↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリマステラ ~TS転生した元Pの私が、孤独な幼馴染を一番星にするまで~  作者: 星澄夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/26

24「星」

 ルミナは、大丈夫だ。


 私が手を出したら、かえって邪魔になる。だから――信じる。ルミナのことは、ぜんぶ、信じている。


 でもセレネは、いま、助けを必要としている。だったら、友人として、見過ごせない。


 私は一度だけ息を整えてから、コンソールを必死に叩いているスタッフに声をかけた。


「……もしかしたら、力になれるかもしれません。今、何が起きていますか? 投影機材の故障ですか?」


 スタッフは端末から顔を上げずに答えた。


「投影機材そのものは動いています。ただ……、ミラージュのデータを読み込めない、状態です」


「データを?」


「はい。各ステラさんのミラージュデータは、クラウド上のサーバーから呼び出しています。ですが、今はそこにアクセスできません」


 投影機材は生きている。止まっているのは、ミラージュを呼び出すための経路だけ。


「なら、ローカルにデータがあれば、投影機へ直接流し込めますか」


 スタッフも、それは考えたのだろう。力なく首を振った。


「もちろん可能です。ただ、肝心のミラージュデータが、運営側の端末にはありません。別のスタッフが各事務所に連絡を入れていますが、すぐに用意できるかどうか……」


 映すためのデータがない。


 運営が持っていないなら、普通はそこで終わりだ。


 だけど――私の手元にはあった。


 セレネとのオフコラボのとき。


 コラボが終わったあと、私は預かっていたデータを消そうとした。ミラージュデータは、当たり前だけど機密情報だ。コラボ用に一時的に共有されたデータなら、終わり次第消すのが普通だった。


 けれど、セレネは言った。


 ——消さんでええよ。次もあるやろ。……うち、負けっぱなしで終わる気ないんやけど?


 だから、私はデータを暗号化して残した。


 もちろん、この最終選考のためにセレネが持ち込んだミラージュとは比べ物にならない簡易版だ。けれど、今この場でセレネの輪郭を取り戻すには、それで足りる。


「セレネのデータなら、私が持っています。投影機まで案内してください」


 そう言うと、スタッフは驚いたように目を見開いた。けれど、すぐに真剣な表情に変わりうなずく。


 案内されたステージ脇の投影機に、タブレットをケーブルで接続する。暗号化して保存していたデータを開き、セレネのミラージュを呼び出した。


「……いける」


 私は、使うつもりのなかったインカムのスイッチを入れた。


「ルミナ、聞こえる? もう少しだけ耐えて。そしたら、セレネのミラージュを復活させるから」


『そら! うん、待ってる』


 返事を聞きながらも、手は止めない。


「……すごい手際ですね」


「慣れてますから」


 スタッフの感心したような声に、短く返す。


 輪郭の座標を、会場の投影位置に合わせて補正する。もちろん、あくまで暫定処置だ。それでも、遠目からセレネとして見える程度には整えられる。


 ズレを潰す。光量を落とす。白銀の輪郭だけを、最優先で戻す。


「……よし!」


 私は送信ボタンを――押した。










 ステージの上の佐藤美月に、白銀の光がもう一度降りた。


 月の光が髪を撫でる。黒かった髪の上に、眩しいくらいの白銀が重なっていく。伏せられていた瞳に、淡い輝きが戻る。衣装の輪郭が身体を包んだ。


 細部までは戻らない。光の粒も先ほどよりは控えめだ。


 それでも、白銀の姫の姿が、もう一度そこに立ち上がる。


 最後に遅れて、兎の耳がぴょこんと揺れた。


 それを見て会場が、わっと沸いた。


 《戻った!》

 《セレネ様復活!》

 《良かったーー》


 セレネは、月光をまとった自分の手を、じっと見つめて。それから、ゆっくりと顔を上げた。


 ルミナが、そっと腕をほどく。


 もう、隠す必要はなくなった。


 幻影を取り戻したセレネと、素のルミナ。


 二人が、並んで立っている。


 その対比が、ドームの星空の下で、はっきりと浮かび上がっていた。


『……ルミナ』


 セレネが、震える声で言った。もう、いつものセレネの姿に戻っていたけれど、その奥はまだ素のままだった。


『……あのまま、うちを放っておいたら、よかったやろ。そしたら、うちは終わってた。なのに……』


 ルミナは、少しだけ不思議そうに瞬きをした。


『だって、そんなの、うれしくないもん』

『……』

『私は、セレちゃんと戦いたいんだよ。セレちゃんが、ちゃんとセレちゃんでいるまま、最後まで』


 それを聞いたセレネが、くしゃっと顔を歪めた。


『……ほんま、あんたには、敵わんわ』


 それからセレネは、何かを隠すように、ステージの奥へ顔を背けた。


 会場が、温かい拍手に包まれていく。


 配信のコメント欄にも、さっきまでの混乱はもうなかった。


 《ルミセレ尊い》

 《これは票が動く》

 《ルミナに入れる》

 《いや、両方推せる》

 《さっき、そらって言ってなかったか? ……まさかな》

 《今夜のMVPは朱野ルミナ》

 《信じられるか……? ルミナこれまだミラージュ盛ってないんだぜ……?》










 障害は、ほどなく復旧した。


 けれど、ステージは一度止まった。


 ミラージュ障害が起きた直後だ。安全確認を入れるのは当然だった。スタッフたちが慌ただしく走り回り、会場には待機を告げるアナウンスが流れる。


 その間も、客席の熱は冷めなかった。


 さきほどまでの混乱ではない。いま目の前で起きたことを、自分の中でどう受け止めればいいのか、みんなが探しているような。そんな空気だった。


 数分後、運営スタッフが私たちのもとへ来た。


「朱野さんのステージですが、希望があれば後日に回せます。……今日のトラブルは運営側の責任です。無理に続けていただく必要はありません」


 至極、当然の提案だった。


 あの状況でセレネを庇い、会場を繋ぎ止めたあとだ。ルミナにこれ以上の負担をかけるべきではない。普通なら、そう思う。


「ルミナ。どうする?」


 私はルミナに問いかける。……まあ、答えは分かっているんだけど。


 ルミナは、短く息を吸った。


「やる!」


 強く、はっきりとした答えだった。


「今日、やる。ここまで待ってくれた人たちに、ちゃんと見てもらいたいから」


 私は一度だけ目を閉じて、それからうなずいた。


「うん。分かった。……では、予定通りお願いします」


 私がスタッフに告げると、スタッフは一瞬驚いたような顔をして、それから深くうなずいた。


 そして、ルミナのステージが始まった。


 詳しいことは、正直、あまり覚えていない。


 光が戻ったステージで、ルミナは歌った。踊った。笑った。


 さっきまでセレネを守るために客席へ背中を向けていた女の子が、今度はまっすぐ前を向いて、キラキラと輝いていた。


 客席のペンライトが揺れた。


 みんながルミナの名前を呼んだ。


 コメント欄は、目で追えなかった。


 ルミナは、それに応えるように、さらに強く笑った。


 完璧なステージだった、とは言わない。今日の出来事をすべて忘れさせるような、綺麗な舞台だったわけでもない。


 でも、誰も目を逸らさなかった。


 怖いもの。嫌だったこと。楽しいこと。かけがえのないもの。大事にしたいもの。


 ルミナの全部が、ステージの上にあった。










 やがて、最終候補全員のステージが終わり、投票締め切りまでの待機時間に入った。


 会場の照明が少し落とされ、スクリーンには現在の投票案内が表示される。客席では、スマホを見下ろす人たちの光が、点々と夜空のように灯っていた。


 配信のコメントも、止まらない。


 《今日見てよかった》

 《アーカイブ残らないって、ま?》

 《ルミナに入れた》

 《セレネ推しだけどルミナに泣いた》

 《あの場で動けるのすごすぎる》

 《これはもう決まっただろ》

 《いや最後まで分からん》


 票の数字は、まだ見えない。


 それでも、会場にいる誰もが、気づいているようだった。


 今夜、この場所で、最初に見つけられた星が誰だったのか。


 発表まで、あと少し。


 客席に浮かぶ小さな光のひとつひとつが、もうその答えを抱えているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。