↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリマステラ ~TS転生した元Pの私が、孤独な幼馴染を一番星にするまで~  作者: 星澄夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/26

22「ポラリス」

 最終選考ステージの会場は、プラネタリアが用意したドーム型のホールだった。


 天井いっぱいに人工の星空が広がっている。そこから吊り下がっているのは、大型のミラージュ投影機材だろう。私たちが普段使っているタブレットや簡易機材とは、まるで規模が違う。一体いくらするのやら。考えるだけで少し怖い。


 ステージの中央には、(ステラ)が立つための光の円が描かれていた。円形の床そのものが淡く発光していて、そこに立つことでステラを星に見立てる。そういう演出だと、見ただけで分かった。


 客席は、関係者と抽選で選ばれた数百人のファンで埋まっていた。倍率もすさまじいことになっていたらしい。


 多すぎるわけではない。けれど、普段こんなに大勢の前に出ることがない私たちからすれば、十分すぎる数だった。


 そのすべてが、配信を通して世界にも流れる。


 私は、バックステージに用意された控室にいた。トップ5にはそれぞれ専用の控えスペースが割り当てられていて、プロデューサーである私もそこに入ることができた。


 手元には、いつものタブレット。今回はミラージュ機能こそ使わないが、スケジュールや進行表は全部ここに入っている。それに、これがないと落ち着かない。


「緊張するね……」


 横でルミナが呟く。


「まあ、そうだね。……さすがに私もちょっと緊張してるかも」


 ステージに出るのはルミナだ。そう分かっていても、指先の震えは止まらなかった。


「そらも? 珍しい。……ふふ、なら一緒だね」


 そう言って、ルミナが私の腕をつつく。まったく、この子は。変なところで図太くなった。でも、良い変化だ。


「もうすぐ始まります」


 外からスタッフの声がかかった。


 いよいよ、今年の一番星(プリマステラ)を決める最終決戦が始まる。


 部屋に備え付けられたモニターにステージの映像が映り、配信のコメント欄と中継の音声が流れ始めた。










『さあ、いよいよ始まります、今年の一番星(プリマステラ)最終選考ステージ! そして今夜は、解説に、とびきりのゲストをお招きしました。北極星(ポラリス)の称号を持つ、現役最高峰のステラ――アルちゃん事、アルテミスさんですっ!』


 その名前に、客席がどっと沸いた。配信のコメントも、一気に加速する。


 《アルちゃんだ!!》

 《アルテミス様――!?》

 《今年、豪華だな》


『どうも、アルちゃんですー。最高峰とか、やめてほしいなあ。今日は、ただのいちファンとして、楽しませてもらいに来ただけだよー』


 砕けた口調に、会場がどっと笑う。月の女神のような美しい見た目(ミラージュ)と、そこからは想像もできない本人の気の抜けた喋り。そのギャップが、人気の理由だった。


 アルテミス。業界の頂点を意味する北極星(ポラリス)の称号を持つ一等星。登録者数は全ての(ステラ)の中でトップ。ルミナが、昔からずっと推し続けてきた、超有名ステラ。


 その人が、今夜、ルミナのステージを解説する。


『アルテミスさんは初代一番星(プリマステラ)でもあるんですよね』


『うーん、そうなんだけど。今の子たちのほうがずっとすごいよ。だって、私たちが繋いできたものの続きを、ちゃんと越えていこうとしてるんだから』


『さすが初代一番星(プリマステラ)ですね。その言葉だけで、今日のステージが楽しみになります』


 アルちゃんの声を聞いた瞬間、ルミナが両手で口を覆って、声にならない悲鳴をあげていた。


 ……気持ちは、わかる。でも、いまは、落ち着け。


「ルミナ。アルちゃんに、最高のパフォーマンスを見せよう」

「……うん。うん! がんばる!」


 と、裏返った声が返ってきた。


『——さあ、今年もっとも多くの人に見つけられた(ステラ)は誰だ!? 最終選考、スタートです!!』










 ステージが始まった。


 最終選考のルールは単純だ。


 トップ5のステラが一人ずつステージに立ち、それぞれが自分の武器を披露する。


 歌でもいい。トークでもいい。企画でも、パフォーマンスでもいい。何を見せるかは自身の自由。


 ただし、その時間内に、自分こそが一番星(プリマステラ)にふさわしいと証明しなければならない。


 そして全員のステージが終わったあと、最後の決戦投票が行われる。


 投票対象は、この五人だけ。


 まさしく、一番星(プリマステラ)決める最終ラウンドだった。


 まず、一人目に現れたのは、天城(あましろ)ノエル。


 おっとりした歌姫が、その圧倒的な歌唱力で、いきなり会場を呑み込んだ。


『うわー、ノエルちゃん、一曲目から本気ですねえ』


『すごい子です。あれだけの声を、まったく力まずに出してくる。喉の使い方が、完成されてますよ。でもトップバッターで、これだと後ろがやりにくいでしょうね。さてさて、楽しみです』


 アルちゃんの解説は的確だった。ただ褒めるんじゃなく、どこがどう凄いのかをちゃんと分析している。運だけでトップに立った人じゃないことを改めて思い知らされた。


 《ノエルー!》

 《ノエルママー!》

 《開幕から強すぎる》

 《歌で殴ってくるな》

 《やっぱ別格だわ》

 《耳が幸せ》


 二人目は、蒼ヶ崎(あおがさき)リオル。


 王子様系の人気ステラだ。トップ5の中で、唯一の男ステラでもある。


 軽快な音楽に合わせてステージへ飛び出すと、爽やかな笑顔のままキレのあるダンスを披露する。激しい動きの中でも表情は崩れない。客席から悲鳴のような歓声が上がった。


『リオルくん、さすがですねえ』


『華がありますね。ダンスの技術も高いですけど、それ以上に空気を掴むのが上手い。あの子が笑うと、客席のボルテージが一段上がるんですよね』


 会場の熱量が、目に見えて上がっていく。


 《リオル様ーー!!》

 《王子ー!》

 《顔が良い》

 《ダンスえぐ》

 《女性ファンの歓声すご。メロつきすぎだろ》

 《これはアイドルだなぁ》

 《人気出るのも分かる》


 三人目は、宝生院(ほうしょういん)ティアラ。


 上品なお嬢さまキャラで知られるステラだ。


 優雅な笑顔で登場し、可憐なお嬢さまトークを披露――するはずだった。


『みなさま、本日はお集まりいただき、まことにありゃっ』


 盛大に噛んだ。そう、彼女の人気の秘訣は、その豪奢な見た目からは想像もつかない程の——ドジっ子属性。


 一瞬静まり返った会場で、ティアラ本人が焦りながら訂正する。


『あ、あのっ、今のは忘れてくださいませ! 私としたことが、き、緊張しておりますの』


 その必死なフォローに、会場中が笑いに包まれた。


『ティアラさんは平常運転ですねぇ』

『ふふ……。あ、ある意味、一番安定してますよね。この大舞台でもいつもと同じように笑いをとれるのは大物です』


 アルちゃんもお腹を抱えて笑っている。


 ティアラはそのまま観客を巻き込みながらトークを続け、いつの間にか会場全体を自分の味方につけてしまった。


 《噛んだwww》

 《安心した》

 《いつものティアラ様》

 《ぽん生院様ー!》

 《こ、これがトップ5》

 《愛され力が強すぎる》


 歌、ダンス、トーク。配信者の祭典らしく、誰一人、同じ武器がない。三者三様の、見事なパフォーマンス。


 そして、三人のパフォーマンスが終わったところで、アナウンスが入った。


『さあ、ここでお知らせです!』


 司会の声が一段高くなる。


『最終選考の投票は、このステージをもって改めて行われます。……ですが、長い予選期間で積み上げてきた応援も、もちろん無駄にはなりません』


 その言葉に、客席がざわめいた。会場の照明が少し落ちる。


『そこで今回は、予選期間中、特に大きな注目を集め、最後までほとんど並ぶ勢いを見せた二名に、特別枠をご用意いたしました』


 嫌な予感がした。


 ルミナの出番が最後のほうだとは聞いていた。進行表にもそう書いてある。


 けれど、それが特別枠だなんて話は聞いていない。


『本日のステージ、その大トリを飾る二人です!』


 巨大スクリーンに、2つの名前が映し出される。


 セレネ。


 そして――朱野(あけの)ルミナ。


『たっぷりの持ち時間で、おふたりのステージをお届けします!』


 会場が、最高潮に沸いた。


 隣で、ルミナが固まる。


「……え。これ、そういう意味だったの?」

「らしいね」


 私も進行表を見返した。


 後半の出演であることと時間配分は事前に伝えられていた。けれど、こうして改めて見ると、確かに前の三人より持ち時間が長い。


 プラネタリアの運営はサプライズ好きとは思っていたけれど、まさかここまでとは。


「……でも、やることは変わらないか」


 予定していた内容が変わるわけじゃない。ルミナと私で考えてきたステージを、全力でやるだけだ。


 むしろ、与えられた時間が長いなら好都合かもしれない。


「さすが、そら。冷静だね」

「ハプニングには慣れてるからね。……誰かさんのおかげで」

「だ、誰かな~」


 ルミナが横を向いて口笛を吹く……真似をした。ルミナは、口笛が吹けないのだった。










『アルテミスさん、この二人、どう見ますか』

『……おもしろい組み合わせです』


 アルちゃんの声が、少し、真剣になった。


『セレネは、徹底した作り込みの人。隙がない、表現の1つの極致です。今年のトップ5の中で最もステラとは何かを体現した子でしょう』

『セレネさんは、アルテミスさんの事務所の後輩でもあるんですよね?』

『はい。何度か話したことがありますが、すごく努力家……っといけない。あまり言ったら怒られてしまいますね』


 アルちゃんがペロッと舌を出しておどけたように言った。


『一方のルミナさんは――まったく逆を行く子です。飾らない。ありのままの自分をさらけ出す。そのぶん、感情がまっすぐ客席に届く。……正反対のふたりが、頂点を争う。これは期待せずにはいられませんね』

『なるほど! ちなみに、ルミナさんといえば、トップ5唯一の個人勢ですよね』

『ええ。個人勢は、全部自分たちで抱えることになりますからね。大変だったと思いますよ。でもだからこそ、ルミナさんがここまで来れたのは、本人の魅力だけじゃなくて、隣で支えてきたプロデューサーさんとの積み重ねも大きいでしょう。二人で作ってきたステージ、楽しみですね』

『はい、ありがとうございます! それでは、白銀の姫と、黄金の新星のステージ、皆さん楽しみましょう!』

『いえーい! がんばれー! セレネー! ルミナー! そらPー!』










「じゃあ、そら……行ってくるね」


 ルミナが、小さく息を吸った。


 私はタブレットを裏返して置き、ルミナのほうを向く。


「うん。行っておいで」

「……ちゃんと見ててね」

「もちろん。最後までみてるから。……楽しんで」


 そう答えると、ルミナは少しだけ笑った。


 一応、連絡用のインカムはつけているが、基本的にはルミナに任せるつもりだった。だからこれがステージ前最後の会話になるかもしれない。


 スタッフに案内されて、ルミナは控室を出ていく。


 ルミナが一度だけ振り返った。


 私は親指を立てる。


 ルミナも親指を立てた。


 そのまま扉の向こうへ消える。


「……がんばれ、ルミナ」


 誰もいなくなった控室で、私は拳を握りしめながらぽつりとつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。