67.名人戦?キター
田舎町のビジネスホテルっぽいロビーというか食堂というか、
にテーブルが並んでいる。
燕麦と小麦の混じったパン、野菜と塩漬け肉のスープ、メインは川魚のフライ、デザートには「フロロ食べ放題!」と書いてある。
フロントの人に言うと料理が運ばれて来た。
バルツ村の食事よりはグッと豪華だ。
スープには臭み消しの香草が入っていて思ったよりずっと美味しい。
この世界の揚げ物初めて食べたけど白身魚に酢をかけたので
シンプルだけど美味しかった。
付け合わせにポテトフライが食べたくなったのは内緒だ。
でも揚げ物珍しいな、この世界の油ってほとんど灯油になると思ってた。
このホテルにも沢山ランプがあって油燃やしてるし。
油っていい値段がすると村の人が言ってたと思う。
食事と一緒にエルフ二人はお酒を頼んで飲みだした。
いつもはお金、というか銀貨が無くてお酒を控えていたらしい。
この世界、人糞肥料を使っているせいか水を飲む習慣がない。
お湯を沸かしてお茶や白湯にするかお酒を飲むかだ。
昼間のドワーフは酔い過ぎだったけど飲酒は普通の世界。
ホテルの人は誤魔化す様子もなくキャッシュ&デリバリー。銅貨でお釣りを返してくれているので、銀貨半分預かって残りを机に詰み飲ませとけば良いだろう。
俺?お子ちゃまだもん。中身の成人男性も普段飲まなかったし。
ロビーには人が多い、混みあって部屋が無いって本当だったんだ。
部屋が残ってて良かった。
ところですぐそばの席なんだけど、ロビーの雰囲気を壊す位明るい。
魔石ランプなんだけどこのホテルの物では無いみたいだ。
何やってるんだろうと見てみると、魔石のランプのおかげでよく見える。
身なりの良いドワーフと人間がテーブルの上、
木の盤の上に置いた駒をじっと見つめている。
あれって、・・・じゃね?
『正解、日本式の将棋ですね。』
『この世界に何故日本の将棋があるんだよ。』
『この町にしばらく留まっていた旅人が伝えました。
旅人は部屋にカミナリが落ちてどこかへ行ってしまったが、
将棋は残ったみたいです。』
『あの人いろいろやってるな。ルールはそのままなの?』
『駒に書かれた字は変わってますがそのままのようです。
愛好者は結構多くて上流階級でも盛んらしいです。』
久しぶりにテンプレが役にたったかもしれない。
そこのテーブルの声が聞こえる。飲酒で気も声も大きくなっているのだろう。
「黒い森でメガボアがとれた情報、有難うございます。
油の値段は下げて買いたたきましょう。」
「当然だ。エルフなんかと取引する奴が悪い。」
あれ?何か気になる事を言ってるぞ。
「しかし、折角金も手間もかけたのにフルオロ・マンチェスめ、
あっという間にシャーフ
ラントの貴族どもをまとめましたね。」
「あのラバ男、いつも邪魔をしおって。いい加減くたばれば良いのに。」
「しー。今はこの町、クロム男爵の館にいるんですよ。悪口は控えた方が」
「何言ってるんだ、いくら耳がバカデカいとは言え間抜けなラバ公だぞ。
男爵の屋敷まで聞こえるはずがないだろう。それ、王手だ。」
「グっ、やはりそう来たか。ではこれで防いで、っと。
しかし、良い魔石を手に入れられましたな。」
「そうだ、こんな片田舎でも光る魔石を見つける、やはり私には運も商才もある。」
「良い魔石は貴族が買い占めてしまいますからな。」
「しかも最初金貨5枚と吹っ掛けて来たのを金貨3枚に値切ってやった。女主人の悔しそうな顔、お前にも見せてやりたかったぞ。」
うーん、話が見えたような気がする。あのBBA、じゃなかった店主、
役者だな。ぼろ儲けしてるじゃないか。
「全くあやかりたいもんです。はい飛車とり。」
「ひっかかったな。これで詰みだ。」
「あっ、待った、それ見落としてた。」
「待ったなし、明朗会計だといっただろう。早く払え」
何を払うのかみていたら人間の男が机の上の金貨何枚かを置いてドワーフに
払っている。
すげえ、金貨って初めて見た。
おれはじっと見過ぎていたらしい。
「おい、エルフとつるんでる汚いガキ、他人の金をじろじろ見るんじゃない。泥棒でもする気か?」
ちょっと待てお風呂入りたて、P&〇のシャンプーとボディソープで
洗いたての俺に”汚い”なんて城門で俺たちに舌打ちした汚い口で言うか?
目ん玉の中に俺が思い切り魔力入れた魔石ぶち込んで明るくしてやろうか?
バッチャとネッチャは相手にするな、みたいに目配せしてくるけど腹が立つ、
仕返ししてやる。
『テンプレ、お前将棋に自信あるか?』
『将棋でやり込めるつもりですか?自分で出来ませんか?』
『恥ずかしながら将棋で得意なのは周り将棋と将棋崩しだ。
素人の強い奴にも将棋ゲームにも全然歯が立たない。』
『それで他力本願ですか情けない。』
『その通りです、だからお助け下さいテンプレ様』
『仕方ないですね。AI将棋の本気を見せてあげましょう。』
テンプレに一応確認をとったけど、
将棋の話が出た時から嬉しそうだったんだよコイツ。
よし問題は解決した。
「お金なんて見てないよ。将棋、弱いなーって見てたんだ。」
ピッキーンという音がドワーフの方から聞こえたような気がした。
「おいガキだからって何言っても許されると思うなよ。俺様はイル・ドワーフ国の中じゃ名人と言われてるんだ。この高度な指し手がお前に分る訳ないだろ。」
よし、挑発に乗ってきた。もっと煽ってやる。
「そんな事言っても、僕だったら楽々勝てるもん。」
「何だお前、ボクッ娘だからって可愛くないぞ。
お前みたいな子供に負ける訳ないだろう。」
「じゃあ勝負しようよ。」
「お前本当に将棋できるのか?…待て俺は貧乏勝負はしない。」
「貧乏勝負?」
「将棋は真剣勝負だ、遊びじゃない、ちゃんと金をかけてやるんだ。」
それって賭博罪、はこの世界にはないのかな?堂々としてるし。
「金貨5、7いや10枚賭ける、お前それだけ持っているか?貧乏なエルフの連れ」
微妙に罵倒句が入るなこのドワーフ何でこんな事言ってくるんだ。
『アンタがあまりに自信満々だから少々不安になったみたいですよ。』
テンプレ助言ありがとう。
俺が少し黙ったのを良いことに、馬鹿ドワーフは
「この机に金貨10枚積んだら勝負してやる」とドヤっている。
あー腹立つ。煽って掛け金なしの勝負させるのは簡単そうだけど
もっとひどい目に合わせてやりたい。
あっ、ひらめいたぞ、モイモイの料理番のエルフが言っていたあれ、
やってみよう。ダメ元だ。
おれはバスタオルに包んでいたアルミ缶を取り出した。
風呂場で皆で飲んだジュースの空き缶、
風呂場からロビー直行だからまだ持っていたんだ。
「金貨は持ってないけど、これは価値があると思うんだ。」
「何だその汚いブリキのおもちゃは。そんな物に価値があるもんか」
「えーっと。偉そうな人がドワーフさんなら価値が判るっていってたんだけど。
ミ、ミスなんとか。ちょっと見てくれる?」
「はっん?何だって。光沢は確かに珍しいが、って軽い、ええー。」
ドワーフは3本の空き缶を食い入るように見始めた。
「この軽さ、薄さ、熱の伝わり方、まさか本当のミスリ・・・。
いや、あれは伝説でそんな物は無いと学者が、いや、
だったらこれは何だ?」
いいぞ、混乱してる混乱してる。
「それにこの加工技術は何だ。この薄さを一体で作っている、
しかも表面に多色で模様を染めていて擦ってもとれない。」
ドワーフさん。ぼちぼち現実に帰ってきて。
「これは、いくらになるか解らんが、金貨10枚分と認めてやる。勝負しろ。」
穴のあくほど空き缶を見たドワーフが俺に声をかけて来たのは数分後だった。
よし、これで勝てば金貨10枚儲け、
テンプレが嘘ついてて負けてもゴミ処理を相手に押し付けられる。
どっちにしても損はない。
『悪い事考えますね。ついでに私が負ける訳ないでしょ。』
テンプレの念話を受けながら俺はドワーフの対面の椅子に座った。




