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97.外伝 フルオロ伯爵の戦術講義

この異世界にも戦術書のような物はあるが、


戦争を体系的に教える士官学校のような物はない。


戦争について貴族学院で教える内容は歴史や文学に近く


戦術書を暗記した者が優秀とされている。




一方マンチエスでは選抜された貴族や有力者の子弟に


フルオロ伯爵が講義を行い、口頭試験を実施している。


以下はその講義内容の抜粋である。




********************




さて、本日ここにお集まりいただいたという事は諸君は戦争、


戦術について興味があると思う。


戦術書の古典は読んだか?貴族学院で暗記するまで読まされたか?


確かにあれは便利だ。基礎原理は書いてあるし、何より教養のある敵は


戦術書の通り動いてくれるから、動きを予測するのに便利だ。




だが、ここに来たからにはその縛りを解き、自由に発想して


時に卑怯に、時に無謀に、常に相手の考えの先を想像し、


事態を分析し、自分に都合よく動かす事を心がけるようにしたまえ。


これから教える内容も必要な事ではあるが、


諸君らが覚え、その身に叩き込み、一瞬も忘れてはならない事は


今述べた自由な発想だ。


情報を集める術、陣形、輸送方法、教えられた事を絶対真実として


疑わない者はこの場に要らないから立ち去れ。


私を批判、論破しろ。


事態は常に変わる、一瞬も油断するな。奇手を笑うな。


何度でも言うぞ、ここで教える事は絶対ではない。


決めつけてはいけない。予測と違う事があっても慌ててはならない。


生き残る事のみを考え冷静、冷酷に行動すると誓える者だけが残れ。




***********************




我が国を取り巻く状況を説明しよう。


諸君らも知っての通り、我が国西部に広がる広大な土地は


80年前国としてまとまっていなかったエルフ達のものだった。


その土地の南に居たドワーフの国とで分割した。


我が国の土地シャーフラントだな。国境はシャーフラント南部の


山脈になった。


さて、干渉地帯のエルフの土地はなくなってしまったが()()()()()()()


ドワーフ達の国は2つに分裂した。


それぞれ、イルとカルと名乗っているな。


この二国の王は兄弟だが仲が悪く、時に小競り合いまで起こしている。


シャーフラント西方は魔物だらけの土地で、


その向こう側の国が陸路で来るには無理があるから


我が国の西と南は安全になった訳だ。




王都のあるヌーラシア平原の北は広大な山岳地帯


その先は魔物さえ住まない不毛の大地、危険はない。




唯一開けた東側にあった小国群は危機感を持ったのだろう。


自分達で互選して皇帝を決めリヒト帝国を建てた。


建国経緯からわかる通りまとまりがない。


総人口なら帝国が上かもしれないが、脅威ではない。


こちらから攻める事も出来ないが、向こうが攻めてくる事もない。


こうして我が国の周囲は安全となり平和な80年を謳歌しているのだよ。




南海上のリュシアン王国?エルフの国で海軍が強力だが総人口が少なく


脅威ではない。むしろ仲裁、牽制で紛争が起きないための重しとなっている。




考えてもみろ。全ての国と貿易して利益を得ている彼らは


平和な状態が一番儲かる。


自ら紛争を起こすとは考えにくい。




***************




各種族の説明は80年前の戦争の時の私の個人的感想だ。


現状は違うかもしれないし、


ヌーラシアで亜人と呼ばれている種族を差別するものではない。


各種族、各個人の資質を上手く組合せ、相手の弱点を突くのが重要だ。




・人間


  数が多い


 王都、ヌーラシア周辺


  甲冑を着て長槍、長剣を振るう貴族、弓と長槍で武装した平民の組合せ


  貴族は馬に乗ったまま戦うが鎧のせいか鈍重な傾向がある。




 シャーフラント


  エルフの土地に入り込み放牧を初めて紛争の源になった人々


  軽装騎兵は騎乗したまま弓を射るのが上手い。


  騎兵は比較的短い槍や剣を持っている一方歩兵は驚く程長い槍を持っている。




  弓の威力はドワーフ、エルフに劣るが、上に向けて射て雨のように降らす等


  数に物を言わせて他種族を圧倒した。




  魔法を使える者は多少はいる。


  貴族なら特に多く炎を投げつけたりするが主戦力にはなっていない。


  負傷者を治療する回復魔法を使える者は少なく被害の回復は遅い





・ドワーフ


  人口はエルフより多く人間よりかなり少ない。


  手足が短いため馬に騎乗するのは苦手で機動力は落ちるが


  厚い鎧を着てハンマーや斧を持ち腕力もあるので接近戦に強い。




  手足の短いのは弓にも不利なのだが機械製造に長けた彼らは


  弩を使うので威力、命中精度ともエルフなみ。




  魔法は例外を除き使えない。


  回復魔法を使える者はいなかったので被害の回復は最も遅い





・エルフ


  人間、ドワーフに比べ圧倒的に人口が少ない。


  馬に乗っているのは見た事がないが彼らには不要だろう。


  風のように走り木の葉のように飛ぶ。


  弓は圧倒的で距離と場所によってはドワーフの鎧さえ射貫かれる。


  森の中では樹木の上に駆け上がるので捕捉困難である。


  


  ただし個人主義で集団戦はしてこない。


  何とか距離を詰めればモイモイという例外を除き対処できる。


  モイモイの戦士について?80年前百倍でかかればとか言ってた


  連中がどうなったか調べてみたまえ。




  魔法は全員使えると思った方が良い。


  他種族が使えない回復魔法も得意で少々の損害を与えても回復してしまう。


  エルフの魔法については未知の物もある。


  向こうから攻めてくる事は無いので、放置するのが最善の作戦である。




・獣人、リザートマン


  数は少ない。


  言葉が通じるだけと思っている者が多いだろうがその身体能力は脅威だ。


  弓や魔法を使う者は見た事がない。


  自分で考えて行動する事が苦手なので必ず補助の人間、ドワーフ、エルフ


  いずれかを付ける事。


  効果的に使えば必ず役に立つ。




********************




 大綱から諸部族の特徴まで偏見を含めた率直な意見は


 高く評価する人々がいる一方、


 亜人であるドワーフ、エルフ、獣人、リザートマンを


 人間と同様に評価しているとして、


王都では『半人間であるラバ男の妄言』と無視されていた。

戦争にならないように勢力を分散、均衡させようとした人が80年前にいたようです。

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