76.男の娘延長、キター
この世界に来てから感じる事だが生活環境が暗い。
ガラスも灯油も高価、魔石の照明なんて貴族か金持ちだけだから
仕方ないのかもしれないけど、俺は好きじゃない。
陰翳礼讃なんてしてやらない。
貧しい食卓をごまかすのにはよいのかもしれないけど。
俺たちが案内された2階の部屋は拍子抜けするほど小さく、質素に感じた。
20畳くらいはありそうだから日本の基準からしたら広いのかもしれないけど
バルツ男爵邸のリビングより狭い。
この世界では贅沢だろう。透明ガラスを惜しみなく使った大きな窓があり、
市街地と港が一望のもとだ。
「良いだろう?壁に絵を飾れなどという無粋者がいるが、
この景色以上があるものか。」
部屋で待っていた伯爵が俺の視線を見て笑った。
クロムの町で見た皮肉そうな笑い方と違い子供がおもちゃを自慢するような
無邪気な笑い方だった。
「悪いがメインのダイニングは昼から来るセレローの為に準備中だ。
朝食はここで食べてくれ。飾り気のない部屋で申し訳ない。」
伯爵に椅子を勧められた時には既に朝食を持った人が入って来た。
相変わらずせっかちな人だ。
拒否権なしかよ、と思ったけど、生理反応には勝てない、腹減った。
柔らかそうなパン、お肉と野菜いっぱいのシチュー、ミルク、
卵料理、ハムやベーコン。
サラダの代わりが酢漬けの野菜なのを除けば令和日本でも違和感なし、
豪華朝食だろう。
この世界では高いバターや砂糖がたっぷりあるし、もう忘れそうだった
紅茶の香りがする。
こんなもの見せられたら無理やり巻き込まれた事も文句言えない。
「厨房が忙しくてな。簡単な物しか出せないが食べてくれ。」
あまり豪華でもない料理を勿体つけてコースにして食べるのが貴族飯、
と思っていたが、伯爵は違うらしい。
いや素晴らしい、どんどん料理がくる。
「ここまで優遇するのか。何が望みだ?」
朝っぱらお茶ではなくワインを飲みながらバッチャが質問した。
「望みたいことは沢山あるが、今は居てくれるだけで良い。
爆焔の大魔法使いバッチャ。」
「人間やドワーフが勝手にいろんな呼び方をしている事は知っているが
あれは私がやった事ではないぞ。」
「真実かどうかは別に関係ない。勝手に恐れている。
そのバッチャがここにいる事が大事なんだ。」
爆焔の大魔法使いの称号ってヤバくない、イロイロな意味で。
気になった俺はジャムを顔中に付け、砂糖を沢山入れた紅茶を飲んでいる
ネッチャに小声で質問した。
「バッチャって爆焔の大魔法使いともよばれてるの?」
「そうよ、私の生まれた頃、80年前の戦いくさで
ドワーフ達が森の下に穴を掘って木を枯らそうとしたら
バッチャが大魔法を使って穴が崩れたり、
炎が噴き出して何日も消えなかったりしたんだって。」
「あの辺の土地を掘ったの?」
うん、出るかもしれない天然ガス。
天然ガスって無味無臭だよな。
火を使ったランプを照明に使ったんだろうな。ご安全に。
「バッチャは特に何もしなかったと言ってるよ。
森の木を切ろうと寄って来るドワーフを射るので忙しかったって。
目玉を500以上射貫いて、鎧なんか意味ないって言わしたのよ。」
直接見ていないネッチャは明るく言うけど、
実際戦った連中は阿鼻叫喚だったろうな。
どうでも良いけどネッチャ、紅茶に砂糖とミルク入れすぎ。
「既に話した通り、ここには人探しに来ただけだ。」
「それでいい。ここ数日が勝負だ。この町にいてくれ。
人探しの方はギルドに行くといい。協力させよう。」
バッチャと伯爵の話もすすんでいる。
どうでも良いけどバッチャ、朝からワイン2杯目だぞ。
「それからエアヴァルト、お前女になれ。」
盛大に紅茶吹きました。
唐突に何?伯爵もそっちの人?ホ〇の〇リコン?
R15だよ、お手柔らかに、それどころじゃない逃げないと。
「言い方が悪かったな。お前に関する書類を法務官に見せたんだが
今現在、あの書類は無効にできるそうだ。」
男爵が書いたあの書類の事だな。話をはしょりすぎですよ。
せっかちなんだから。
「今現在だ。お前が10歳になって別の書類を書かれたら有効になってしまう。」
「どういう事ですか?」
「10歳未満の子供を母親、または父親から引き離して年季奉公に出す事は
禁止されている。それを回避するため、この書類では母親ごと
年季奉公に出す事にしている。お前は10歳未満だからな。」
「はい、そう書いてありました。」
「お前の母親はマンチェス家と契約してバルツ男爵家に嫁入りしていて
それはバルツ男爵も承知しているはずだ。男爵の勝手にはできない。
つまりこの書類は無効だ。だがな、お前が10歳になった後
単独で年季奉公に出す書類を書かれたら有効になってしまう。」
ええと、それって。
「国法上、お前はジェニ子爵の所で年季奉公しなければならなくなる。」
いや、無茶苦茶じゃないですか、親なら子供売り払って良いんですか。
何なんだよこの国の法律。
「そんな顔をするな。ジェニの所に問題があるのは知っている
対策を考えたから聞け。」
「どうするんですか?」
「エアヴァルト・バルツがいなければいい。よく似ているエアという
少女がいるだけだ。マンチェスの子供だから引き渡せない。」
ええと、少し強引過ぎませんか?匿ってくれるのは嬉しいけど。
「しばらく女性の中に紛れていろ。
心配ない、あと1,2年だ。その間に決着をつけてやる。」
ええと、どうすりゃいいんだろう。
でも女装しないと駄目なの?男が少ないから目立つ?
10歳になったら男の格好するからすぐ見つかる。
うーん。仕方ないか。
「年季奉公といっても普通は子供の為に良い扱いをしてくれる所を
探すものなのにな。いくら庶子だからとこれは酷い。
法務官に言っておいた。後で呼ぶから相談に乗ってもらえ。」
伯爵様は俺の為に怒ってくれている。
あのハゲの事思い出すと折角の美味しい朝食がまずくなるから
忘れる事にしよう。




