↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリマステラ ~TS転生した元Pの私が、孤独な幼馴染を一番星にするまで~  作者: 星澄夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/26

20「落書き」

 クリスマスのにぎやかさも通り過ぎ、気づけば年も明けていた。


 ルミナの配信も、私たちの日常も、止まることなく続いている。


 放課後、今日もルミナは、いつものように私の部屋に転がり込んでいた。


 ベッドに寝そべって、足をぱたぱたさせながら、どうでもいい話をしている。


「ねえ、聞いてよそら。今日ね、購買のクリームパン、売り切れてたんだよ」

「大事件みたいに言うね」

「大事件だよ。私はあれを楽しみに午前中を生きてたのに」


 よよよ、と大げさに泣きまねをするルミナに、私は苦笑する。


 本当に落ちもない他愛のない話。でもこの緩さが、心地よかった。


「あ、そういえばさ。今日、授業中ずっと窓の外見てたら先生に当てられた」

「ちゃんと答えられた?」

「ぜんぜん」

「だめじゃん」

「だって鳥がいたんだもん」


 けらけらと、ルミナが笑う。鳥に気を取られるなんて、どこかのお嬢さまだろうか、この子は。


 その後も、ルミナの取り留めのない話は続いた。


「あ、そうだ」


 その途中、ふいに思い出したように声を上げる。


「セレちゃん、元気かなあ」


 そう言いながら、ごろんと寝返りを打って天井を見上げた。


「この前のコラボ、ほんと楽しかったよね。また一緒にやりたいなー。……あ、でも、そらにボコボコにされたの、まだ根に持ってるかも」

「……仕方ないじゃん。手加減できないんだもの」

「ふふ。セレちゃん、半泣きだったもんね」


 あのコラボから、ルミナのチャンネルは目に見えて変わった。


 同時接続がぐっと底上げされて、登録者の伸びも、これまでとは桁が違う。1回の配信で、以前の一か月ぶんくらい増える日もあった。


「ねえ、知ってる? 私のチャンネル、登録者、また増えてたよ。なんか、こわいくらい」

「知ってるよ。毎日見てるから」

「あはは。そうだった。Pだもんね、そらは」


 追い上げは、順調すぎるくらいだった。


 一番星(プリマステラ)も、もう夢みたいな話じゃない。手を伸ばせば届くところまで来ている。


 ひとしきり笑ったあと、ルミナがふとローテーブルの上に目をやった。


 書きかけの譜面。


 復帰配信で一番を歌った、あの曲。けれど続きは、まだ途中のままだ。放置していたわけではない。ただ、いろいろと重なって、思うように進められずにいた。


 それと、もうひとつ。


「曲作り、進んでる?」

「……ぼちぼち」


 一人でも、たぶん時間をかければ書けた。でも、思いついてしまったのだ。この曲の続きを、私一人で書いていいのだろうか、と。


 私はペンを手に取って、少し迷ってから口を開いた。


「……ねえ、ルミナ。ちょっと、頼みがあるんだけど」

「ん? なに?」

「二番の歌詞。……一緒に考えてくれないかな」

「私が!? いいの!?」


 ルミナが勢いよく身を起こした。


「私、作詞とか、やったことないよ?」

「うん。それでも、ルミナがいい」


 その言葉は、まっすぐに口から出た。


「一番は、私一人で作った歌だった。……でも、二番は違う気がして。この続きは、一人で書くものじゃない。ルミナと作るべきだって、そう思ったんだ」


 ルミナが歌ってくれた一番を、何度も聞いた。たぶん、世界で一番聞いた。


 聞くたびに、少しずつ思いが強くなっていった。この先は、私だけの言葉じゃだめだ。ルミナの声で歌われるなら、ルミナの言葉も入れたい。ルミナと、私の歌にしたい。


 今日、ようやくそれを口にできた。


 ルミナは、きょとんとしていた。それから、じわっと表情を崩していく。


「……なにそれ。うれしいこと、言うじゃん」

「たまにはね」

「あー、照れ隠ししてる」


 ルミナは笑って、勢いよく身を乗り出した。


「じゃあ、やる! 全力で考える!」


 ルミナは、クッションを抱えたまま譜面を覗き込んだ。


「えっと。一番って……願いが届かない人の曲だよね」

「……うん」


 私が頷くと、ルミナは少しだけ声をやわらかくした。


「あ、勘違いしないでね。前も言ったかもしれないけど、私ね、あの一番、すっごく好きなの」


 ルミナはそう言って、指先でクッションの端をつまむ。


「ずっと一人で、誰かを待ってる感じ。私もちょっと、自分を重ねちゃってるからかもしれないけど」


 少し照れたように笑って、それから続けた。


「でね。だからこそ思うんだけど」


 クッションに顎を乗せて、少しだけ考える。


「だったら……二番では、その人がちょっとだけ手を伸ばせたらいいなって。どうかな」


 とん、と。胸の奥を軽くたたかれた気がした。


「ずっと待ってた人がさ。ある日、待つだけじゃなくて。ほんの少しだけ、自分から手を伸ばすの。会いに行くっていうか、届けに行くっていうか」


 言葉を探しながら、ルミナは続ける。


「……そういう続きだったら、私、すごく嬉しいなって」


 そして最後に、少しだけ困ったように笑った。


「なんて。さすがに単純すぎるよねー」


 たしかになんてことない話だった。寂しかった人に、幸せになってほしい。ただ、それだけだ。


 でも。


 私の中で、何かがかちりとはまった。


「……いいね」


 気づけば、ペンが動いていた。空いた譜面に走り書きが増えていく。


「ルミナ、それ、すごくいい」

「え、ええ!? 本当に!?」

「もう少し聞かせて。その人が手を伸ばすとき、どんな気持ちだと思う?」

「ええー!?」


 ルミナが目を丸くする。


「えっと……怖い、かも」

「怖い?」

「うん。届かなかったら嫌だもん。でも……」


 少しだけ考えてから、言った。


「それでも、震えながら伸ばす。みたいな」

「いいね」


 私の声が少し弾む。


「怖い。でも、伸ばす。いいね、それ」

「わ、私が適当に喋ってること、どんどん歌になってるけど!? 本当に大丈夫、これ!?」


 それからは、部屋が言葉で満ちていった。


 ルミナが思いつきを投げて、私が取りに行って言葉にする。違うと思えば二人で首をひねり、もっと良い形を探す。


 自分の言葉が歌詞になっていくたびに、ルミナは不安そうに騒ぐ。そのくせ、次から次へと新しい種をくれた。


 一人では、何ヶ月も動かなかった壁だった。


 なのに。


 ルミナと一緒だと、不思議なくらい簡単に前に進んでいく。










 ふと、スマホが鳴った。ルミナのだった。


「あ、やば。お母さんだ」


 画面を見て、ルミナが、声をあげる。


「えっ、もうこんな時間!? うそ、外、真っ暗じゃん!」


 窓の外は、いつのまにか夜になっていた。何時間、こうしていたんだろう。夢中になってまるで、気づかなかった。


「ごめん、お母さん。いま帰る! ……うん、ごめんってば。すぐ! そらの家だから、すぐだよー。え? 知ってる? なら聞かないでよ! ……ちょっと、他に友達いないでしょ、みたいに言わないで!」


 電話を切って、ルミナは慌てて鞄を引っ掴んだ。


「ごめんそら、もう行かなきゃ! お母さんカンカンだった。でも、めっちゃ楽しかった! 続き、楽しみにしてるね!」


 一息にそう言ってから、嵐みたいにルミナは帰っていった。


 静かになった部屋で、私は、走り書きだらけの譜面を見下ろした。


 矢印だらけで、ぐちゃぐちゃで。ルミナの思いつきと私の直しが、入り混じっている。


 他の人から見たら、たぶん落書きにしか見えないだろう。


 だけど、私とルミナにだけは分かる。この線1つがどんな思いを表しているのか。


 そんなことを考えて、少し恥ずかしくなり、私は小さく頭を振った。









 翌日。仕上げた二番を、ルミナに聴かせた。ルミナは「もうできたの!?」と驚いていたが。


 仮の歌で、メロディをなぞる。最後まで聴いて、ルミナがぽつりと言った。


「……『僕は窓から手を伸ばす——』」

「うん」

「これ、私が言ったやつ、だ」

「そうだよ。ルミナの言葉を歌詞にしてみたんだ」


 ルミナは数秒固まって、それから、ぼんっと顔を赤くした。


「えっ、ちゃんと曲になってる!? あの、適当な話が!? 恥ずかしっ!」

「いいインスピレーションを貰ったよ。ほんとに」


 じたばたするルミナを見ながら、私は、頬がゆるむのを抑えられずにいた。


 フルの目処が、立った。


 前の私が、ずっと届けられなかった歌。


 その続きを、この子が一緒に作ってくれた。


 あとは、これを。


 ルミナの声で、届けにいくだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。