71.船旅キター
その夜は爆睡した。本当に久しぶりのベッドだし、藁100%のマットの上に
布団――中身はぼろきれで木綿の布団みたいに柔らかくはないけど――が敷いてあった。
毛布もしっかりしていて、日本を少しだけ思い出してしまった。
朝食も焼き立てパン、ベーコンエッグに玉ねぎのスープ。
俺としてはコショウをもう少し効かせて欲しい。
代わりにパセリっぽい香草で香り付けしてあるから普通に美味しい。
シンプルだけどこれで良いよね。
よし、元気回復したぞ。トイレが別棟のポットンで後始末が干し草だった
ことは早く忘れよう。
昨日のドワーフ、エンリケさんが一人でいたので挨拶したら、この人も
今日マンチェスに向かうらしい。
ミスリルっぽい物を入手したせいか上機嫌なので、ドワーフって
物を作るの得意なんでしょ?って聞いたらさらに上機嫌になった。
「その通りだ。人間にもエルフにも作れない高くて大きい炉を作って
沢山鉄を作っている。大きな鋳物もドワーフしか作れん。
ここのホテルに頼まれて納めた大きな釜もドワーフだから作れるんだ。」
絶好調になって朝から酒を頼んだので慌てて離れる。
世の中、いろいろつながっていた。
チェックアウトの際、不思議そうな顔をされたのは荷物の量と
昨日取り出したバスタオルやシャンプーの量が合わないせいではない、
そう思おう。古い服も亜空間倉庫に入れてある。
バッチャ、ネッチャは相変わらずフード付きの人間っぽい衣装。
待ち合わせ時間には少し早いが船着き場に行くことにした。
早朝なんだけど、昨日以上に人が多い。
ドワーフの他、獣人までいる。けどエルフは後ろの二人だけかな。
テント式の店が開いているだけでなく、農作物満載の船が即席の店になっている。
伯爵がまだ来ていないので、市場を見てみることにした。
紙や陶器なんかがバルツ村より安いけど、農作物は変わらないな。
銅貨数枚あったら結構食べられそう。
そうしている間にもベッドの形をした看板のある建物から
人がぞろぞろ出てきて露店で食べ物を買い始めた。
建物内をチラッと見たら、暗い室内に2〜3段のベッドが並んでいた。
ホテルと書いてないけど、個室じゃないんだな。
値段はわからないけどホテルに泊まって良かった。
あんまり会いたくない洋品店の人も見つけてしまった。
店の前に立って熱心に客引きしている。
別の店はあるのかな?と思い露店で服を探してみたけど、
いくらなんでも着古し過ぎの服ばかり。
その上、補修もされてない服が多い。自分で直せって事かな?
布屋さんはあるけど。
それと正札がない。いちいち交渉してるけど、あれやる自信ない。
ホテルの人があの店を教えてくれた理由がわかった。
伯爵はまだ来ないし、乗る船はどれだろうと探してみたけど
それらしい船は見当たらない。
そうしている間にも船がどんどん来て人や物を乗せて出て行く。
船には甲板がなく棹と櫓があって、日本の伝馬船そっくりだ。
帆柱一本、伝馬船って帆あったっけ?
時代劇で見た船に似てるような気がする。知らんけど。
いい加減飽きて、押し売りのような弁当屋のBBAに
無理やり弁当を買わされた時、馬車が来た。
小さい町なのに馬車要るか?貴族のやる事はわからん。
それと前後して舟屋風の建物から船が出てきた。
他の船より一回り大きくてきれいだ。
20m近いだろう。もっとも幅は3mないし、
甲板はないから俺の感想は「時代劇で見るような」になる。
伯爵と男爵にご挨拶している間に荷物も積み込まれ、出発することになった。
船員4名、伯爵様ご一行8名、相乗りさせていただく俺とエルフで3名。
もっと小さい船に30人近く乗ってたりするので余裕だ。
というか他の船、乗せすぎじゃね?
人も貨物もあふれるように積んでるけど、大丈夫なのか心配になる。
クロム男爵のお見送りに応えるため、出発後しばらくはお辞儀しっぱなしで
疲れたけど、少し離れたら楽にして良いと声がかかった。
気になっていた後ろの囲いはトイレとのこと。
そりゃ貴族が開放でできないだろう。
ついてない船があったんだけど、あれに乗ってる人はどうするんだろう?
トイレ形式は川魚は食べたくない垂れ流し。
実際、内臓は決して食べないらしい。
いやー船楽だ。穏やかな下りを滑るように進む。
バッチャと伯爵が何やら話している間に、
船員や伯爵様の部下の人がいろいろ教えてくれる。
川の魔物は賑やかな所には出ないこと。
マンチェスまで特に難所はなく、天候が良ければ揺れないこと。
今回急ぐので一昼夜で行くけど、途中の町で小休止はするんだって。
川船って夜も進むんだ。何となく高速バスを思い出す。
しばらく行くと上りの船とすれ違いだした。
川幅も少し広がってきたかな?実際クロムは定期船の終着らしい。
昼頃に食事が出た。伯爵様のおごりらしい。
買った弁当より全然豪華。無駄な買い物したと思ったけど、
船員さん達大ぐらいだから食べるって。
伯爵様がずっと打ち合わせしているせいで思ったよりずっと楽な旅だ。
おやつの時間かな、と思った頃、小さな川との合流地点を通った。
これがシャーフラント北部を流れている川らしい。
「さかのぼると今もめてるノールド男爵領、その先がバルツ男爵領だ。」
伯爵の護衛騎士だという人が教えてくれた。
川沿いの道を馬車が通っているのが見える。
川上の方には何も見えないけど、ノールド男爵の所にいるはずの
レオニー姉さん無事かな。




