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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
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29/47

第29話 彼女は発見する

 本日はフレメイアの月、水の11日です。

 ロゼと一緒に行動する予定の日ですが、肉体の操作権が来るやいなや、私がしたことはドアではなく机に近づくことでした。


 いろいろと気になっていることを調べるためです。

 まずは用語図鑑を選択しました。


 確か、昨日セルマは『スティグマ』って言ってましたよね?

 シュダァ様の王位継承の可能性が低い理由が、それを持っているから。


 恥ずかしながら、私は学生時代――文系のくせに英語が苦手という悲しい成績の持ち主でした。

 英語を聞き取ることは結構出来るんですけど、文法が壊滅的に苦手だったんですよ。英単語は何故ああまで覚えにくいのでしょうか?

 なので、聞き取れても意味が連想出来ないという残念な結果に。

 私の英単語語録が少ないので、スティグマが何なのか、連想出来ません。英語ですらない可能性もありますが、分かりません。


 私のスペックの残念さはさておき、早速チェックです。


聖痕スティグマ

 六大神のいずれかから先天的に与えられる才であり、その証である。

 体の一部に己が属性である神の刻印を持っている者は、その神に仕え、その神の力を受け取り、その意に忠実に従うべき僕として、生まれながらにして選ばれている栄誉ある者である。

 顕著な特徴として、肉体がその者の最盛期の状態で死亡するまで維持される代わり、生殖能力を持たない。

 聖痕を生まれ持ちながら神官とならない者は、王族のみである』


 これはまた……

 肉体が最盛期の状態で維持されるって、要するに不老ってことですよね。

 シュダァ様が実年齢より10歳近く若々しく見えるのは、これが原因でしょう。


 20代半ばに見えるのは、あくまで私の目にそう見えているだけの話です。

 シュダァ様の落ち着いた物腰や雰囲気、眼差し。それが年齢を引き上げて見せているのでしょう。

 多分、シュダァ様の外見肉体年齢は、もっと若いと思われます。今度、よく観察してみることにしますね。


 そういえば、シュダァ様の説明文に奥方のことについては記入されていませんでした。

 きっと、コレが主な理由で未婚なんでしょう。


 国王に選ばれる可能性が低い理由も、ハッキリしました。

 シュダァ様は自分の子孫を残せないと分かっているのですから、形としては中継ぎの王となるしかないですね。


 最初から神殿に身柄を引き渡したら引き渡したで――王の子という称号を取りあげられようとも、流れる血筋が王族であることは覆しようのない事実です。

 聖職者とはいえ人間ですから、野心的な者も居るでしょう。

 同じ神殿にそういった人間がいた場合、御輿に担がれた結果、勢力拡大されて他の神殿との間の均衡を崩されたり、必要以上に国政へ口出ししてくる危険性があります。


 まだ神殿に行かずに王族のままでいる方が、国内に無用な混乱が発生する可能性が低いので、そういう状態になっているのでしょう。

 王族の聖痕スティグマ持ちって、厄介な立場ですね。 


 納得した私は、レイニドール王国についてのページを見ることにしました。

 単なる確認です。

 

 ふむふむ。

 やっぱり歴史表に、反乱と紛争が書いてありますね。


 王位継承による貴族達の反乱『ペネロピ侯の乱』は5年前で、イネスタ王国との国境紛争『ミュシュルー南部戦』は20年前から始まり、16年前で終結しています。

 あ。

 備考に、この紛争の終結後、和平の証としてご主人様のご生母である第1王妃アンジェラがイエスタ王国から嫁いできたって書いてありますよ。

 こういう経緯だったんですね。


 アレ?

 だとすると、ご主人様って15歳か、今年で16歳になられるのですか?

 ミハイル王子は誕生日によっては14歳ですが、今年15歳は確定ですし。姉上って呼んでますから、ご主人様の方が早く生まれているのは確実。

 ……多分腹違いでしょうけど、ミハイル王子が実は国王様似でない限り、16年前の段階で王妃が3名になっていたということに。


 ご主人様のきょうだいって、名前すら出てきていませんけど、下にあと2人いるんですよね。

 『レイニドール王国』では国王様と第1王妃以外の名前なんて出てきていませんから、『レイニドール王族』について見ないと載っていないかもしれません。

 

 ちょっと気になるので見てみます。

 ……うん、そっちで見たら王弟を含めて、全員載ってました。


『現国王ブライアン(42)――レイニドール国王。在位5年。

 第1王妃アンジェラ(31)――和平目的で嫁いできたイネスタ王国前王第3王女、現在はイネスタ王妹。

 第2王妃リディア(39)――社交界デビューの直後にブライアンに見染められ、王太子妃に。元はジェラルディ伯爵家令嬢で、現在は第2王妃の身だが、長年王の寵愛が最も深い。

 第3王妃カトレア(32)――イネスタとの紛争の舞台となった地域を治めていたミュシュルー伯爵家の令嬢。アンジェラとほぼ同時期に、アンジェラの立后によって起こりえる反イネスタ感情を抑えるため、第3王妃として迎えられる。


 ティアウス公セガール(39)――ティアウス公爵。ブライアンの同母弟。臣籍に下っている。

 カルラド公シュライゼルン(34)――カルラド公爵。導師シュダァ。ブライアンの異母弟。臣籍に下っている。


 第1王女ベネット(23)――ブライアンとリディアの第1子。前マクスリール公爵夫人。王位継承権は嫁いだ際に失っているが、王籍自体は夫が死亡した数日後に復活している。

 第1王子エドガー(22)――ブライアンとリディアの第2子。

 第2王女ナタリー(15)――ブライアンとアンジェラの第1子。

 第2王子ミハイル(14)――ブライアンとカトレアの第1子。

 第3王女キャサリン(13)――ブライアンとリディアの第3子。

 第4王女ヴィクトリア(10)――ブライアンとリディアの第4子』


 ……意外に国王様は、一途な御方であるもよう。

 ずっと第2王妃様ラブっぽいですね。

 一方で政治的判断で娶った2人の王妃の間にも、数カ月違いの子供を1人ずつ作って、しっかり周囲から求められていた責任を果たしています。

 レディ・マクスリールの王籍復活決断も早いですし、国のためなら私よりも公を優先させ、冷静な決断や行動も出来る人っぽい。


 話を戻しますが。

 シュダァ様は紛争と反乱、時期的に両方出陣している可能がありますけど、ジェラールは年齢的に紛争の方には参加出来ません。

 あの2人のファーストコンタクトは、5年前の反乱鎮圧中だったと思われます。


 ……今は他に用語図鑑で調べておきたいことはないですね。 

 次、行ってみましょう。


 では『ステータス確認する』を突っついて、特殊アイテムの欄にあったメモ帳機能をチェックですよ。


 私が『メモ帳』を突っつくと、やおらルーシェリカさんがスカートのポケットに手を入れました。

 ポケットから出てきたのは、柔らかい革の手帳です。

 ええ。

 そこそこ厚さがあって装丁が立派なので、メモ帳っていう感じではありません。

 名称ミスですよ、創造神!


 取り出した直後に肉体操作権が私に戻ってきたので、手帳をパラパラとめくって中味を調査。


「……これって、やっぱり創造神、渡すの忘れてたっぽいなぁ」

 

 メモ帳の機能は、私が思わず呟いてしまうようなものでした。


 そう。

 現在、私が引き受けている依頼はシュダァ様を含めて3件なのですが、引き受けた順に全部載っているのですよ。

 依頼者、依頼種類、期日、内容が分かりやすく見やすい書式で書かれていて、達成までどれが条件を満たしていないかまで載っています。

 創造神ではなく、ルーシェリカさん自身がメモを取っているようですね。日本語訳がルビのように見えるので、書いてある内容が私にも読めますけど。

 

「――え? これって何で……」


 不思議なことに、メモ帳の半分よりも後ろのページ数枚の紙の色が異なっていました。

 何かあります――と、言わんばかりにあからさまなので、気になった私はそのままページをめくります。


『1週目。初日から20日間、何も行動せず。

 20日目夜、暗殺①エンドの条件達成、死亡により終幕。

 エンドボーナス、『謎の仮面』を入手』


 色が変化している最初のページには、日本語でそれだけ書かれていました。

 凄いことになっていたのは、次のページからです。


『2週目。

 1日目朝、全遭遇イベント発生、冒険者ギルドで討伐クエストを受注、アレンが同行。

 1日目昼・夕方、王都の外にて戦闘。<青い鳥>にて売買。

 2日目朝、闇神殿で祝福と祈りを発生、王都の外にて戦闘。

 2日目昼、冒険者ギルドにて達成報告、称号<ばにぃ・きらー>取得、<青い鳥>にて売買。ジェラールと会い、薬を飲む。

 2日目夕方、ロゼに会う。ロゼ、パーティメンバーとして同行可能(水・混沌)に――』


 こんな感じで、今日――11日目までの行動が記録されていました。

 入手した素材アイテムや戦ったモンスターの種類までは載っていませんでしたが、私がどう選択したのかがしっかりと分かるようになっています。


 メタなことも記されていることいい、日本語で書かれていることといい――当事者であるルーシェリカさんではないですね。

 この色違いのページは、私をこの世界に引き入れて巻き込んだ創造神直々の書き込みと見ていいでしょう。


 このページの存在自体、明らかに周回を前提としているようで、ちょっとばかりイラっときましたが、この記録はあった方が確かにいいです。

 何時にどういう行動をとったのか、丸分かりですし。

 3週目が発生してしまった場合、復習するのに役立つことでしょう。


 予想外のページを見つけて脱力しましたが、何はともあれ行動しなくてはいけません。


 私はメモ帳をポケットの中に戻すと、廊下に繋がるドアに近づきました。

 気を取り直して、ロゼとお出掛けです。


 兵舎にロゼを迎えに行くと、今日は特に何事もなく出迎えてくれました。

 そのまま王城の外に出ます。


 さぁ神殿に向かって、ステータスUP!

 

 そんな風に勢い込んで足を踏み入れた闇神殿にて、性別年齢不詳神官セシルさんが、いつもとは違う反応をしました。


「――ようこそ、カーティスの加護を受けし子。ガイルティアの御力に属す子よ」


 あ。

 水の女神ガイルティアうんぬんはロゼのことです。

 一緒に行動しているので、当然のようにロゼも神殿内に同行しているのですよ。信徒でなくとも神殿内には入れます。

 さすがにカーティス様に祈りを捧げる時は、邪魔しないようにとロゼは此処で待ってますけどね。


 挨拶は特に普段と変化がなかったので、いつものように祝福してもらおうと思っていた私ですが。

 いつものように、セシルさん挨拶直後に選択肢が発生しませんでした。

 アレ?


「これから、祝福とは異なる術を掛けさせてもらいます。楽にしていてください」


 セシルさんはゆったりとした口調で、一歩的にそう言い捨てると、短く何事か唱えました。

 ルーシェリカさんが反応を返す間もなく、セシルさんが発生させた黒い光に全身が包まれ――パッと、体の手前の空中に見覚えのある文字の連なりが浮かび上がりました。


「……よかった。貴女は例のスキルを保有してないようですね」


 ホッとしたようにセシルさんが呟きました。

 そう。

 空中に浮かび上がったのは、ルーシェリカさんのステータス表です。

 ロゼも興味深そうに眺めていますから、神官は他人のステータス表を可視化することが出来るようですね。


 王都の外に出ると見れるPTのステータス表は、表が出ている間、私が動けることを考えると、創造神の力によって可視になっています。

 だから、見たのは私だけ。

 ルーシェリカさんが、他の人間のステータス表を見てるわけではありません。

 ロゼの様子から察するに、本来は自分自身のモノしか分からないもよう。


 セシルさんがもう一度短く何かを唱えると、浮かび上がっていたステータス表が消えました。


「突然のことで驚かれたでしょうが……」


 そう言って、セシルさんはその理由を教えてくれました。

 何でもカーティスの加護を受けていて、とあるスキルを保持した人間が、凶悪犯罪に繋がりかねない行動を取って事件が発生したため、王国と冒険者ギルドから容疑者捜索の協力を求められたそうです。


 ……これって、多分、一昨日発生した事件の影響ですよね。

 ロゼも上の方から通達を受けているのか、セシルさんの説明に驚いていませんし。


「――分かりました。セシル神官。犯人捜索のためとあれば、仕方のないことでしょう」

「理解が得られてなによりです。では……カーティスの加護を受けし子よ、今日は何を望んで此処に?」


 そうセシルさんがお馴染みの言葉を放った瞬間、彼(彼女?)の前に選択肢が浮かび上がりました。


  祝福してもらう

  カーティスに祈りを捧げる

  ???

  神殿から出る


 何ですか、『???』って!

 新しく加わった選択肢が、めちゃくちゃ気になりますよ。

 さぁ、選んでみろと言わんばかりです。

 

 とはいえ、心の赴くまま選んだとしたら、今日の予定を諦めることになる可能性がありますよね。


 ルバウルフあと1匹ですし、今日中に達成したいんですよ。

 キラービィの針も、あと目的の数まで13個必要です。

 日程の余裕はありますけど、早いうちに何とかしたいと考えているので、予定外の出来事は避けた方が無難と思われ。


 もの凄~く気になりますけど……とりあえず、先にやるべきことをやりましょう。

 セシルさんに祝福してもらって、カーティス様にお祈りしてきます!

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