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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
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第23話 彼女は遭遇する④

 遠方から大きな獣の叫び声が聞こえ、騒がしいなと思った瞬間、東の方角にある森から、ルバウルフとカットバニィが数匹ずつ飛び出してきました。

 ルバウルフが、カットバニィを狩ろうと追いかけてきたのではありません。

 飛び出してきたタイミングとしては、ほぼ同時――ルバウルフの方が若干早かったくらいなのです。

 そう。

 何かに追い立てられてきたかのような様子ですね。


 捕食関係にある異種モンスター達は、行く手を阻む形で居た私達に向けて半数――カットバニィ3匹、ルバウルフ2匹はそのまま突進してきました。

 

 突進してくるのに気付いた私がナイフ投げで迎撃を考えると、ルーシェリカさんが素早く投げナイフを取り出し、次々と連続で投擲します。

 狙いは特に定めていなかったのですが、自然と距離が近いカットバニィを狙ったようで、次々に命中し地に倒れ伏して行きました。

 カットバニィはレベルが上がったルーシェリカさんにとって、ザコ同然。

 ナイフ投げのみで、仕留めることに成功しました。


 接敵に気付くとエドガー様も、ルーシェリカさんとほぼ同じタイミングでナイフ投げを決行し、命中したルバウルフが倒れます。

 そのまま流れるような仕草で、腰から下げていた長剣を抜き放つと、もう一匹のルバウルフをスパっと一刀の下に両断しました。ぼとぼとと別々に地面に落ちたルバウルフの右半身と左半身が、崩れて消えます。

 レベル高いと、そんなことがあっさり出来るんですね。エドガー様とのガチVSの可能性を考えると、恐怖の光景でしかないです。


 次々にやられた所を見ていたせいか、それとも、元々こちらよりも自分達を追いたてている相手から、少しでも遠くに逃げることを何よりも優先しているのか。

 私達の方に向かってこなかった残り半数は、そのままどこぞの方向へ走り抜けて行きました。


 追撃はかけません。

 モンスター集団の向かった先が王都方角ならば、一般人の危険も考えて追いかけるのですが、そうではなかったので見送ることにしました。

 だって、まだ戦闘が終了していないのです。

 戦闘が終了したのならば、必ず発生する天の声ナレーションがないのですから。


 ルーシェリカさんは投げナイフを両手に構え、エドガー様は長剣を手に持ったまま、東の森の方角を睨みつけています。


 ガサリ。

 緊張感が漂うその場に、緑の茂みが大きく揺れて。葉を飛び散らせながら、その奥から黒い大きな影が飛び出してきました。 

 それは、やけに幹の幅の広いモミの木で。

 どすん、どすんと重量感のある物音を立てながら、こちらに向かってきます。


 しゅるしゅると、まるで蛇のように幾つもの木の根がうごめき、ざわざわと枝が揺らめいて、のっしのしとモミの木(?)が前進するたび、たくさんの葉っぱが落下していきます……コレ、移動を止めないと、そう経たないうちに枝が丸裸になるんじゃないでしょうかね?

 

 てっきり、巨大動物系モンスターが飛び出してくるものだと予測していた私には、肩すかしでした。

 ですが、肩すかしだったのは私だけだったようです。


「はぁ!? トレントだと!? 何故、こんなところに……」


 エドガー様が驚愕の声を上げました。

 ルーシェリカさんは顔を強張らせたまま、すり足で移動し、エドガー様の盾となれる位置につくと、トレントというRPGでよく出る名称らしい幅広モミの木を睨み据えます。


 よく見ると、幹の模様か鳥に突かれて出来た穴だと思っていた黒い部分、目や口のように見えてきましたよ。

 なんか、端の方が微妙に動いてますし――この世界のトレントって、じっくり観察すると気持ち悪い系統ですね。

 こちらを敵と捕らえたか、邪魔な障害物と捉えたのか。

 うぞうぞと根っこの一部が動くや、矢のように高速で伸びてきます。


 うわー! 気持ち悪い!

 迎撃迎撃!!

 根っこ自体は細く、スパスパと楽に切り落とせますが、次々に伸びてきて捌ききれません!


「トレント相手に刃物は相性が悪い。私を前に立たせないのなら、魔法を使え。お前、魔法はどの階級まで使える?」


 ルーシェリカさんが迎撃し損ねた根っこを斬り飛ばしながら、エドガー様がそう尋ねてきます。

 相性が悪い=効果がない――ではありませんから、おそらくエドガー様を前線に立たせることを容認出来れば、そう時間もたたずに戦闘終了でしょう。


 次々に襲い来る根っこをナイフで斬り飛ばしながら、ルーシェリカさんは顔を引き攣らせつつ、それでも答えました。


「ランクBまで修めております」

「そうか。なら、充分だな。中心にある核に中てるか、全体を攻撃して地道に生命力を削れ。お前では倒しきれないようなら、私が仕留めるから足止めしろ」

「仰せのままに」

 

 弱点らしい核とやらを突いて倒すにしろ、確かに剣は不利だと思います。幹を抉るか、削らなきゃいけないみたいですし。

 当然、ルーシェリカさんの武器であるナイフも鞭も不利。自然と攻撃方法は絞られます。

 優位なのは、斧とか鎚とかですね。

 嗚呼ロゼ、何故貴女が居ない時に、貴女が活躍出来るタイプのモンスターと戦うハメに?


 軽く1メートル越えてる幹なんてぶった切ろうものなら、相当な業物でない限り、普通は刃こぼれしちゃいます。例外はありますけど。


 ……エドガー様の持っている剣、ファンタジー金属のミスリル製なんですよね。

 重さで叩き潰すタイプじゃなさそうですけど、普通の剣みたいに折れたり曲がったりしないで、さっきのルバウルフみたいにスパンと両断するかもしれません。

 エドガー様は高レベル+長剣スキルS+即死攻撃スキル持ちですから、普通の剣でもやりそうな気が。


 エドガー様を前に立たせたくないのなら、この状況で効率のいい攻撃方法は魔法しかないでしょう。

 ですが、ルーシェリカさんは闇属性。

 属性的な特徴で、異常状態負荷が主体であり、魔法攻撃力自体は高くないのです。


 トレントの魔法防御力が分からない以上、下手に消費の高いランクBの魔法は全MPつぎ込んでも倒せない場合も考慮すると、行使するのは避けるべきでしょう。

 倒しきれなかった場合、結局はエドガー様が前衛に出られてしまいます。

 それを考えるのならば、今ここで行使するべきなのは拘束効果のある魔法ですね。

 トレントをその場から身動けなくしてしまえば、倒すのに時間は掛かるでしょうけど安全です。 


「<――慈悲深きカーティスに乞い願う――>」


 ルーシェリカさんは、切り落とされる端から高速で迫ってくる根っこの動きを見極めて斬り飛ばしながら、唄うように詠唱する。

 さて。是非とも効いてください。

 闇魔法<影縛>!


「<――我が敵の身を、影より地に縛り伏せんことを!――>」


 どすどすと重苦しい音を立てて接近してきていたトレントの足下に、魔法陣が出現。

 巨体を丸々飲み込んでなお周囲に広がる大きな魔法陣から発生した闇が、巻きつく縄のようにトレントの体を戒めています。


 ん~? その場から身動きしなくなったし、成功ですかね?


 迂闊にホイホイ近づいて、実は掛かっているように見えるだけだったら危険です。

 なので、<影縛>を更に唱えますよ。

 幸い、ゲーム的に言うと<影縛>の消費MPは5です。

 ランクCで範囲魔法なのに、消費少ないですよね。

 

 現在の最大MPは100ちょいですから、合計20発も使えます。

 トレントが倒れるか、完全に掛かったと確信出来るか、MPが尽きるまで魔法を掛けるのをやめません。


 2回目を唱え終えたところで、ルーシェリカさんにトレントの目らしき場所を狙って、ナイフを投げさせてみました。確認のために。

 すると、動きを止めていたトレントの枝がしなり、ナイフを弾き飛ばします。くるくると回転して、さっくり地面に刺さるナイフ。


 ……掛かっていないようですね。

 それとも、単に拘束の異常効果該当部分が限られているのでしょうか?

 だってトレント、魔法陣の上から移動してませんし。

 もしかして、拘束って――その場に繋ぎ止める方が重視されていて、移動は出来ないけど足、もとい根っこ以外は動かせれる状態なんですかね?


 念を入れて、更に2連続で<影縛>をぶつけた後、ルーシェリカさんをその場から一歩だけ前進させてから、再びナイフ投げを決行。

 またしても、トレントの枝の一撃にナイフは迎撃されましたが、それだけです。

 やっぱりというか、トレントは迎撃はしますが魔法陣の上から移動することはありません。拘束=移動不可状態という認識でいいようです。


 この状態なら、中距離ないし遠距離攻撃が有効でしょう。

 でも、先程カットバニィの方に使った分、まだ回収していません。もう物理攻撃力のある遠距離攻撃出来ないんですよ。


 ……仕方ありません。

 安全圏である中距離から鞭でビシバシ攻撃しても、硬そうなトレントにはダメージらしいダメージいかないでしょうし。

 ルーシェリカさんのMPが尽きるのが早いか、トレントのHPが尽きるのが早いか勝負です!


 何度も<影縛>を連発。

 他の魔法を使わないのは、効果時間が切れて拘束状態が解除されてた場合、エドガー様の方にも根っこの攻撃が向かいかねないからです。

 それとMPが尽きた場合、安全な状態で仕留めてもらうため。


 そして、勝負の結果はどうなったかと言いますと。


『ルーシェリカ達はカットバニィ3匹、ルバウルフ2匹、トレント1体との戦闘に勝利した。

 ルーシェリカは39、エドガーは56の経験値を手に入れた。

 ルーシェリカは新たに<高速詠唱D>を習得した。

 カットバニィの爪を3個手に入れた。

 バニィの肉を3個手に入れた。

 バニィの毛皮を1枚手に入れた。

 ルバウルフの毛皮を2枚に入れた。

 ウルフの爪を2個手に入れた。

 トレントの根を1個手に入れた。

 トレントの葉を1枚手に入れた。

 核石(大地)のカケラを1片を手に入れた。

 キーアイテム、不思議な金属針を拾いました』


 エドガー様が、経験値ボーナスが入るスキルをお持ちのせいで少し分かりにくいですが、ルーシェリカさんの獲得経験値でお分かりでしょう。


 カットバニィは1匹につき3なので、奴等だけなら獲得経験値は9です。

 そう。

 何とかルーシェリカさんのMPが尽きる前に、トレントを仕留めることに成功しました。

 トレントは1体で30も経験値をくれるようです。


 トレントは19発目で倒れまして。

 MP残量がヤバい状態にあるという体からの警告なのでしょうか、こめかみの辺りがさっきからずっとキリキリ痛みます。

 ルーシェリカさんも同じように痛いはずですが、相当我慢強いのか、それともエドガー様とその護衛集団という他人の目を気にしているのか、頭痛を覚えているようなそぶりを見せません。

 ステータスをチェックしてみたら、MPが9/105でした。HPなら瀕死の重傷な残り加減ですね。


 ここまで魔法連発することなかったので、この状態になったのは初めてですよ。

 でも、その魔法連発のおかげでしょうね。

 NEWスキルを覚えましたから、頭痛は甘んじて耐えます。


 手を出さずに、ジッと待機していてくれたエドガー様は、暇を持て余しているかと思いきや、真剣な顔つきで考え込んでいました。 


「……植物系統のモンスターは危険を感じない限り、狩りの時でも自分の縄張りテリトリーから出てこない。トレントも例外じゃなかったハズだ。第一、大抵のトレントは森の中心や奥深くに生息している。こんな浅い場所に居るなんて異常だ」

「そうですね。そもそも植物系のモンスターは空腹時以外、攻撃しない限り、ごく大人しい性質でもありますし」


 というか、つい今さっき、明らかに怪しい表示がありませんでしたか?

 戦闘終了の天の声ナレーションに。

 そこだけ丁寧語ですし。


 ええ。確かに拾ったんですよね。

 かんざしくらいの大きさの、鉛筆並みに太い錆びた赤銅色の針。

 針に、文字が小さく刻まれていましたよ。北北東って。

 意味不明ですよね。


 拾った時、私はごく普通にトレントのドロップアイテムだと思いました。

 ……でも、よく考えなくてもおかしいですよね。植物系統のモンスターが金属アイテム落とすってこと自体が。


「そういえば、エドガー様。先程トレントの倒れていた場所で、このようなモノを拾ったのですが……」


 私は天の声ナレーションがあるまで気付きませんでしたけど、ルーシェリカさんはおかしいととっくに認識していたみたいですね。

 さっと拾った『不思議な金属針』を取り出して、エドガー様に渡します。


 それを見たエドガー様の眉間に、くっきりと深いしわが寄りました。

 しばらく、細部まで観察するように手の上で転がしながら鋭い眼差しで眺めていましたが、ややあってハッと息を飲むと、背後でゴゴゴ……と効果音が鳴りそうな、恐ろしいまでの威圧感を漂わせていらっしゃいます。

 マジ怖い。

 魔王みたいですよ。


 何かに気付いたエドガー様は、『不思議な金属針』をルーシェリカさんに返すと、暗雲を背負っていそうな迫力はそのままに、命令口調で言いました。


「――ルーシェリカ・シリス! 急ぎ王城に帰還する! 行くぞ!」

「御意! しばしお待ちを」


 ルーシェリカさんは威圧負けしたのか、それともただならぬモノを感じたのか。あっさり従いました。


 急ぐと言われたからでしょう。

 手早くブーツを脱ぎました。

 『銀のアンクレット+2』の歩行速度上昇を発動させるためでしょうけど、いきなり脱ぎ出して足を晒したせいか、エドガー様がぽかんとしてますよ。

 片方を外して違う足に付け代えるのを見て、説明されずとも何かのマジックアイテムだと見当をつけたらしく、ブーツを履き直すまでには納得したような顔になられましたが。


「お待たせいたしました。参りましょう」


 急ぐエドガー様の早足スピードと、歩行速度上昇状態のルーシェリカさん(歩き)の進行速度はほぼ同じでした。


「確証はないが、あれはおそらく『操りの針』だ」


 戻りながら、エドガー様は事情を説明してくれました。

 良かった。

 私、王城に戻るまで事情説明お預けかもしれないと思ってたんですよね。


「!? では、まさか」


 ハッとルーシェリカさんは息を呑みます。

 有名なモノなのでしょう。説明されなくても、アイテムの詳細知っているようですね。

 これ以上のアイテム説明はないようなので、後で調べましょう。


「ああ。あの森から北北東にあるのは、王都。アレを仕掛けた奴は、よりにもよって王都にトレントを移動させようとしてたようだな。ソードバニィの件といい、レイニドールに対する破壊工作だろう……忌々しいことだ」


 よほど腹に据えかねているのでしょうね。

 エドガー様の眼が、すざまじく怖いです。視線で人が殺せるレベルじゃないでしょうか。


「今回俺は、城下の視察をしていることになっている。さすがに、冒険者体験をしていて発見した――とは建前もあって報告出来ない。だから、お前1人で遭遇したことにしろ」

「……よろしいのですか?」

「ああ。構わん。ナタリーに聞かれたのなら、俺と一緒に居たことを話してもいいぞ。どのみち、午前中から一緒に行動していた。調べれば、すぐ分かることだ」

こたつの魔力に負ける日々です。


闇魔法は全体的に消費MPの値が低いです。

異常状態付与がメインだから。

魔法攻撃力=

属性魔法スキルのランク補正値+レベル数+MPの1割+行使する魔法の固定攻撃値+その他該当するスキルのランク補正値(範囲攻撃・高速詠唱など)。

例・トレント戦でのルーシェリカ。

影縫い=(1+3+5)+5+10+0+0=24で、装備品によるUPもないので魔法攻撃力は24。

当然ですが、攻撃対象の魔法防御力が壁として立ちふさがるので、そのまんま素通りしたりしません。

闇属性の場合、行使する魔法の固定値がないものが大半です。むしろ、固定値の代わりが異常状態付与。

ちなみに<高速詠唱D>GET条件は、

属性魔法使用回数20以上で、同じ魔法を3連続以上使用するだったり。

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