63.シャーフラント南部、キター
森を抜けるのに2日かかった。
結論、一人で抜けるのムリ。突撃銃持ってても無理。
道がわからないとかじゃなくて魔物やら野獣やら多すぎ。
弾がいくらあっても足らないんじゃないだろうか?
バッチャを見ると魔物は逃げ散るので一発も撃たずに済んだけど。
バッチャ達は楽だと言ってくれた。
俺というより亜空間倉庫有能すぎ。
普通は森の中で食える物や水分を得ながら行くんだけど
今回はそれもなく、食料や水を持たない移動が楽だと二人とも
喜んでいる。
で、森を抜けた後、いつものエルフの衣装から人間の衣装に
着替えるそうだ。
どうでも良いけど俺一応男の子だよ。
しかも中身成人男性だよ?
全裸になって着替えるのはやめて欲しい。
このお話はR15だと言ってるでしょう、まったく。
「なに訳の分からない事言って真っ赤になってるんだ?」
「そっちこそ人前でなんて事するんだよ。恥ずかしくないの?」
「人前?小さな子供しかおらんが。何ならもっと近くで見るか?」
「だから!デリカシー!」
中身の事はともかく、エア君だって間もなく10歳、
いろいろ分って来る年ごろなの!そういうの良くないでしょ。
「仕方ないんだ。北部と違って南部にはドワーフが多くいる。
エルフを差別したり、酷いと攻撃してくるんだ。」
プリプリしている俺にバッチャがフードを被りながら教えてくれた。
「人間の旅人に見える方が安全だ。遠目ならバレない。」
すらりとした長身の美人、傍で見られたら秒でバレそうだけど。
大丈夫なのか。
「とりあえずクロムの町まで行き、今日はそこに泊まる。
町の中ならドワーフも攻撃まではしてこない。」
所々に羊がいる草原をバッチャが走り出した。
この走り方問題あると思う。
バッチャ、こんな速さで走り続ける人間、なかなかいないよ?
着替えて人間の服でも走行速度で絶対バレると思う。
それについて行ける俺も人外だとは思うけど。
シャーフラント南部の景色は北部と大差ない。
季節的に茶色い所も多いけど一面の草っぱら。
たまに人家や畑がある場所があってそういう場所は水がある。
俺たちは必要がないから寄らなかったがバルツ領の村と似た感じだ。
少し行くと小さい川に当たり、その横に街道があった。
バッチャも馬鹿ではないらしく、人の多い街道では歩くようだ。
物珍しさでキョロキョロしてしまう俺の手を引く二人は
家族連れか何かに見えるらしく特に注目もされなかった。
よそ者が目立たない、北部より栄えている感じだ、
街道を行く人が多い。たまに馬車に追い越される。
「乗合馬車に乗るか?」
バッチャに聞かれたけど例のノーサス馬車+地道、
お尻が大変な事になりそうな馬車なので首を振った。
そんな馬車なのに結構な人数が乗っていたりする。
だらだらの下り坂を下りながらクロムって遠いのかな?
と思っていると遠くに塔が見えて来た。
「あれがクロムの町の目印、教会の塔だ。」
バッチャが指さす。
バルツ村、巡回牧師の来る教会があるだけで、しかも平屋だぞ。
一番高い建物は男爵館2階建てだぞ。
同じ男爵領で全然違うんだな。
いろいろ見えて来た。
町の向こうに幅30メートル位の河があり
河面に小船が沢山有るのが見える。
バルツ村の小川が村の周りの瀬の所だけは多少広いけど
カエルしかいないのと大違いだ。
だいたい北部じゃ船を見た事ない
ボロ馬車がたまに動いてるだけだ。
と思っている間に城門についた。
そう、バルツ村は柵しかないのに城壁があり、城門があった。
「驚いたか?クロムには住んでる人間だけで何千人も居るらしい。
その他旅の船乗りも沢山いるから結構賑やかだぞ。」
人口の基準がわからないけど常設の店がいくつもあり
ホテルもあるらしい。
城門では一応チエックがあった。
バッチャがマンテェス伯爵の通行書を見せると問題なく通してくれたけど
後ろに並んでた背の低くてガッチリした男にジロジロ見られた。
バッチャもネッチャも華麗にスルーしてたから俺も気にしない事にしたけど
最初に見たのがそれなんでドワーフの印象悪くなった。
さて城門の中は、思ったより狭い。
道が狭い、少し進むと狭い道の両側に店が並んでいる。
看板に武器屋や薬屋と書いてあるが文字の読めない人が
いるらしく、薬瓶や剣の形の看板だ。
商品を見てみたいのだけど残念ながらガラスの
ショーウィンドウはないらしく、店の中に商品を置いているようだ。
「ここは高級店ばかりだからな。子供は入れてくれないよ。」
バッチャが俺の頭を撫でながら言ってきた。
凄い、人の心が読めるのか?
『それだけキョロキョロしてたら誰でも判ります。』
テンプレ、いつも愛の無いツッコミありがとう。
「向こうに露店の並んでる所がある。そっちの方が物が豊富で面白い。」
バッチャもネッチャもすたすたと進んで行く。
町はそれ程広くなく、すぐ川岸の広場についた。
船着き場になっているらしく、大勢の人が
荷車を押したり担いだりして働いている。
言う通り露店が並んでいた。
移動店舗というより半固定であるようだ。
生活の痕跡を感じる。
肉も野菜も、布や雑貨もある。
この風景は見た事がある。
銀貨や銅貨、私鋳銭らしき訳のわからない金属の塊の取引。
時折天秤を持ち出し金属の重さを測ったりしている。
測っているというより比べているのかもしれないけど。
広場に面した場所には露店の他に固定の店もあり、
その中の魔石店の前でバッチャが立ち止まってモジモジしている。
「どうしたの?魔石欲しいの?」
「逆だ。今晩の宿代が必要だろ?食事付きで一人銀貨一枚位だから
オークの黄色い魔石を何個か売りたいんだ。」
「普通に声をかければ良いんじゃない?」
「いや、ほら、人間語変だろ?恥ずかしいじゃないか。」
そういや人間語話してる時は片言でぶっきらぼうだったな。
あれ照れてたのか。伝説の鬼BBAが恥ずかしい?
なんか猛獣が照れてるみたいで可愛い。
ここはやっと俺の出番、商談なら俺の方が向いてるだろう。
言葉も出来るし中身成人男性で客商売のバイトやった事あるし。
俺はバッチャ達に商談を任せるように言って店に入った。
声をかける前に一応品揃えチエックはしないと。
オークの黄色い魔石は、あった銀貨30枚で売っている。
男爵家の奴より断然小さくて直径2cm位しかない。
他は本当に小さい、何の魔石かわからないのが銀貨数枚で売っている。
固定店のくせに品揃え貧弱。
子供が高価な魔石を見てるのが気になるのか店番のおばさん、失礼
ネッチャの半分位の歳だろうけどおばさんに見える人が声をかけてきた。
「これは子供が触るようなもんじゃないよ。小っちゃいけど高いんだよ。」
シッシッまでいかないけど結構な扱いだ。
「違うよ、僕の持ってる魔石を売りたいから見て欲しいんだ。」
「魔石?あんたが?どうして持ってるの?」
俺は一緒に店に入って来たバッチャとネッチャの方を見た。
人間の服を着ているがエルフなのが分かったのかオバ、もとい
店員さんは納得したようだった。
「なるほどね。どれ、見せてごらん。」
バッチャから預かった革巾着を開くと種々の魔石がゴロゴロ入っている。
いや、重みで嫌な感じがしたんだ。物凄いって。
巾着の中を覗き込もうとするおばさんから必死に隠しながら小さめの
オークの魔石を取り出す。
これだって店に並んでる奴より大きい。
店番の人に渡すと一瞬息を飲んだような気がしたが
いじくりまわしてからほうり投げるように言い放った。
「つまんない石だね。ほとんど価値なんてないよ。
でもアンタ可愛いから銀貨一枚で買ってあげる。」
おい、気を使って呼び方考えた労力返せ。
その言い方はないだろう。
しかもつまんない石なら何故握りしめる?
返す気ないだろ、クソBBA。
「じゃあ売らないから返して。この店の小さい石が銀貨30枚でそれが
銀貨一枚のはずないじゃないか。」
「な、なにを言ってるの、というかあんた子供のクセに字が読めるの?
面倒な子だね。」
いや、面倒な、は余分だろ。感情口に出すぎ。
「とにかく返して。他の人に見てもらうから。」
「あ、アンタにはわからないかも知れないけど魔石は
大きさで値段が決まる訳じゃないのよ。
魔力を込めてどの位光るかが大事なの、こんな石、ほとんど光らないわよ。」
「光らない?どうしてわかるの?」
「私にはわかるのよ、商売なんだから。」
うーん腹立つな
「光ったらどうする?」
「光らせるためには魔力を入れる必要があるのよ、そんな事って、
てアンタもしかして、、、、」
「できるよ。光らせてあげるから銀貨30、いや40枚で買ってよ。」
「えぇ~! でもね、利潤ってものがあってね。」
「そこの石の倍くらいあるじゃないか。しかも光らすために
魔力を入れるのってお金かかるんでしょ?それ込みだからお得じゃないか。」
「それは、そう、ってそうじゃないけど、いいわ
本当に光ったら銀貨40枚払う。」
「約束だよ。じゃあ魔石を貸して。」
取り返した魔石に魔力を流す。
いっぱいにしても良いけどムカツクから適当な量で止めておいた。
明るく光る魔石を見て欲ボケBBAが喜んでいる。
「こ、これなら金貨2枚位には、、って何でもないわよ。
あんた凄いわね、はい約束の銀貨35枚」
「シレっとせこい事言わない!40枚でしょ。」
「さすがに覚えてたか。仕方ない、特別に40枚払う、ちゃんと数えてね」
言われなくても数えるわ!セコすぎるだろBBA。何が特別だ。
「なんだ数もちゃんと数えられるんだ。君いくつ?えらいね。」
40枚位小さい子でも数えるわ!というか数えられなかったら
誤魔化す気じゃないだろうな、油断も隙もない。
歳は、って、危ない魔法は10歳からと言ってたな。
「10歳だよ。エルフといるから魔法は得意なんだ。」
「へぇー、凄いね。じゃさ、その得意の魔法でこの店の魔石に
魔力入れてくれない?その位サービスしてよ。」
「全力で拒否させてもらいます。」
この店に居ると頭が痛くなりそうなのでさっさと出る事にした。
店を出る時に「また来てね!」と言われたような気がするけど
もう知らん。
バッチャとネッチャは俺が商売上手だと言ってるけど
エルフが下手過ぎるだけで、俺も損してるような気がする。
ああ気分が悪い。
この調子で町のホテルは大丈夫なのか心配になったが
ホテルの看板に”1泊銀貨1枚、2食付き、明朗会計”と書いてあった。
バッチャ達は何度も泊まった事があり、差別しない良い宿だとか。
良かった、変な疲れを感じるから今日は早く休もう。




