第25話 彼女は流される①
新年明けまして、おめでとうございます。
まったりしているご主人様と、しばらく9日間分の実行内容報告という名の雑談を交わしたあと。
ルーシェリカさんが自室に戻ったので、背負い袋(大)からバニィの肉以外のアイテムをコンテナ内に移しました。
今のところ、他のアイテムは売る予定ありませんし。
コンテナの蓋を閉じると、私は机に近づいて『ステータスの確認』を選択しました。
単に現在のターンが何時なのか、知りたかったので。
10日目・昼・自室
ルーシェリカ・シリス(17)
レベル 5
HP 125/125
MP 30/105
称号 ナタリー王女付きメイド長
ばにぃ・きらー
属性・闇
状態・健康
所持金 60682ギラー
戦闘スキル 短剣A(MAX)
鞭A(MAX)
格闘C
闇魔法B
高速詠唱D
急所攻撃S(MAX)
連続攻撃B
緊急離脱C
投擲D
一般スキル メイドA
採取D
薬学知識C
植物知識D
スキルポイント 残り16P
装備 投げナイフ/皮の鞭
上級メイド服
銀のアンクレット+2
(歩行速度上昇・毒無効)
所持品 爆薬(液体)/鋼糸/毒薬(効果・麻痺)
回復薬(小)4
解毒剤4
背負い袋(大)
イヤーマフ
素材アイテム バニィの肉5
(以下コンテナ内・五十音順)
イズの根6
ウルフの牙3
ウルフの爪9
オレンジマリン7
カットバニィの爪24
核石(大地)のカケラ1
キラービィの触角5
キラービィの羽17
キラービィの針17
スーニ草3
ソードバニィの毛皮2
ソードバニィの尻尾1
ノウェルの葉肉9
ノウェルの実6
トレントの葉1
トレントの根1
ハクライ草8
バニィの毛皮22
ピンクマリン9
ホワイトマリン7
マンドラコラのカケラ10
マンドラコラの根3
ルバウルフの毛皮9
レッサーボアの牙1
贈り物アイテム 白銀の懐中時計
特殊アイテム 謎の仮面
宝くじ5
夜間通行許可書
あ~……やっぱり、昼のターンになってましたか。
部屋に戻る前、食堂に寄って食事を取りましたからそうじゃないかな~とは思っていたんですよ。
というか、ご主人様から貰った懐中時計が贈り物アイテム行きって。
さっき、うっかり他の素材アイテムと一緒にコンテナにしまい込んだせいですかね?
腑に落ちないので、ちょっとチェックしてみましょう。
『白銀の懐中時計。カテゴリー・贈り物アイテム。
ナタリーが主人公に下賜した懐中時計。
蓋に飾られている数点の宝石はペリドットで、主人公の瞳の色と似ているため、選ばれた一品。
全体的に白銀でコーティングされているが、内部は鉄製なので繊細な見た目の割に頑丈。ただし、文字盤の方はごく薄の透明度の高い玻璃の板で覆われているため、衝撃に強くない。
装備すると、一度だけ戦闘不能となりえるダメージを肩代わりするが、その衝撃によりアイテムは完全に破壊される』
なるほど。身代りアイテムですか。
ファンタジーっぽいです。
現実にも実際起こりうる現象が元でしょうね。
上着のポケット内にあったお札を沢山詰めていた財布とか、金属製のしおりを挟んでいた手帳があったおかげで、刃物で刺されたり銃弾受けたりしても、何とか急所を逸れて死なずに済んだっていう……
カテゴリー的に考えると、誰かにあげても売ってもOKなアイテムっぽい。
ここがゲームの世界だったのなら、コレを売り払って資金源にしたとしても影響はないでしょう。
そもそも、ルーシェリカさんのお金のほとんどは、御主人様の支持率を上げる賄賂代に変わる予定ですし。
ですが。
現実的に考えると、コレを売り払ったり譲渡するというのは非常にマズイことです。
王女から功績を認められて下賜されたモノを売るって――どんだけ失礼な行為ですか。不敬行為と捉えられてもおかしくありません。
まあ、許可が出ているのなら話は別ですけど。現段階では許可が出ていませんから、売るわけにはいきませんね。
ルーシェリカさんにしてみたら、時間が正確に分かるようになったことで利点もあるでしょう。一度しか使えませんが、身代りにもなってくれますし。
ちゃんと装備しておきましょう。
コンテナを開けて懐中時計をポケットに入れると、私は闇神殿に向かって『祝福』と『祈り』を行い、<青い鳥>でバニィの肉を50ギラーで売り払いました。
そして『王城に戻る』を選択して、再び自室に戻ってメイド服に着替えると扉に近づき、『セルマを探す』を突っつきます。
昼はセルマに会いに行くと決めているので。
ルーシェリカさんは西の塔に向かって進んで行き――
西の塔の近く――池の脇にある広場のベンチに座っているセルマの姿を発見し、生垣の近くで立ち止まりました。
以前にセルマがシュダァ様に怒られていた場所ですが、彼女は今1人で居ます。
午後は修行にあてられているハズですよ。
ですが、師匠であるシュダァ様はいらっしゃいません。
ルーシェリカさんが昼食を済ませた分、前回とは若干時間が後ろにズレていますし、今日は既に立ち去った後なのかも。
「はれ~? メイド長さんだ。こんにちは~」
声をかける前に、セルマに気付かれました。
握った杖ごと腕を振り、声をかけてくるセルマはニコニコしていて、非常に機嫌が良いように見えます。
「はい。こんにちは、セルマ様」
ルーシェリカさんは挨拶を返すと、そのままセルマの元に歩み寄りました。
こてん、とセルマは不思議そうに大きく首を傾げましたが、ややあってポン! と手を打ちます。
「そういえば、メイド長さん。私に用があるって言ってたよね? その件で私に会いに来たの~?」
「はい。その通りです」
「それって話長くなる?」
通りがかるかもしれないシュダァ様に、修行をサボっておしゃべりしていると思われたくないからでしょうか?
セルマは少し不安そうな声を出しました。
ルーシェリカさんはゆっくりと首を振ります。
「いえ。長くお時間を割いていただくことにはなりません」
もしかして、ルーシェリカさんはロゼに時のように単刀直入に話す気なのでしょうか?
ジェラールの時も確かに手短でしたし、ありえます。
「あ。そうなの~? それじゃ、聞くから座って話して」
セルマはホッとしたような安堵の息を吐くと、ポンポンとベンチを――自分の隣を叩きました。
ここに座れってことでしょうね。
それではお言葉に甘えて。
そう一言断って、ルーシェリカさんはセルマの隣に腰掛けました。
セルマは首を傾げ、覗き込むように真っ直ぐこちらの目を見て尋ねてきます。
「――それで? メイド長さんの用ってなぁに?」
「現在、私はナタリー様の御下命を受け、冒険者ギルドで討伐クエストを引き受けています。それに当たり、少しの時間でも協力してくださる方が欲しいのです。セルマ様がよろしければ、共にモンスターと戦ってほしいのですが……」
ねぇ、ルーシェリカさん。
セルマは先の2人とは違って、親しくない知人レベルなんですよ。
事情を話したところで引き受けてくれるとは限らないんですから、もうちょっと、印象が良いようにするとか……
「…………う~ん」
セルマは眉間に皺を寄せ、しばらく考え込んだ様子でした。
ややあって、自然と俯きがちだった顔を上げます。
眉はハの字、若干目の方も垂れているように見え――何というか、ワタシはもの凄く困ってます! と、表情のみで見事に主張していました。
「……知ってるかもしれないけど、宮廷魔導師たるもの理論だけじゃいけない――っていうのがレイニドールの方針で、毎年半数を定期討伐に強制参加とかさせているのね。だから、戦闘訓練の一環だって主張すれば、冒険者ギルドの討伐クエストに同行するのは問題視されないとは思うけど~……」
でも、師匠が。
セルマはそう呟きます。
「もちろん、メイド長さんなら知ってると思うけど~、師匠の立場を考えると迂闊に良いって言えないのね。ナタリー殿下の御命令関連なら特に。
師匠は聖痕持ちだから、色んな影響出過ぎて直系全員死亡ぐらいにならないと王位継げないけど、一応王位継承権自体は持っているもの。そもそも師匠は私の恩人だもん。この件引き受けて迷惑かかったら困る」
納得がいく説明でした。
セルマは弟子という立場的に、何処の陣営かといえば、間違いなくシュダァの下に所属していますし。他の陣営の強化を手伝えと言われて、ホイホイ協力出来ないでしょうね。
アレ?
これってそのまま断られる流れですけど、シュダァ様に迷惑掛からないのなら、セルマ個人としては引き受けてもいいって意味ですよね?
彼女の表情や返事の意味合い的に、一昨日おいで――ではありません。
ところで、聖痕って何?
シュダァ様が王位を継承した場合、各方面に影響が大きいというのが気になりますね。
そのせいで王位継承権が、ご主人様>エドガー様>シュダァ様の順っぽいですし。後で用語図鑑をチェックです。
「……つまり、導師シュダァの許可があれば、モンスターの討伐を協力することもやぶさかでないと?」
「ひらたく言えば、そう。修行になるもの」
セルマ的に、一緒にモンスター狩り自体は全然OKだったもよう。
ルーシェリカさんはレイニドールの魔導師の実情を知っていたから、勝算が幾らか見えていて言葉を飾らなかったようですね。
「師匠がいいっていったらいいよ~。メイド長さん、どうするの?」
今すぐシュダァを探し、許可を取りに向かう
時間がある時、シュダァに許可を取りに行く
セルマとの行動を諦める
セルマの前に、選択肢が浮かび上がりました。
もちろん、『諦める』なんて選んだりしませんよ。
シュダァ様に許可をもらいます。
問題となるのは『今すぐ』か『後で』か。
『今すぐ』を選ぶと、多分ですが今日の夕方のターン潰れちゃいますね。
まずは、この場に居ないシュダァ様を探し出すために王城内をうろつかなくてはなりませんから。
私の中で、夕方はロゼに割り振った時間です。
しかし、明日は水の日。
つまり、明日会うので今日必ずしもロゼに会いに行かなくてはならない――と、いうわけではありません。友情を深める機会が少なくなるだけです。
セルマが同行可能な曜日がいつなのか不明ですが、早く実行出来るようにしておくことに越したことはないでしょう。
なので、『今すぐシュダァを探し、許可を取りに向かう』をタッチ!
「それならば、導師シュダァの許可をいただいて参ります。セルマ様、導師シュダァは何処にいらっしゃるかお分かりですか?」
「師匠なら、薬師さんのところに魔法薬の材料もらいに行くって言ってたよ?」
薬師って、ジェラールですか?
他の人――ミゲル先生とかだったら、シュダァ様が居るのは薬剤院ということですけど。
セルマの言う薬師がジェラールだとするなら、昼間なので、その辺を適当に散歩しているハズです。
つまり、どのコースを通るか散歩をする奴の気分次第であって、シュダァ様も何処に居るのかが分からない――と、いうこととイコールですよ。
「……そうですか。有力な情報提供、感謝いたします。ではセルマ様、またの機会にお会いしましょう」
「うん。メイド長さん、またね~」
ルーシェリカさんはセルマに別れを告げると、一路薬剤院方面に進んで行きました。
ミゲル先生は休養日なのか休憩中なのか、受付に居たのは白衣を纏った私の見知らぬ女性でしたが、シュダァ様は来ていないとのこと。
……やっぱり、『薬師さん』はジェラールなのでしょうね。
ルーシェリカさんもそう判断したようで、薬剤院を後にするとシュダァ様(+ジェラール)を探して王城内を歩き回りました。
ところで。
当然ですが、王城内は広いです。
両者ともに有名人とはいえ、今日に限って人通りの少ない場所でも散歩しているのか、見つかりません。
空振りし続けているルーシェリカさんは、時々下賜されたばかりの懐中時計を取り出して、時間をチェック。
3時を過ぎる頃になると、薬剤院方向に向かって歩き始めました。
夕方には確実に戻ってくるジェラールを捕まえ、聞いてみることにしたようですね。
すると。
薬剤院の傍で、スタスタ進むジェラールの斜め後ろを歩くシュダァ様の姿を発見しました。
ちょっとばかり距離があるので詳しくは分かりませんけど、シュダァ様の方がジェラールに向かって話しかけているようですね。
アレ~?
な~んか、ジェラール。シュダァ様に対して、素っ気なくないですか?
よく見てみると、ジェラールは無表情ではありませんが、全然笑っていませんよ。
しきりに何かを話しかけている様子のシュダァ様を、無視しているというわけではないです。でも、一言二言相槌打っているだけで、追い払おうとしてるっぽい感じに見えますね。
「――あ」
何か面倒事だと思ったのでしょう。
2人の様子をうかがおうとしたらしく、ルーシェリカさんが歩行速度を緩めた直後――ジェラールとバッチリ目が合いました。
目が合った瞬間。
硬かったジェラールの表情が緩んで、口元に薄く微笑みが浮かび、こちらに向けて目礼をしてきます。
偶然知り合いに会ったので、思わず笑いかけた――と、いう反応だと思いますが。
斜め後ろからジェラールの反応を見ていたシュダァ様が、笑いかけられたルーシェリカさんに気付いて、にやりと口角を上げられました。
うわ。
何だか、嫌な予感がしますよ。




