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85.外伝、戦闘教習と覚悟

マンチェスに行くため樹上の道を行く間、休憩を兼ねて水場に立ち寄ることがあった。

エルフは綺麗好きで、どんな時でも水浴びをしたいらしい。

その時立ち寄った水場でも、ネッチャは池に入ろうとした。

「やめろ、レオヒポがいる!」

バッチャが叫ぶのと、水面が割れたのと、どちらが早かったか。


この魔物は強かった。

数分に渡る戦いで、ネッチャが魔物の尾に跳ね飛ばされてしまったほどだ。

危ないと思ったら、すでに魔物の方は倒れており、瞬間移動したとしか思えない速さでバッチャが魔物の背の上に立っていた。

拳銃を取り出しただけの俺は、状況を理解するのにしばらく時間がかかった。


俺は慌ててネッチャに駆け寄り、回復魔法『ヒール』を施す。

幸い骨折はしていないようだが、ひどい打撲だ。

そんな状態なのに、バッチャが魔物の方に来るよう俺たちを呼んでいる。

もう少し手当てを、と思ったが、ネッチャが行こうとするので一緒に行くことにする。


倒れている魔物は思った以上に大きく、数トンはありそうだ。

水の中から大きな口を開けて現れたその牙を見て、最初は巨大なカバだと思ったけれど、よく見ると随分違う。

前足にはライオンのような鋭い爪があるし、後ろにはワニのような長くて頑丈な尾がある。

体の表面を叩いてみたが、岩のように硬かった。


「まず、警戒心がなさすぎる」

バッチャが腰に吊るした袋から何やら薬を取り出し、ネッチャに渡しながら言う。

「次に冷静さが足りない。最初の矢が弾かれたからと短剣で戦った。なるべく距離をとり、弓矢で戦えと教えているだろう」

「焦っちゃって……。何度も切りつけたんだけど」

まだ肩で息をしているネッチャが、薬を飲みながら答えた。

それにうなずきながら、バッチャが魔物の頭に近づいた。

「相手を見て攻撃しなければいけない。弓矢も剣も、攻撃した瞬間は間があく。こいつは鈍間だから隙を突いてこなかったが、一歩間違えれば命取りになるぞ」

魔物の目には深々と矢が刺さり、喉元が切り裂かれている。

「エルフの強みは弓矢だ。極力弓矢を使え。こんな魔物でも、距離をとって目玉から脳幹を狙えば楽に倒せる。無理なら体の動く箇所を観察しろ。動くということは、そこに柔らかい箇所があるということだ」

魔物の皮膚の浅い切り傷や、矢が滑った跡を指さしながらバッチャが言う。

「今回は早く動きを止めるため喉を切り裂いたが、木の上から距離をとれば安全に倒せる。一発で倒せなくても、弱らせれば有利に戦える」

バッチャが自分の短剣を抜くと、魔物の前足の関節部分を切り裂いた。

「こうやって傷つければ必ず弱る。弱るまで木の上に退避しろ。それは逃げることではない。安全が一番大事だ」


伝説のネームド、バッチャの教えを聞いちゃった。

「お前は剣が得意だ。だが、それに引きずられてはいけない」

じっと聞いていたネッチャの傷を見ながら言って、教育は終了のようだ。


その後、水浴びをするのだけれど……とたんにシリアス展開じゃなくなるのは勘弁してほしい。

二人が全裸で水を掛け合うくらいは、百歩譲って許しましょう。

もう寒いくらいの季節なのに、俺を引っ張り込まないでくれ。

「向こうでちゃんと入るから! 一人でできるから!」

と言っているのに、パンツまで脱がされて洗われてしまった。

羨ましいって? 魔石を取り出して、魔物の血まみれになったエルフ二人だぜ。何も感じんわ。


体を拭いてヒートモスの服を着、赤い熱の魔石で沸かしたお湯を飲んで体を温める。

少し休むようなので、気になっていたことを質問してみた。

「エルフの弓って凄く強いみたいだけど、みんな力持ちなの?」

「人やドワーフと違い、弓を引くのに力は使わないぞ」

「え? どういうこと」

驚愕の真実。エルフは魔力で弓を引くんだって。

矢にも魔力を込めて、放った瞬間、矢が暴れるのを抑えて目標へ向けるそうだ。

「上手くできるようになるまで百年くらいかかるがな。ネッチャはもう少し修業が必要だな」

そんなの反則じゃん。人間が弓矢で勝てるわけない。


もう一つ、実験しておきたいことがあるので頼んでみよう。

「あの魔物、銃の的にしてもいい? 効果があるか試してみたいんだ」

魔物に銃が有効か? この強そうなやつで試しておいた方がいいだろう。撃ってみて効果がイマイチだったら目も当てられない。


「もう死んでいるから使ってもいいだろう。どっちみち、ここで腐るだけだ」

バッチャの許可を得て、撃ってみることにした。

一瞬、亜空間倉庫に入れて持ち帰ろうかと思ったことは内緒だ。


結果、拳銃の9mm弾でも、距離と角度によっては効果がありそうだった。

頭蓋骨以外は肉を貫通した。ただ、骨への食い込み深さには少し不安がある。


AR15も貫通。柔らかい箇所に当たった弾痕は深くて、傷口に手を突っ込んだネッチャが驚いていた。こちらは頭蓋骨も貫通した。

問題は、角度が斜めだと跳弾すること。

森の中だし、流れ弾に当たった人はいないと思うけれど、注意が必要だ。

教訓。撃つ時は角度に注意。よく狙おう。


「飛んで行く弾が見えんな。物凄い音で周りに知られるのが難点だが、威力はある」

バッチャが銃を見ながら言う。

「誰でも使えるんだよ。バッチャも撃ってみる?」

「いや、今はやめておこう。それと、誰でも使えることは秘密にしてくれ」

「どうして?」

「ドワーフや人間が知ったら、お前を殺してでも奪って同じ物を作るだろう。そうなったら、エルフの弓矢でも勝てなくなる」

それは、そうかもしれない。

「そんな顔をするな。エルフの時代が終わりそうなことは、私たちもわかっている。気にするな。……機会があったら、銃の使い方も教えてくれ」


俺は何も言えなくなったけれど、もう一度、誓いを思い出す。

大事な人は俺が守る。

危害を加えられそうになったら、今度は覚悟を決めて撃つ。

一番大事な人を刺される前に、撃ってやる。

手が届きそうな距離で、14発中4発しか当たらなかった情けない撃ち方じゃなく、人間だろうが魔物だろうが、確実に狙い撃ちしてやる。


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