143.外伝 オレイン川の戦い①
中央軍先鋒隊の指揮官、ラデッツ伯爵はアルカン橋を渡りながら
何とも表現しがたい、嫌な気持ちを抑えていた。
理由は、なくもない。
上層部がジェニ子爵の奇策を採用したせいで、自分達だけ先行させられている。
あんな怪しい奴の、綱渡りのような作戦なんて信じられるか。
兵力、補給、城壁、不安要素ばかりではないか。
そんなのに自分の出世や名誉がかかっているから、こんなに嫌な気分なんだ。
ラデッツ伯爵は合理的理由を考え、自分を納得させた。
虫の知らせと言うべきものではないと。
その先は昨晩アルカンの市長に聞いた話と合致した。
この辺りはヌー河の河川交通が盛んで陸路を行く者は少ない。
アルカン市長が東岸を下って渡し舟を使った方が良いと勧めた程の悪路。
ここ何年も整備する金が出ていないらしい。
「東岸はいくらかマシらしいが…」
「渡し舟で一艘ずつ渡るのはリスクが大きすぎますね」
「50人乗りを100艘、天幕や補給物資を運ぶ10艘、
普段ならあるかもしれんが」
「王都とマンチェスで船の押さえ合いをしている状況では無理な話だ」
あまりの悪路に休憩が多くなり、比例して無駄口も多くなったが、心配していた待ち伏せや妨害もないため、中央軍の士気は旺盛だった。先行した斥候が「峠の上からオレイン川が見え、相手方の軍、斥候らしき者は居ない」と報告したせいだった。
「予想通り町を守る気だな」
「門が開かない限り、この人数で攻略は難しいぞ」
「その場合はヌー河からマンチェスまでの運河を確保する。その内容でも成功という書類をもらってある」
「さすがはラデッツ伯爵。口頭はあてになりませんからね。ジェニ子爵の開門話位あてになりません」
「上層部の悪口は思っていても口にするなよ。本隊はヌー河の川船で来る予定だから上陸地点を確保するのは当然だ。補給の面でも絶対に必要だ」
「予定通りマンチェスが陥落してくれたら楽なんですが、やはり難しいとお考えですか?」
「その場合は略奪品で腹一杯になるだろうが、本隊に取り分を残しておいてやろう。あまり先走ると思わぬ損害を受ける可能性があるし、本隊の連中に妬まれてしまう」
「味方の妬みが一番問題になりそうですね」
「相手は田舎の雑軍と傭兵、城壁さえなければ問題になる訳がなかろう」
自信満々の彼らだったが悪路ばかりはどうにもならず、
進行は遅れ気味になっていく。
悪い事は重なり、雨まで降り出した。
視界が悪くなり、さっきまで見えていたオレイン川が見えなくなった。
重装騎兵の鎧や武器も雨に濡れ、華麗な衣装が重くなっていく。
「斥候が帰って来ないだと? 捜索隊を出せ。周囲をもう一度よく確認しろ」
雨の中オレイン川に到着した時、
ラデッツ伯爵の悪い予感はいっそう強くなっていた。




