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135.外伝 アルカン橋を渡る

ヌー河で最も下流にかかるアルカン橋。


橋の東岸に広がる町に中央軍は到達していた。


事前打ち合わせ通り、この町にはジェニ子爵の連絡係がきていて


マンチェスの情勢が伝わってきた。


やはり籠城、町を守って援軍を待つ用意をしている。




指揮官のラデッツ伯爵はここで軍議を開く事にした。


「予定通りここで一泊する。


明日朝橋を渡り小さな峠を越えれば昼にはシャーフラントに着く。


夜になる前にオレイン川沿いの町や村をいくつか抑え野営。


翌日の夜にマンチェスに到着、城壁の中に火の手が上がり


門が開けられるので突入する手筈になっている」


「シャーフラント側が待ち伏せしている可能性は?」


「今の所ない。峠付近はともかくオレイン川周辺は平坦な牧草地だ


 待ち伏せに向いていない」


「私なら、この橋で迎え撃ちますな。兵数をカバーできる」


「シャーフラントの人糞喰いどもにそんな知能や胆力があるものか。


 城壁の陰で震えている事だろう」


ここまでの行軍が順調なせいで、中央軍の中には楽観論が広がっていた。




「気を引き締めるように、精鋭とはいえ、我々の数は少なすぎる。


 それとシャーフラント人を貶める表現は…」


ラデッツ伯爵が隣のエミュール・バルツを見ながら言葉を続ける


「その他にマンチェスに関して情報はないか?何でもいいぞ」


ジェニ子爵の連絡係りだという男は少し考えてから答えた。


「奴ら城壁の高さに安心しきってます。


 私が町を出る時には辺境伯爵家が金の大鍋を町の者に見せるという


 噂が流れてきてお祭り騒ぎしてました」


「金の大鍋?王族でもないのに贅沢な。我々で没収しよう」


「全くだ、驕りきった奴らに鉄槌を加えてやりましょう」




王国一の精鋭中の精鋭。


彼らはそう呼ばれていたし、自負もあった。


平和が続いた世の中で真面目に軍事訓練する彼らは


変わり者扱いされる事さえあった。


今回の作戦で訓練の成果を見せ、周囲の人間を見返してやる。


大きな町を制圧するには人数が少なすぎるという自覚はあったが


戦闘に関して、自分達が負ける訳はないという自信が


彼らを多弁にしていた。




軍議に参加しない中央軍の兵士達は町で物資の調達をしていた。


「馬や馬車は本当にこれしかないのか?」


「王都からの命令で大半が押さえられてしまっておりまして」


「これでは必要量を運べないぞ」


「仕方ない。従来通り馬糧は現地調達にする。


 資料によればオレイン川沿いは牛の多い酪農地帯


 問題なかろう」


「了解しました。他になにかありますか」


「天幕の確認をしておけよ。これまでは泊まれる町があったが


 明日は野営だ。空模様も怪しいし、手を抜くと泣きを見るぞ」


「そういう事ですよね。明日は酒場の無い場所、明後日は戦闘。


 そうなるんですよね」


「何が言いたい」


「ほら、河船が減って困ってる人たちがいるじゃないですか。


 我々が慰めてあげないと」


「素直に飲みに行きたいと言え。明日の用意が終了したら、だ。


 飲み過ぎるなよ。別に最後の夜になる訳じゃない。


 マンチェスを陥落させたらいくらでも飲めるんだから」




軍隊組織の常として要領の良い奴もいる。


仕事を適当に終わらせ橋の見える一軒の店に入り込んでいた。


「へえ、そんなに大勢いなくなったんだ」


「そうなんだよ。こんな時を狙って悪い事する奴がいるんだよ」


「犯人のめぼしがつかないのかい?俺達が捕まえてやるよ」


「ジェニの船が怪しいって噂もあったんだけど、子爵本人が乗ってたんだよね。


 女嫌いの子爵が女の子と一緒に船に乗る訳ないって事になった」


「貴族様に難癖つけたと言われるのも嫌だしな。


 今の所気を付ける他ないという事か」


「そういう訳だから、この店で相手するのは私だけだよ」


「仕方ない、って言ったら?」


「ぶっとばすに決まってるだろ」




まだ明るい町で、酒を飲み始める者、ジェニ子爵に向けての早馬、


このところ静かだったアルカン橋周辺は久しぶりに賑わっていた。


もちろんこの町にも鳩の世話をしている人間がいて、


中央軍の物資の購入量を調べていた。

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