83.外伝 彼女たちの身の上話
「君がヘレナでそっちがダーナ、短剣吊ってるのがオーリアだね。」
「はいそうです。隣のエルフがインガ、獣人がスターニャです。」
マンチェス伯爵に仕えているという初老の男が5人と木簡を見比べている。
”ルーシーに戻されるのは嫌。それだけは絶対嫌”
5人のリーダー格、ヘレナは心の中で唱えつつ引きつった笑顔を浮かべていた。
ジェニで舞台を見てきたという自慢話に付き合ってもらった半券が
功を奏したのか、バルツ男爵の下働きの女性がくれた木簡のおかげか
疑いは解けたようだ。
優しそうな人だし、空荷の馬車が何台もあったので、ダメ元で
乗せてくれるように頼んだら乗せてくれた。
神様ありがとう!久しぶりに心から感謝を込めてお祈りした。
数日前まで5人はルーシー子爵領で暮らしていた。
元々人間の3人はお針子の年季奉公、他の二人は奉公先がないので
教会に住まわせてもらって教会や町の雑用で何とか暮らしていたのに
ここ数カ月で生活が激変してしまった。
まず、縫製の工房が潰れてしまった。
親方はひどく申し訳そうではあったが、もう仕事がない、
食い扶持を出してやれないとはっきり言われた。
薄々気が付いていた。
ルーシーは銀山の町で栄えたけど、近年産出量は激減しているらしい。
領主様は減った分のお金を補おうと山の向こうのジェニ子爵に頼んで
茜の栽培を請け負ったり、衣服の仕立てを回してもらったけど
どちらも少しも儲からず廃業する人が後を絶たなかった。
「鉱山が栄えたころは、服を縫う仕事なんていくらでもあったのに。」
急な解雇だったけど肩を落とす親方を見ては何も言えなかった。
実家には警戒された。
貧しい農家が口減らしで教会に預けた娘が帰って来るのを喜ぶはずがない。
しばらく置いてくれる位の愛情はあるようだけど、自分の食べる分
小さな子供達の量が減るのが切なかった。
その後教会の司祭様が亡くなった。
90歳を超えての大往生、町中の人がお葬式に参列した。
3人が野の花を摘んで教会に行くと、知った顔の獣人とエルフ、
スターニャとインガがいた。
「久しぶり、司祭様、いつも優しくて良い方だったよね。」
人間ではない二人をいつも気遣っていた優しい顔がうかぶ。
「…ないニャ」
「え?」
「行く所がないニャ。」
泣いている二人は教会を追い出されたという。
「そんな、インガなんて何十年も教会の為に働いてきたのに」
「今までかかった費用として短剣も寄こせって言われたの。」
「それってインガの私物じゃない。酷すぎる」
「ニャーは何にもないニャ」
ヘレナは3歳の時の記憶、木箱に入れられ教会の前に捨てられていた
スターニャを思い出した。布の一枚も入ってなかった気がする。
「なんとかしてあげたいけど。どうしよう」
年季奉公中は食べさせてもらう他は月に銅貨30枚のお小遣いをもらうだけだった。
貯めてはいたけど、実家で世話になってる間にすっかり無くなってしまった。
他の二人も似たようなもの。
長い沈黙を破ったのはオーリアだった。
「聞いた話なんだけど、街道を見張るだけで月に金貨10枚もらえる
仕事があるって。」
「そんなオイシイ仕事ある訳ないじゃない。どこで聞いたのよ。」
「この前ジェニの公演があったじゃない。あの時来た人が言ってたの
傭兵仕事だって。」
「ほら、危ない仕事じゃない。だいたい傭兵仕事って武器位ないとできないよ」
「それがあるじゃない。」インガの短剣を指さすオーリア
「5人で短剣一本じゃダメでしょ?それに私使い方しらないよ」
「なら私が借りておく。キョーヤが振ってるの見たんだ。
あの真似すればいいんだよ、きっと採用される」
彼女たちの手持ちでは舞台を見る事はできない。
公演の予告で町を練り歩きながら簡単なパフォーマンスをしているのを
見るだけだ。
「そんなので上手く行くのかな?」
「大丈夫よ領主様がお金も無いのに無理してよんだ公演よ、
無駄に一流だってみんな言ってたよ。
そのせいで教会のお金削ったらしいけど。」
「お金ないのバレるからって極力他所の人を入れないようにしてるクセに
ホント見栄っ張りなんだから。」
「領主様の話は別にして、本当にどうする。ここにいても悪くなるだけだよ」
「このままお金無くなったらジェニの銅山に売り飛ばされるよ。
あそこから帰ってきた人いないって。」
「あそこは人間の売買してる怖い所よ行きたくない。」
「私たちに選べる道はもうないわ。本当かどうかわからないけど
オイシイ仕事を取りに行こう。
ダメだったらマンチェスに行けば仕事はあるらしいよ。」
「私はもうなんでもいいよ。」
「ニャーもニャ」「異議なし」
5人は僅かなお金を食料に換えて傭兵を
募集しているという場所まで行く事にした。
*********************
バカだよねー。
マンチェスの町の小さな食堂でここへ来るまでの事を思い出し
ヘレナは溜息をついた。
そんなオイシイ仕事ある訳なく、
山賊と間違われないように逃げ回る事になった。
僅かな所持金や食料はすぐ尽きてしまい、物乞いまでした。
お腹が減ってどうしようもなく入った貴族の館で
親切な使用人の親子に会わなければどうなった事か。
あの親子どうしてるかな?第三夫人だなんて見栄張ってたけど
貴族の子供があんなボロボロのパンツはいてるはずがない。
マンチェスに来て最初に来た場所がこの食堂のある傭兵ギルドだった。
5人で1本の短剣で登録しようとしたら呆れられたが
いろいろ教えてくれた。
住む所が決まってないと仕事が貰えない、ギルドの登録料も要る。
どこも同じ、何をやるにもお金が必要だった。
みんなで相談して短剣を質に入れ、部屋を借りギルドに登録した。
お針子、掃除、倉庫の見張りとネズミ退治、建築工事に泥炭掘り
何でもやった。
頑張って月に銀貨10枚位稼いで服を買ったり、
良い物食べたりしてたのに。
先月人間3人が病気をした。
熱が下がらず医者にかかり、回復魔法を何度も受ける事になった。
貯金、無くなってしまった。
3人寝てるしインガは看病、スターニャの微々たる稼ぎでは出費に
追いつくわけがない。
やっと健康を取り戻した時には金欠でどうしようもなくなっていた。
このままじゃ破滅だ、そう思った時オーリアが話を持ってきたんだ
「銀貨70枚の話があるから仕事が終わったらギルドに集合!」
何か同じような話をしている気がする。




