第30話 彼女は得る①
リアル事情により、大変お待たせすることになってすみませんでした。
謎の選択肢は非常に気になるものの、ロゼが居る時は民衆支持率上昇に繋がる行動をしたいと考えているのもあって、堅実な選択――『神殿を出る』を選ぼうと考えていた私でしたが。
『ルーシェリカはカーティスに感謝の祈りを捧げた。
スキルポイントが2増えた!』
カーティス様に祈りを捧げ、彼の方に応じられた証拠である天の声の文字が消えると、ルーシェリカさんは祈祷所を後にして薄暗い廊下を歩き、礼拝堂に戻りました。
礼拝所にある木製の長椅子に座って待っているロゼと、祭壇の前に佇むセシルさんの姿が見えてきます。
神殿ということもあって、ゆっくりとした歩調でセシルさんに向けて近づいていったルーシェリカさんでしたが。
いつもの『祈り』を終えた後とは違って、こちらの接近に気付いたセシルさんの方から話しかけてきました。
「――カーティスの加護を受けし子よ。
貴女がどのような目的で参拝を続けるようになったのか、想像するしかありませんが……ほぼ毎日、欠かすことなく祝福を受け、カーティスに祈りを捧げている。大いなる神の御力を、ほんのわずかずつ分け与えていただいて――少しでも、確実に身体強化していっているのは事実です」
まあ、確かに。
セシルさんの立場からしてみると、気になりますよね。
ルーシェリカさんはご主人様から今回の命令を受け取るまで、彼女の初期ステータスから考えてみると、毎日というほどには熱心に神殿通いはしていなかったようですし。
「悩み、切磋琢磨する信徒に力を貸すのもまた、神に仕える者として選ばれた我々に課せられた使命」
私はその言葉に。
うっかり――もしかして、このままセシルさんのPTイン展開? と、期待しました。
会いに来るの、これで10回目ですからね。
キリが良いと言えば良いですし。
しかし、現実はそこまで甘くありませんでした。
「――とはいえ、対価を受け取ることもなく、特定の個人を贔屓し助力してしまうことは、神に仕える身である我々には許されていません。
寄進をしてくださるのなら、その対価に見合う助力を振る舞いましょう」
寄進――すなわち、お金です。
助力が欲しいならお金を払えということですね。なんとも世知辛い。
まあ、分からないでもないのですよ。
神殿側も評判や面子というモノがあります。
神官一人の判断で無償の助力という名の贔屓をして、その人物が思いもよらぬ極悪人だったとしたら、面目丸つぶれで信者が離れて大変なことになってしまいますから。
それくらいなら、最初から情ではなく金銭での対価を受け取っているからこそ、ある程度の助力をしているということにした方が、よっぽどマシでしょう。
少なくとも同じ金額を支払えば、同じモノを受け取ることが出来ると周囲に解釈してもらえますしね。
……最初から寄進という選択肢がなかったことを考えると、ある程度、信者と表立って接する神官に、そういうことが出来ると伝えて助力するかしないかの判断は任されているようです。
実際のところ、同額のお金を支払っても、万人が同じモノを受け取るということは出来ない可能性が高いと思われますね。
ピローン!
私がセシルさんの言葉を噛み砕いて考えている途中に、お馴染みの効果音が響き渡りました。
『神殿コマンド、寄進が出現しました。
セシルに特定金額を支払うことで、使用が可能になります。
現在のところ、100ギラー、500ギラー、1000ギラーの3つから選択が可能です』
天の声が掻き消えると同時に、セシルさんの目の前に選択肢が浮かび上がりました。
寄進という項目が、『???』のあった場所に浮かんでいます。
どうやら、あえて選択しなくても、勝手にイベントが発動するタイプ――扱い的に、強制イベントだったもよう。
それにしても、寄進金額が意外なほど安いですね。
もしかして、助力といっても一時的なモノで永続するような効力はなかったりするのでしょうか?
ちょっと便利になる程度のモノで、実はセシルさんのお小遣い稼ぎだったり?
私は少し考え込んでから、『神殿を出る』を選択しました。
寄進の説明の際、天の声がターン変動がないと言ってこなかったからです。
『祝福』や『祈り』と同じく、選択してから初めて言ってくる可能性もありますし、3コースの全部が全部、ターン経過するモノとは限りません。
ですが、何度も言うように私としては、今日はロゼと街の外で戦闘に費やしたいのですよ。
ターン経過という結果にならないためにも、今日は無視。
そのまま神殿を出ると、私は<青い鳥>へ向かいました。
キラービィの針を取り扱っているか、調査するために。
店の種類としては万屋ですし、モンスターのドロップアイテムの買い取りはしているのですから、売っている可能性だって充分あります。
「――いらっしゃいませ! 御用は、なんでしょう?」
<青い鳥>に入った途端響いた笑顔のグレーテルさんの掛け声に一瞬遅れ、選択肢が浮かび上がります。
商品を見る
取引する
店から出る
私の目的を果たすためには、『商品を見る』です。
指でそれを突っつくと、更なる選択肢が浮かび上がります。
武器を見る
防具を見る
薬品を見る
装飾品を見る
日用品を見る
その他の商品を見る
見るのをやめる
モンスターのドロップ品ですので、扱っているとしたら『その他』ですね。
ジェラールが欲しがっているのですから、薬品の原材料になるものです。ですが、『薬品』は選んでみたことがありますけど、アイテムの分類が違っているせいなのか、ありませんでしたし。
更に突っついて、次なる選択肢を浮かび上がらせます。
商品リストを見る
見るのをやめる
『商品リストを見る』を選んで突っついた瞬間、ずらっと空中に文字の連なりが浮かび上がりました。
思った通り、モンスターのドロップアイテムがリスト内にあります。
『錆びたクギ』とか『小さな歯車』とかの、用途不明アイテムと一緒になっているのが何とも……
さすがは万屋。何でも扱っていますね。
「え~と、キラービィの針……っと」
気を取り直して、目的のアイテムを探します。
幸いにも、リストは五十音順になっていたので、割とすぐに見つかりました。と、いうか『????』が多いです。
多分、ルーシェリカさんが手に入れたことがあるモノや既知であるモノ以外のドロップ品は、創造神の干渉により正体不明扱いになっているのでしょう。
このアイテム、個数制限ありですね。
10個しか買えません。
「……ま、いっか」
とりあえず、私はキラービィの針を10個買うことにしました。
アイテム名を突っつくと、『アイテムを見る』と『購入する』の選択が浮かび上がります。
そのまま『購入する』を選択すると、上下に向いた小さな三角が浮かび、上を向いている三角形を押すと数が大きくなりました。
限度数である10で、それ以上は増えることなく止まります。
値段も数字の隣に見えるので、計算しなくて済む分便利ですね。
1個120ギラーで、合計1200ギラー。
依頼人ジェラールは店頭価格で引き取ってくれると言ってくれましたので、別にルーシェリカさんの懐は痛みません。むしろ、戦って得た17個2040ギラー分、温かくなります。
「キラービィの針が欲しいのだけど、ここでは取り扱っている?」
ルーシェリカさんが、カウンター内にいるグレーテルさんに向け、そう話しかけました。
「はい。ですが、お客様のお望みになられているキラービィの針を始め、材料として使用用途がある品物は全て、入手後、当店と交流のある他店にほとんど卸しています。それほど、当店の方に数はございません」
なるほど。だから、買い取りもしているのに10個しかないんですね。
「今、この店にある数は?」
「他店に卸しているものは、一律在庫が10になります」
「全部買うわ」
「――ありがとうございます」
これで残り必要数は3。たった3個ですよ。
「在庫の補充は何時なの? まだ必要なのだけど」
「……そうですね。他のお客さんの持ち込み状況によりますが、お客さんと同じで売ってほしいという方が稀にいるので、1週間ごとに補充はしています」
おお。朗報ですね。
これなら、ジェラールの依頼は達成したも同然です。
期限に充分間に合いますから。
<青い鳥>に毎日通って、在庫があったら即買いましょう。
何せ、遭遇したことがあるとはいえ、キラービィの主な生息地は知りませんからね。森がつく地名に居そうな気がしますが。
多少時間が掛かるとはいえ、購入するの方が確実に手に入りますから。
その後、私達はそのまま王都を出ました。
残り1匹倒さなくてはいけないルバウルフを探して、レイニドール街道を進みます。
今日は、なかなか出てきません。
その代わりといってはなんですが、大繁殖中のカットバニィとは5匹ほど遭遇したので、サクサク倒します。
しばらく歩くと、ルーシェリカさんは街道の石畳から逸れていきました。
私もちょっと空腹感を覚えているので、多分、昼食を取れる場所を移動しながら見つくろっているのでしょう。
ほどなくして。
ルーシェリカさんは少し街道から脇に逸れた柔らかい草の絨毯の上、モンスターが飛び出してきたとしても即座に対応可能な見晴らしのいい場所で、ロゼと並んで座ります。
予想通り、お昼御飯にするようですね。
今日の<青い鳥>製のお弁当の中身は、野菜と薄切りのパンをといた卵とミルクでとじて、チーズを掛けて焼いたパイというか、キッシュに似たもの。
実は<青い鳥>のお弁当って、毎回中身が違っているのですよ。だから袋から中味を出す時、何が出てくるか分からないので、わくわくします。
「ねぇ、ルー」
食べ終わって、まったりとしていた時でした。
同じモノを美味しそうな顔で食べていたはずのロゼが、何だかちょっと困ったような表情を浮かべ、声をかけてきたのは。
「しばらく、付き合えなくなったよ。カットバニィの件で、私の所属隊、何日かかるか分からないんだけど、明日から王都を出て討伐することになったから」
どうやら、とうとう騎士団の方が出ることになったようです。
前情報から予想はしていましたから、驚きはありません。
「ごめんね、ルー。いきなりのことで。確かに軍部――兵卒の方は出ると前から予想してたんだけど、騎士団の方まで出動要請が出るとは思ってなかったんだよね」
アレ?
何か、私とルーシェリカさん達との認識に違いがあったようですね。
ロゼの話を聞くに、レイニドールの騎士は本来、王に対する守り手。
王国に住まう一般市民の守り手にもなっているのは、ただの結果論であって、名目としては違うようなのです。
国王に服従し、その傍に侍り、王の僕として相応しいように己の強さを磨く身である騎士達は、その命により王国の――王の膝元である王都、その他地域の治安を守るために派遣されることもあるといった様子で、何にかえてもよりも重要で優先順位が上なのは、王。
ようするに騎士と兵士では出身的なモノだけでなく、あり方――存在意義が違うのようなのですよ。
騎士=王の近衛、兵士=王国と国民の守り手のもよう。
レイニドール王国全体の治安維持に尽力しているのは兵士達で、一般的に軍部といえば彼等とイコールで結ばれるっぽい。
この辺、私は勘違いしていたようです。
本来なら、騎士団の一部とはいえ、通常任務以外の出動の可能性は高くなかったようですね。
今回問題となっているカットバニィが厄介なのは繁殖力であって、実力面では弱いモンスターの部類です。
武装した一般人でも、やろうと思えば何とか討伐可能な強さ。
ロゼの様子からして、兵士達や冒険者に任せて騎士団は出てこない可能性が高かったらしいのですが――冒険者ギルドの方からの報告が割と洒落にならない数値まで達しているからなのか、それとも、他にも王都周辺で不穏な事件が起きてしまったから騎士団を出すことで、国王は民を見捨てていないというアピールが必要なのか。
私には判断出来ませんが、レイニドール上層部がGOサインを出して騎士団出動を決定したからには、見習い騎士であるところのロゼに影響がないわけがありません。
「そうなの。頑張ってね、ロゼ。でも、思ったより早く討伐が済んで、付き合えるようなら連絡してちょうだい。出来るだけ手伝ってほしいのが、本音だから」
ルーシェリカさんは、実にあっさりとした様子で受け取りました。
まったく気にしていない様子であることに、ロゼはホッとしたような顔をします。
ロゼはお願いされている方ですし、理由だってちゃんとしたモノなんですから、そんなに気にしないでも良いと思うのですが。
「うん。分かった。大丈夫そうなら、連絡入れるよ」
その後、続けざまに3匹、お待ちかねのルバウルフと遭遇し、戦闘に勝利しました。
討伐依頼数に達したので、さっさと王都に向かって街道を引き返します。
そういえば依頼数より過剰に倒したのって、今回が初めてですね。
何か達成報告の際に、違いがあれば面白いと思うのですけど。
王都向かっている途中、またスーニ草を入手しました。今度は2束。
やっぱり、詳細は不明です。
ジェラールが居る時に、採取すれば確実に説明してくれると思うので残念。
あ。
ジェラールといえば、まだカミルから回収した植物図鑑①②③を渡しに行っていないですね。
うっかり忘れないうちに、渡しに行かないといけません。
上手く夕方のターンに着いたのなら、冒険者ギルドの方にも寄ろうと思っていましたが、無理でした。
ルーシェリカさんとロゼは寄り道することもなく、王城に戻り、笑顔で別れて各自の部屋にただいま。
明日やることが増えましたね。
読んで下さって、ありがとうございます。
次も間が空きそうです。




