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プリマステラ ~TS転生した元Pの私が、孤独な幼馴染を一番星にするまで~  作者: 星澄夜


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21/26

21「投票」

 寒さは、いつのまにかやわらいでいた。窓から差し込む陽射しには、もう春の陽気が混じっている。


 ここ最近のチャンネルは絶好調だった。雪玉が坂道を転がるみたいに、登録者も、同時接続も、再生数も増えていく。気がつけば、ひと月前とは比べものにならない場所まで来ていた。


 その伸びの引き金を引いたのは、間違いなくセレネだ。


 謝罪のあとに提案された、あのコラボ。配信に残ったセレネのリスナー。切り抜きで広がった『ルミセレ』。新しく来た人が、また誰かを連れてくる。そんな連鎖が止まらなかった。


 結果として、セレネは自分の手で、自分のライバルを大きくしてしまった。


 ……たぶん、本人はそれを望んでいたのだろうけど。


 まったく。フェアすぎて眩しい姫様だ。










 さて、一番星(プリマステラ)の投票も、いよいよ大詰めだった。


 秋に始まったこのイベントも、もうすぐ投票終了が近い。半年近く、こつこつ積み上げてきた票。炎上でもうだめかもしれないと思った時期もあった。それでもルミナは止まらなかった。配信を続けて、少しずつ前に進んできた。


 その結果が、もうすぐ出る。


 その日、私たちは二人で画面の前に座っていた。


 発表されるのは、最終選考に進む五人。


 得票数は、公平性のためか、最後の1か月だけ非公開になっていた。順位の変動もぼかされていて、今どこにいるのか正確には誰にも分からない。


 だから今日の発表を見るまで、ルミナが残っているかどうかは分からなかった。


 非公開になる前の時点では、ルミナは上位に食い込めそうな、そんな伸び方をしていたから、きっと大丈夫。そう思いつつも、いつの間にか私は拳をギュッと握りしめていた。


 ルミナもクッションを抱えて、口を真一文字に結んでいる。膝が、小刻みに揺れていた。


「……だいじょうぶ。落ち着いて」

「うん。……うん」


 返事をしながらも、ルミナは画面から目を離さない。


 やがて画面に、名前が順に灯っていく。呼ばれる順番は順位とは関係ない、と説明が入った。


 一人目、――天城ノエル。


 おっとりした雰囲気と圧倒的な歌唱力で人気を集める歌姫だ。


 二人目、――宝生院ティアラ。


 上品なお嬢さまキャラで知られるが、配信では驚くほどよく転ぶ。ドジっ子属性。


 三人目、――蒼ヶ崎リオル。


 爽やかな笑顔でファンを魅了する王子様系ステラ。女性人気は特に高い。


 まだ呼ばれない。


 四人目に、白銀の姫の名前。——セレネ。


 まあ、当然だ。


「あと一人しかないよーー! 心臓が持たない!」


 ルミナが目をぎゅっと閉じる。


「ほら、ちゃんと見なさい」


 私はルミナの瞼を指で押し上げた。


「ぎゃー! 暴力反対!」


 そんなことをしている間に、五人目の発表がされていた。


 画面には、『朱野ルミナ』の名前が大きく表示されている。


 数秒、ルミナは固まっていた。


 私も、ルミナの瞼を押し上げたまま動けなかった。


 やがてルミナが、ゆっくりと画面を指さす。


「……私?」

「うん。ルミナだよ」


 ようやくルミナから手を離す。


「私、トップ5……?」

「うん」


 ルミナの目が、みるみる潤んでいく。でも泣かなかった。代わりに、くしゃっと顔じゅうで笑った。


「やった……! やったよ、そら! 私、トップ5に入った!」

「すごいよ。ほんとに」


 そう言いながら、私の心臓もひどくうるさかった。


 去年の今頃、私はルミナを(ステラ)の世界へ連れ出した。あの頃から、随分遠くまで来た気がする。


 けれど、願いはまだ叶っていない。一番星(プリマステラ)は、もうすぐそこにある。


 あと少し。


 手を伸ばせば、届くところに。










 最終選考の通知には、もうひとつ、知らせが添えられていた。


 トップ5だけが招かれる特別ステージ。


 プラネタリアが主催する生配信イベントで、最終選考に残った五人が同じ舞台に立つ。そこでそれぞれがパフォーマンスを披露し、それが終わった後に最終投票が行われる。


 いわば、決勝の檜舞台だ。


「うわ……」


 通知を読んだルミナが、固まる。


「私、こんな大きいステージに立つの……?」


 緊張と興奮が半分ずつ混ざった声だった。


「立つんだよ。ここまで来たんだから」


 私が言うと、ルミナは何度も頷いた。


「そっか、そっか……」


 そう呟いてから、ふと顔を上げる。


「……セレちゃんもいるんだよね?」

「もちろん」

「そっかぁ」


 ルミナが、少しだけ嬉しそうに笑う。


「ノエルさん、ティアラさん、リオルさんか」


 そして、ぎゅっと拳を握った。


「みんな手ごわそうだけど、でも、負けないぞー!」


 それはルミナの決意表明。それを聞きながら、私も陰ながらしっかりとバックアップをしようと心に誓った。










 その夜。ルミナが帰ったあと、私のスマホが震えた。


 画面には、セレネの文字。ボイスチャットの呼び出しだった。


「もしもし」


『……あ、そらP? うち、セレネ。ルミナは?』


「さっき帰ったよ。何か用?」


『べつに。……トップ5、おめでとうって。ルミナに伝えといて』


「そっちもおめでとう。……直接、言えばいいのに」


『直接言うのは、なんや、少し照れくさいやん』


 電話の向こうで、セレネが小さく笑う気配がした。


『あの子が伸びたん、うちとのコラボも少しは効いとるやろ。自分で、自分の対抗馬を大きくしてしもた。……我ながら、アホなことしたなって思うわ』


 やっぱり、本人もわかっているらしい。私は少し笑った。


「お人好しだね」


『誰がお人好しや。……ただ、まあ』


 少しだけ間があった。


『どうせなら、本気のあの子が見たいと思ったんよ。コラボのあと伸びたんやとしても、それでここまで来たんやったら、うちは嬉しい。やっぱり、ルミナは本物だった……って。まあ、ちょっとだけ、悔しいけどな』


 強がりだけではなかった。この子は、本当にそう思っている。


『せやから、そらP。もうひとつだけ』


 セレネの声に真面目なものが混じる。


『あのステージで待ってるって、ルミナに伝えといて。うちも、ちゃんと正面から星を獲りにいくから』


「……わかった。伝えとく」


『おおきに。……あ、それと』


「まだあるの?」


『ゲームのリベンジは、また別でな。あれは、まだ諦めてへんし。一番星(プリマステラ)が終わったあとも、ステラ人生は続くんやから』


 笑ってしまった。よほど悔しかったらしい。なんとなく、親近感を覚えた。


「いつでも受けるよ。……って、私、ステラじゃないんだけど」


『どっちでもええよ。……その余裕、いつか後悔させたるわ』


 そう言いながらも、セレネの声はどこか楽しそうだった。


 電話を切って、私は暗くなった画面をしばらく見ていた。


 最終選考ステージ。


 5つの星が並ぶ夜。


 あとは、その日を待つだけだった。

評価やブックマーク、リアクションを本当にありがとうございます!

皆さまからの反応がとても励みになっています。感謝感激雨あられです。


物語もいよいよ終盤に入ります。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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