75.窓を見れば港が見える、キター
波止場のお出迎えの大半は一般の人だった。
途中の船の中でも感じたけど伯爵って人気あるみたい。
少なくとも集まった人々からは好意しか感じない。
それと無茶苦茶効率的。
貴族的な儀礼最小限、出迎えの人に答礼して観衆に手を振って馬車に乗り込んだ。
オープンの馬車で、俺とバッチャ達も乗るように言われた。
狭い、とっても狭い。4人無理じゃない?スポーツカーに無理やり4人乗る位狭い。
「少しだけ我慢しろ、屋敷まですぐだ。」
伯爵が俺の方へ柔らかいクッションを差し出しながら言うと、外に合図した。
この人せっかちなんだな。
ノーサスの馬車で石畳の道を進む。結構厳しい。ロバ車より速い分厳しい。
護衛騎士が馬車の後ろに立って乗ってるけど膝で衝撃吸収できる分
立ち乗りの方がマシかもしれない。
広い道だ。大型トラックがすれ違えると思う。騎馬が先導してどんどん進む。
所々に水路が走っていて、どの水路にも船がいる。
進むにつれて町の様子が変わってきた。高台になり家の区画が大きくなる。
やがて広大な屋敷が並ぶようになった。
そのうちの一軒、門番のいる屋敷の中で馬車が止まった。
広さだけならバルツ村の男爵館と大差ないかもしれない。
向こうの馬場とか畑の代わりにこっちは花畑と噴水があるけど。
あれ、噴水?結構な坂を上ってきたのに?
考えている間もなく伯爵が馬車を降りた。いやせっかち過ぎでしょ、と思うが
屋敷でお出迎えの人が少しも慌ててないので、これが普通のようだ。
伯爵の指示で俺とエルフ二人は屋敷内の立派な部屋に通されると流れるように
お茶が出てきた。
「朝食の用意をしておりますのでこの部屋でしばらくお待ち下さい。」
…凄い、貴族だ。貴族の子供に転生したはずだけど今までこんなの見た事ない。
屋敷も豪華、窓ガラスは男爵邸の透明度の低いのと違って外が見える。
陽の光からして東側だけど広大な町が広がりその向こうも
広大な平原で大きな川が光っている。
南側を探すと、あった小さい山があって頂上に灯台があり、海がある。
マリアさんに聞いたマンチェスの町の景色だ、ついに来たぞ。
街の西には大きな山があって、そこからの地下水が湧きだすからマンチェスの町には
あちこちに水道があるんだ。
マリアさんがもう一度見たいって何度も言ってた景色だ。
魚市場はどこかな、外国の船はいっぱいいるのかな。
水路を超える高いアーチ橋でかくれんぼしたいな。
「大丈夫か?何か悲しい事があったのか」
バッチャが声をかけてきた。
泣いている?俺か?
心配そうな顔をして寄ってきたネッチャに頬を撫でられた。
「私たちがいるから安心して。絶対守ってあげるから」
違う、そうじゃない。何か怖いわけじゃない。
「そうだったな。あの子、マリアの故郷だと言っていたな。
エアはママからどう聞いていたんだ。早く治して連れて来てやれ」
バッチャ、そんな事言われたら涙止まれないよ。
うん、絶対治す。マンチェスの事話すだけでキラキラ笑顔だったんだ。
一緒に見て回ったらどれだけ喜んでくれるか。
違う、よろこばせるんだ! やるんだ!
「ありがとう、泣いちゃってごめんね。」
大事なハンカチで顔を拭く、医療用リネンの残りの布に
男爵一家の縫物をした後のクズ糸の刺繍。みすぼらしいと言われた事あるけど
亜空間倉庫のどんな物より大切で価値のある宝物、握っていると元気が出てくる。
エルフ二人に抱きしめられるという人によっては羨ましがる状態の時
伯爵から朝食をご一緒したいとお誘いの人が来た。
…抱きしめられている所見られたかな。
朝食のお誘い、もちろん拒否権はないんだろうな。
何か要求されるのかな? 気が重い。
良い物出そうではあるけど。
そういえば高級そうなお茶飲みそびれた。




