89.お説教、キター
昼食は豪華だった。
ローストビーフ、チキングリル、ヒラメのムニエル。果物は見慣れたベリー類から、「この世界にもあったんだ」というパイナップルやバナナまであった。
最初、ごく普通の、この世界的には豪華な食事が用意されていたのだけど、厨房の人たちが申し訳なさそうに言ってきたことを要約すると――。
昼にやって来た外国の大使との食事会が議論会になって食物が大量に余っている、
残飯ではなく冷めてしまっただけなので、
良かったら食べてもらえないだろうか、ということだった。
俺的には全然OKだし、バッチャたちも気にしないようなので
出してもらったら大正解。
これ、食べ残したら料理した人が悲しむのは理解できる。
味は令和日本人の感覚が残る俺には物足りない。肉も魚も美味しいけど
欲を言えば辛子や唐辛子が欲しい。もっと言えば醤油やマヨネーズが欲しい。
亜空間倉庫の物を集めた人はあまり料理しなかった人らしく、
醤油は少しあったけど、マヨネーズもウスターソースも味噌もない。
……この料理十分に美味しいけどね。
これ、バルツ村でトマト缶とツナ缶をご馳走扱いしていたマリアさんに
食べさせてあげたい。回復したら今度はもっと良い物を作ってあげよう。
ちなみに、午後2時らしいです。
マンチェスの町には時計台があるけど当てにならないとのこと。
皆、日時計の方を信用していて、当の時計台が太陽を基に修正しているらしい。
伯爵邸の時計なんて分針がなかったりする。
そんな時間ですがお昼過ぎ、いろいろあってお腹が空いている。
大人しいインガまでモリモリ食べている。作法を咎められることはなかった。
親戚の大使に会うんだよな、いつ呼ばれるのかな、衣装替えたりするのかな?
そう思っていたらいきなりフルオロ伯爵と知らないエルフさんが部屋に入ってきた。
「バッチャ、面倒だから連れて来た。セレロー、これがお前の姪だ。
おお、本当によく似ている。こんな幸運があるとは。」
ノックくらいして欲しかった。
スモークサーモンを口に入れて、酢漬けのニシンに手を伸ばしたところだったんだぞ。
いきなりべらべら話しかけられて、小さいトーストを喉に詰まらせたじゃないか。
相変わらず、情報量が多い。せっかち過ぎる。
「驚かせて申し訳ない。広間で会見すると、
他の人間の手前できないことが多くてな」
セレローと呼ばれたエルフは伯爵よりは落ち着いた感じでバッチャに話しかける。
「久しいなバッチャ、100年位か」
「久しいなセレロー、それ位か」
エルフの挨拶ってスキンシップが激しかったんだ。
結構長い時間ハグしている。この世界の人間の礼儀はそこまでベタベタしない。
そんな二人をネッチャは多少戸惑いながら、エルフ語が判らず「???」状態のインガは
完全に混乱した様子で見ていた。
「初めて会うな。カッチャの弟のセレローだ。ずっと心配していた。
会えて本当に良かった。二人が再会したその日に偶然居合わすとは精霊の奇跡、
なんと良い日なんだろう」
初対面でいきなり強いハグはしないらしく、ネッチャを軽く抱きしめた後、
インガの方に近づいたが、様子がおかしいのに気が付いてハグはやめた。
「言葉がわからないの」というネッチャの言葉にうなずくと、
人間語で同じことを言い、インガの手をとって
「今後の事は心配するな」みたいなことを言っている。
どうやら人柄の良いエルフのようだ。あれっ?人、柄で良いのかな?
心温まる情景を見ていた俺の背中を、フルオロ伯爵がつっついてきた。
「刑場で大騒ぎしたそうだな。お前、
本当に人前で回復魔法ヒールを使ったのか?」
詰問調の口調だった。
「使いました。知っている人が怪我していたので」
「賢い子だと思ったが、子供は子供だったか。
もう遅いかもしれないが、今後魔法を使う時は少し考えろ」
「何が悪かったんですか」
「回復魔法を使える人間は一万人に一人もいない。
他の魔力持ちより余程貴重だ。
お前の母親は中途半端にしか使えなかったが大金で辺境伯爵家と契約した。
この意味がわかるか?」
「お金になるって事ですか?」
「その金が欲しくてお前の身柄を狙う奴が出て来る。
これから戦が始まる可能性がある。
回復魔法の価値は天井知らずだ。
俺だってなるべく多く自軍に入れたい。
敵軍に入りそうだったら殺してでも邪魔したい。
子供の魔法使いなんて必ず狙われると考えた方がいい」
テーブルの上の料理を口の中に放り込みながら、伯爵が俺に説教(?)をしてくる。
食事マナーについて説教したい気分だけど、一応聞くことにする。
「お前の母親の実家へ行くことは当面禁止する。
下手をするとその人たちにまで危害が及ぶ。
俺がいいと言うまでこの屋敷を出るな。
町の子供を小間使いに雇ったことにする」
「小間使い、ですか」
「実際にやらなくてもいい。言葉が達者だからバッチャが来た時の通訳兼小間使い、
周りにはそう説明しておく。スラムの連中しか見てないならそれでいいだろう」
俺は不満そうな顔をしたのだろうか? 伯爵が言葉を続ける。
「お前の攻撃魔法についてはバッチャから聞いている。
自分が力を振るったら周りの人間がどう感じるか、使い方を考えろよ。
こうなったのはお前が悪いんだからな。しばらくここにいろ」
納得できねー。
なんか、町、人間、面倒くさい。
ついでに俺たちを確保したいだけじゃね?
伯爵のいう事が正しいのかどうか、とにかく状況がわからない。
何がどうなっているか、一番知っていそうな伯爵に教えてもらうことにした。




