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142.オレイン川キター

「鞍の出っ張りをしっかり掴むニャ。膝で鞍を軽く締めて、後は力を抜くニャ」


獣人の女性、エルザは俺を鞍の前に乗せると手や膝の位置を教えてくれた。


この乗り方はエミュール兄に拉致されて以来だけど、後ろの人が上手いせいか


全然楽な気がする。


「その様子なら大丈夫そうね。子供を連れて行くのは気が進まないけど


 回復魔法士(ヒーラー)が居ると居ないとでは安心感が違うの。


 エルザ、お願いね」


俺たちはマリーお嬢様の横位置だ。


「引き受けた以上頑張りますけど、他に回復魔法士(ヒーラー)居ないんですか?」


「他にも何人かは来てくれたけど、エアーみたいに際限なく使える人はいないわ。


 日に何十回も使えるなんてエルフでも滅多にいないのよ」


知っているエルフには大勢いたけど、あれは例外集団かもしれない。


それと子供を連れて行くのは気が進まないって自分を忘れていますよ。


騎馬状態で片手を離し、笑顔で周囲に手を振りながら声までかけている。


そんなマルチタスクをこなすマリーお嬢様の見事な乗馬姿勢に忘れがちになるけど、


まだ13歳でしょ。




隊列は止まらず、どんどん進む。とうとう最後の門を抜けて町の外に出てしまった。


「フルオロ伯爵や王孫殿下は見送りに来ないんですね」


「フルオロおじ様はいろいろ面倒な処理で館を離れられないかな。


 王孫殿下は面倒の要因の一つね」


門で渡されたメッセージを読みながらマリーお嬢様が答えてくれた。


「私の後始末もお願いするからフルオロおじ様には頭が上がらないわ」


「戦争の後始末って大変そうですよね」


「傭兵ギルドに手付しか払ってないし、お金足りるかしら?


 足りなかったらエアには体で払おうかしら」


「周りの人が落馬しそうになってますからやめて下さい。


 誰からそんな事聞いたか想像つきますけど」


「エアが助けた子達面白いわよね。今度薄い本見せてくれるって」


「アイツらを傍に寄せない方が良いと思いますよ。


 薄い本は論外です。内容を想像するだけで恐ろしい」


「エアまで皆と同じ事いうのね。でも、ダメと言われると読みたくなるな」


…ダチョウ娘とマリーお嬢様。混ぜるな危険の予感しかしない。


知ーらない。とりあえず薄い本から話題変えよう。


「ところで、相手はこっちの倍居るんでしょ?


 大丈夫なんですか?」


「使えない数は邪魔なだけよ、大丈夫心配しないで」


「自信満々ですね」


「何年か前魔物が大量発生した時と同じ方法を使うだけだもの


 前回も今回も見ているだけで終わるわ」


「魔物の大量発生ってどの位の数なんですか」


「ゴブリン中心で7千位。今回の相手より多かったけど


 問題にもならなかったわ」


「でも人と魔物じゃ知能が」


「だから私が出てきたの。


 知能があるからこそ手柄とか名誉に固執するのよ。


 相手にとって絶対欲しい獲物になってあげるの。


 欲に目がくらめば人間も魔物と一緒よ」




数年に一度、大量発生した魔物が森からあふれ出てくる事がある。


領主の務めとして辺境伯爵家が討伐しているが、


マリーお嬢様、その討伐に参加した事がある。


川と沼に挟まれた狭い場所に追い詰める様子を克明に記録して


自分なりの作戦も考えてた。


安全な所で見ていただけの少女に天賦の武略が備わっている事、


ましてや、彼女が武運といわれる物を嗅ぎだす嗅覚に優れている事など


その時に考えた物はいなかったが、ここまで見事に才能を開花させていた。


準備されたリザードマンの陽動作戦も城門を内側から開ける計画も


時期を揃えなければ各個撃破されるだけ。


その上、天までマリーに味方していた。


予定戦場のオレイン川に着いた時、雨が降り出したのである。

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