側面からなんでしょうけど。


 それにしても戦闘勝利の場合、20×レベルって。

 いやはや、スゴイ数値。

 これって、レベル上げだけを優先するなら地道にモンスターを倒すよりも、1000ギラー支払って戦闘訓練する方が効率が良いってことですよね。

 負けたとしても少なからず経験値が入るので、余計にそう感じます。


 そして、こんな神聖術の扱いを許しているカーティス神は、自分の神官を随分と優遇しているように思えるのですが。

 私の気のせいでしょうか?


 カーティス神による神官贔屓疑惑に駆られながらも、セシルさんによって救護室っぽいところに運ばれたルーシェリカさんが意識を取り戻したので、私は速やかに闇神殿を後にしました。

 そのまま王城に戻ります。


 体が動かせるようになると、まずは自室内のコンテナに近づきました。蓋を開けて、中にあるキラービィの針を全部取り出して背負い袋に詰めます。

 今からジェラールに渡しに行くのですから、持ち歩かないといけません。さすがに30個だと、かなり重いですね。


 次に、机に近づきました。

 即座に選択肢を浮かび上がり、空中に浮かぶそれらの中から『状態を確認する』を突っつきます。


  13日目・昼・自室


  ルーシェリカ・シリス(17)

  レベル 6

  HP 83/166

  MP 107/142

  称号 ナタリー王女付きメイド長

     ばにぃ・きらー

  属性・闇

  状態・健康

  所持金 58082ギラー


  戦闘スキル 短剣A(MAX)

        鞭A(MAX)

        格闘C

        闇魔法B

        高速詠唱D

        急所攻撃S(MAX)

        連続攻撃B

        範囲攻撃D

        緊急離脱C

        見切りD

        投擲D

  一般スキル メイドA

        採取D

        薬学知識C

        植物知識D

  スキルポイント 残り34P


  装備 投げナイフ/皮の鞭

     上級メイド服

     銀のアンクレット+2

     (歩行速度上昇・毒無効)

     白銀の懐中時計

  所持品 爆薬(液体)/鋼糸/毒薬(効果・麻痺)

     回復薬(小)4

     解毒剤4

     背負い袋(大)

     イヤーマフ


  素材アイテム キラービィの針30

        (以下コンテナ内・五十音順)

         イズの根6

         ウルフの牙4

         ウルフの爪12

         オレンジマリン7

         カットバニィの爪29

         核石(大地)のカケラ1

         キラービィの触角5

         キラービィの羽17

         スーニ草5

         ソードバニィの毛皮2

         ソードバニィの尻尾1

         ノウェルの葉肉9

         ノウェルの実6

         トレントの葉1

         トレントの根1

         ハクライ草8

         バニィの毛皮27

         ピンクマリン9

         ホワイトマリン7

         マンドラコラのカケラ10

         マンドラコラの根3

         ルバウルフの毛皮2

         レッサーボアの牙1


  贈り物アイテム なし


  特殊アイテム 謎の仮面

         宝くじ5

         夜間通行許可書


 あれ?

 HPが残り83って。

 気絶するまで追い込まれたので、てっきり私、一桁台で瀕死状態になっていると思い込んでいました。

 それなのに、最大HPの半分もあります。

 あの状況を考えるのなら、セシルさんが簡易治療してくれたというのが一番可能性として高そうですね。


 明日の採取のために、回復薬(小)を飲むことにします。回復値は50なので、1本だと全快にはならないですけど、自然回復に任せますよ。

 レベルが上がってHPが増えましたから、回復率2割は変わらなくても、数字的には全快に近い状態になるはずです。私の脳内暗算があっていれば。


 それから私は。

 ジェラールに会いに行きました。

 見つけ出した時、ちょうど従僕っぽい男性に昨日の見た目飴玉の薬を渡して、実験台にしていたところでしたよ。


 今回ジェラールに対して、その従僕は怯えた様子がありませんでした。むしろ、ジェラールを見る目は強い信頼が浮かんで見えます。

 おそらくですが、この従僕、ルーシェリカさんと同じように病気で困っている時、(ほぼ強制的に)助けられた例なのでしょう。

 

「ふむ……貴方はHPの回復効果、と。協力ありがとうございます」

「いえいえ。これくらい、お安い御用です」

「助かりましたよ。では、貴方にも仕事があるでしょうし。ボクはこれで」

「はい、先生。機会があれば、また」


 会釈して去る従僕を見送っていたジェラールでしたが、居るのに気付いていたのでしょう。

 立ち止まって話しかけるタイミングを見計らっていたルーシェリカさんの方に、驚いた様子もなく真っ直ぐ目を向けてきました。


「こんにちは。ルーシェリカ。ボクに何か用ですか?」


 ルーシェリカさんは挨拶を返すと頷いて、ジェラールの傍へと近づいていきます。


「はい。先だって御引き受けしていた依頼の件で、ジェラール先生を探していました」

「ああ。例の依頼ですね。では頼んでいたモノが、集め終わりましたか?」

「はい。今すぐにでもお渡しすることが出来ます」

「そうですか」


 ジェラールは出来の良い生徒を見る教師のような満足げな様子でルーシェリカさんを眺め、1つ頷きます。


「では、移動しますから着いてきてください。ここは受け渡しに向きません」


 一瞬、何故と疑問に思った私でしたが、すぐに気が付きました。

 ジェラールの3つ目の依頼には、市場価格で代金を支払うという項目があったことに。


 王城の外に買い物に出るつもりでいたのならともかく、彼は実験台を求めつつ散歩していたのです。

 単に、財布を持ち歩いていなかったのでしょう。

 もし仮に財布を持っていたとしても、依頼品の量が量なので自分で運びたくないという心理が働いて、そのまま移動を促した気がします。

 初対面時にジェラールに荷物運びさせられた経験から、その可能性を否定することが出来ません。

 事実として、キラービィの針を30個も運ぶのはキツイですから。


 ジェラールが向かったのは、受け取った後のことも考えてでしょう。

 お馴染み、薬剤院の工房アトリエでした。


「――ジェラール先生。導師シュダァに今回の件を報告したところ、貴方から証明書を受け取るようにと承りました。お手数ですが、一筆書いていただけないでしょうか?」


 ルーシェリカさんはシュダァ様の要望を忘れていなかったようです。


 依頼したアイテムを、キチンと真偽鑑定するつもりだったのでしょう。

 冒険者ギルドで見るものと同じようなレンズの厚い虫メガネを取り出し、依頼品を受け取ろうと両手を差し出してきたジェラールの動きが止まりました。


「ええ。別にそれくらい構いませんよ。ちょっと待っていてください」


 ジェラールは頷いて両手を引っ込めると、先程開けた戸棚から紙を取り出します。

 そのまま机に腰掛けるとサラサラとペンを滑らせ、書類を作成しました。

今回、あんまり進みませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ