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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
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24/47

第24話 彼女は授与される

リアル事情により、だいぶ間が空きました。遅れて申し訳ありません。


1月14日、サブタイトル変更しました。

 王都に到着したのは、夕日に赤く染まった空の端が藍色に変化しつつある頃でした。

 あのあと、カットバニィ2匹に遭遇しましたが2人の敵ではなく、あっさり撃退。

 

 無事王都に到着すると、エドガー様は王城に、ルーシェリカさんは冒険者ギルドにそれぞれ向かいました。

 トレントの件を冒険者ギルドにも報告しておくべき――と、エドガー様がおっしゃったからです。


 たまたま私達が通りかかったことで暴走するトレントを倒すことに成功し、結果として何事もありませんでしたが、暴走しているのがあの1体だけとは限りません。

 常に最悪を視野に入れ、必要なことと出来ることはする。

 それが危機管理の基本方針ですよね。


 今日が私の予定通りに進んでいた場合――王都に戻る際に街道で人や馬車と出くわさなかったので、あのトレントは他の通りすがりの冒険者や、護衛付きの商隊によって駆除されることもなく、王都近郊まで接近していたと思います。

 門番が頑張って撃退するでしょうけど、すぐそこまで大型モンスターの接近が遭ったという事実は、王都に住まう多くの民達の不安をさぞや煽ることになったでしょう。

 

 カットバニィ大繁殖の件で、騎士団が王都周辺地域に出動しそうな状況なのですよ。

 今日の件でほぼ確実にエドガー様の心情は、騎士団出動の後押し工作実行に大きく傾いていることでしょう。

 広範囲にわたっての調査ですから、戦闘能力と調査能力を持ち合わせた人材は居れば居るほどいい。

 人材を抱え込んでいる冒険者ギルドを無視する利点は、多分ほとんどないと私は思います。


 なので受付に居たサラさんに、証拠品である『不思議な金属針』とトレントのドロップ品を提出して、事情を説明。

 顔を強張らせて動揺する彼女に、知人(もちろんエドガー様のことです。名前は伏せてました)に王城の方に先触れを任せてあるので、その証拠品は返してほしい――と、告げるルーシェリカさんはとても冷静でした。


 アレンさん不在だからでしょう。

 ギルド長代理のリシェルさん他ギルド幹部数名に引き合わされ、証拠品の目視確認と鑑定に付き合わされました。


 結果。

 『不思議な金属針』はエドガー様の読み通り、『操りの針』という傀儡シリーズと呼ばれるアイテムの一種だということです。

 効力は刺した対象の精神に強力な催眠暗示で働きかけ、針に刻んだ指示を実行させること。

 『操りの針』は傀儡シリーズ内では効力が低いモノにあたるそうです。

 錬金術で作成されるのですが、傀儡シリーズは闇属性の錬金術でないと作成出来ないもよう。

 ギルド幹部の1人に、闇神殿に問い合わせして作成可能な者が居るかどうか、調査協力要請を出す方がいいと提案されました。


 ようやくルーシェリカさんが冒険者ギルドから解放された頃には、完全に夜がふけていて。

 1つの問題に突き当たりました。


 そう。

 王城の門が閉まっていたのです。


 王城の住人であっても、王族含む上層部から発行される特別な許可書が出ていない人間は、夜間の出入りが出来ないようですね。

 例え門番と友人関係であっても、大貴族の当主であったとしても、上層部からの事前指示や許可書がないと侵入者除けの一環として通してくれないらしいです。

 緊急の使者の場合でも、まず門番が上層部に繋がっている人間に報告して上層部に連絡、その結果通して良いと指示が出ない限り駄目――と、いう徹底ぶり。


 何とも残念なことに、ルーシェリカさんは夜間通行許可書を持っていませんでした。


 特殊任務を下されている関係上、持っている方が自然なのですが――諦めて原因の冒険者ギルド(24時間営業ではないものの、その性質上、朝早く夜遅くまで営業しているみたいです)へ宿屋情報収集に向かったルーシェリカさんとサラさんの会話を聞く限りでは、どうやらただのミスの様子。

 単にルーシェリカさんが必要な諸々を揃える際、夜間通行許可書のことをご主人様に申請していなかったようですね。

 冒険者ギルド関連のことは、なるべく近場で済ませて外泊とかしないつもりでいて、遠出が決まった場合に申請しようと考えていたもよう。


 エドガー様も、まさかルーシェリカさんが許可書を所持していないとは思っていなかったようで。

 門番達に事前指示を出していませんでしたよ。


 今回の件の報告は危険度・緊急性ともに高いですが、エドガー様という強力な立場の情報源は先に王城入りにしています。

 何が何でもルーシェリカさんが表立って動かなくてはいけない――と、いうわけではないのですよ。

 

 そういう判断もあってでしょうか。

 ルーシェリカさんはその場でご主人様宛てに手紙を書き、冒険者ギルドから貰った鑑定報告書入りの封筒の中に布でグルグル巻きにした『操りの針』と一緒に入れ、門番の1人に至急届けるように頼みました。

 ルーシェリカさんがルーファスを指名したのは、ご主人様の元に届けても第2王女という立場上、いったん不審物ではないか中身の調査に別室へ運ぶという想像がつくので、その手間を省くためでしょう。


 その封筒は機密性を重視した仕掛けがついていたらしく、ルーシェリカさんが手紙を入れて出入り口を折り曲げた途端、瞬間接着剤でも塗ってあったようにぴったりと封印。

 中身が気になっても、開けるには封筒自体を切るか破くしかない状態です。安心して渡せましたよ。


 原因が冒険者ギルド側にあったため、ルーシェリカさんはギルド職員用の仮眠室の1つを無料提供されました。

ついでにいうなら、ギルド内に厨房や食堂もあります。

 ただし。

 トイレはともかく、お風呂はありません。

 レイニドールでは王侯貴族や豪商はともかく、パン屋や大きな宿屋でないと元々お風呂がある一般向けの建物というのは珍しいようですね。


 教えてもらった市民共同浴場の位置が、冒険者ギルドから遠かったからでしょう。


 ルーシェリカさんは洗濯用の金ダライを借りて、そこにお湯を入れて体を洗っていました。

 王宮務めという立場上、いつも清潔に見苦しくなくしていなくてはいけませんから、お風呂に入らないという選択にはならないようです。

 その残り湯で、今日着た服のお洗濯。

 あ。

 サラさんが寝巻用に服を貸してくれたので、洗濯物が乾くまでタオル1枚姿とか全裸で過ごしたわけじゃないですよ。


 職員用のまかないでしたが、夕食も貰いました。

 仕事の影響でギルドに泊まる職員も珍しくないらしく、その人達用でもいいなら朝食も出してくれるとのこと。

 ちなみに。

 アレンさんも週の半分以上、ギルドに泊まっているというか住んでいる状態だそうで、彼専用の部屋があるそうです。


 夜が明けて、火の10日。


 さっさと着替えて食堂に向かい、朝食を済ませたルーシェリカさんは冒険者ギルドを後にしました。

 早朝でしたが、辿り着いた王城の門は解放されていて。

 門番に呼び止められたりすることもなく、ルーシェリカさんは自室に真っ直ぐ向かいします。


 するとルーシェリカさんの部屋の前で、ホウキを手にしたみつ編みメイドこと、イリスが待っていました。

 ルーシェリカさんの姿を認めると、イリスはホッとしたような表情を浮かべます。


「――おはようございます、メイド長。お帰りなさい」

「おはよう、イリス。今、戻ったわ」


 和やかな様子で挨拶すると、イリスがドアの前からどいたので、ルーシェリカさんは自室内に入りました。


 背や手に持っていた荷物を置いて、着替えのために服を脱いで下着姿になるルーシェリカさんを気にすることもなく、一緒に室内に入ったイリスは洋服タンスを勝手に開けると、白のストッキングに同色のガーターベルト、ビスチェ型の補正下着、黒の長袖ワンピース、エプロンドレス――と、次々に取り出していき、直接手渡してきます。


 明らかに支度を急かしていますね。

 部屋の前で待ち構えていたことといい、ご主人様からの要望でしょう。


 櫛で髪を梳かしてシニェンを完成させ、ヘッドドレスを被り、鞭や投げナイフを傍目では分からない場所に隠すと、ルーシェリカさんは姿見の前で最終確認を行いました。

 大丈夫と言わんばかりに1つ頷いて、姿見から離れます。


「――ご主人様は起きていらっしゃるかしら?」

「はい。本日の予定通りでしたら、御起床なさっています。おそらく、今は朝食の最中かと。メイド長が戻り次第、いつでも部屋に参上するようにとの御命令です」


 あ。やっぱりですか。


「分かったわ。ところで、イリス。ルーファスや貴女に預けた仕事で何か問題は発生していない?」

「現在のところ、特に問題は発生していません。あ! そう言えば、1つだけメイド長にお願いが」


 タンスの横に立て掛けていたホウキを再び手に持つと、イリスは優しそうな顔に苦笑を浮かべました。

 

「忙しいのは分かっているのですが、お嬢様がメイド長に会えないことに不満そうです。時間が取れたら――で、いいのです。お嬢様に会い来てください」

「……急を要することはないのね?」

「はい」


 そういえば、ミレイ嬢に全然会っていませんね。これは同じく部下であるイリスや同僚のルーファスも同様です。

 会いに行く必要がないから会いに行っていないのですけど。

 現時点で会いに行っていないのは、友好度や好感度が分かっても数値によって何が起こるか、それがよく分からないので聞きに行く必要性を感じていないからです。


 ああ。

 私がまだ夢でゲームの世界と思い込んでいた場合だったら、毎日会いに行ったと思いますよ。

 職場に行く分にはターン経過しないようですし、友好度と好感度調査と支持率の確認は重要ですからね。

 ゲームなら、システム的に好感度が幾つになったらイベントが発生する――とかいうのが決まっていますから、攻略のために毎日チェックしてメモってたことでしょう。

 ゲームではイベントの好感度数値、他のキャラも適応になっている場合が多いですしね。


 支持率の方はというと、依頼を何回こなしたかでおおよその見当がつきます。日数も、二桁に入ったばかりですから割とすぐ思い当たるのですよ。


 やはり、まだミレイ嬢へ聞きに行く必要性を感じません。 


「ミレイの件については分かったわ。時間があったらね」


 ルーシェリカさんはそう言いましたけど、私は当分行く必要があると考えていないので、職場に行く予定はかなり先の話になるでしょう。

 10万ギラー溜まったらになる可能性大。

 

 イリスとは自室前の廊下で別れると、ルーシェリカさんはご主人様の元に出向きました。

 

 御主人様はゆったりとソファーに腰掛けていて、朝食は終了しておられました。

 食後であるせいか、まったりとした様子でしたが、ルーシェリカさんに向けてくる眼差しは表情に比べて鋭いです。


「――おはようございます、ご主人様」

「おお。ルーシェリカ。待っておったぞ」


 ルーシェリカさんが声をかけるや、ご主人様は手にしていた扇をパッと開き、御自身の口元を隠されます。

 セルマと違って、御主人様はロイヤルスマイルを立場上振りまく必要があるので、偽りではない感情の動きがかなり分かりにくいですが、待たされて良い感情を持つ人間はごく少数。

 当然、ご機嫌麗しくないでしょう。


「お待たせして大変申し訳ありません」

「昨夜、おぬしからの手紙が届いた。おおよその状況は分かっておるし、問題の現物も届いたから諸々の手配も済んでおる」


 ただ、な。

 ご主人様は淡々とした口調で、軽く扇を揺らしながら付け加えるようにおっしゃいます。


「詳しいことは、おぬしの到着を持たねば分からぬのじゃ。わらわへの手紙に書かなかったこと、話してくれるな?」

「は。勿論です」


 ルーシェリカさんはアレンさんの時と同じように、順を追って説明しました。

 エドガー様の件もまったく隠しません。

 視察とお忍びに同行したことも、あっさりと報告。

 本人の許可は出ているとはいえ――意図的に話さないことも出来たはずです。それだけ、ご主人様に対して忠実ということでしょうかね?


「ふむ……なるほど。それでか」


 ぱん!

 軽く開いた状態の左の手のひらに、扇を押しあてながら勢いよく閉じると、ご主人様はうんうんと頷きました。


「父上に申し上げに向かった際、いつもより妙に手間取らず、簡単にお会い出来た。兄上が手を回してくれていたのじゃな。わらわが行くとお分かりになっていたから」


 エドガー様は、まだ空に赤みが残っているうちに王城に到着しています。

 御主人様がスムーズに謁見出来るよう、戻ってすぐにさっさと手配してくれていたもよう。

 下手をすれば国難ですから、何よりも解決を重視したのでしょう。

 ライバルの足を引っ張る機会でもありましたが、馬鹿な真似をしでかしたり、配下にさせたりはしなかったようです。


「ところで、ルーシェリカ。引き留められたとはいえ、おぬしにしては珍しいの。手配に漏れがあったとは」


 くすくすと、ご主人様は上品に笑って指摘されました。

 確かにそうですよね。


 ルーシェリカさんはメイド長。

 使用人の中では上位です。

 数十人単位の人を束ねる立場上、イレギュラーな介入も計算にいれて行動することも多いハズ。

 何らかの事情で、閉門時間を過ぎてから王城に戻ることもあるというくらい想定出来ていたでしょうに。


「『もしも』がこれからもないとは限らぬ。許可書は昨日のうちに作っておいた。あと、これも授ける」


 ご主人様がゆっくりと閉じた状態の扇を上げると、それが合図だったのでしょう。

 控えていたメイドの1人が音もなく現れ、ルーシェリカさんに小さな箱を手渡してきました。

 受け取った箱は白の無地の立方体で、持っている感じでは軽いです。


「……この場で拝見してもよろしいでしょうか?」

「うむ、構わぬ」

「では開けさせていただきます」


 包装はしてありませんが、蓋が空かないようにするためでしょう。青いリボンで結ばれていたので、ルーシェリカさんは左手で箱を支え、右手で丁寧にリボンを解きました。

 蓋部分を外してみると――布製の台座に支えられた白銀に輝く懐中時計と、白地に金の文字で書かれた手のひらサイズのプレートが。  


 プレートは夜間通行許可書でしょう。紐などに掛けれるように、タグがついてます。

 懐中時計はシンプルですが、盤へ飾りのように小粒の宝石があしらわれている、見るからに高級品ですよ。


「ご、ご主人様。このような高価なモノ、頂く理由がございません」

 

 ルーシェリカさんも意外だったようです。

 声が非常に動揺していました。


「何を言う。おぬしの頑張りで、少しずつであってもわらわの評価が上がっておるであろ。よく仕え、貢献した者に褒美を取らせるのは当然のことじゃ。それを見て、門番に誰何される時間前に戻るよう、気を配るとよい」


 ピローン!

 効果音と共に、文字が浮かび上がりました。


『イベント<エドガーのお願い>が終了しました!

 貴族支持率が10上がった!

 ルーシェリカは『白銀の懐中時計』と『夜間通行許可書』を入手しました』

これが年内最後の投稿になります。

よいお年を。

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