133.作戦室キター
「いったい何を考えている」
「あらいやだ。場所を考えて。大声はマナーに反するわ」
館の車寄せに馬車が止まる前に飛び出してきたフルオロ伯爵が
マリーお嬢様に詰め寄ったが、本人は涼しい顔だ。
「申し訳ございませんけど、手を貸して下さる?
この衣装で馬車から飛び降りる訳にはいきませんの」
馬車のドアが開けられ下に踏み台が置かれるとマリーお嬢様は
当然のことの様にフルオロ伯爵の方へ腕を伸ばした。
「…お前という奴は」口の中に言葉を飲み込んだ伯爵が
その手を取り、馬車から降りるのを補助する。
おー、貴族だ。と思って見ていたら俺の方に八つ当たりが来た。
「お前は自力で降りろ。外に出て良いと誰が言った?
事情を聞きたいからお前も一緒に来い」
いや、どう見てもマリーお嬢様に連れ出されただけだろ。
それに自力で降りろ?今日のお嬢様スタイルのフリフリ衣装だぞ
馬車の高さと俺の体格を見て勝手に降りろなんて言うか?
エルフの家から出るより全然楽だから余裕で降りれるけど紳士としてどうなの。
「そいつはモイモイの戦士が同行を認めた奴だ。手助けなんかいらん」
俺の下車を助けようとした人にそう言うと伯爵は館の中に入って行く。
『伯爵、過去一機嫌悪くないか?』
『そのようですね。声の高さがいつもと違います』
テンプレがAIらしい視点で異常を教えてくれたが。
違う、そうじゃなくて。
『今日の事は俺悪くなくね?完全に流れ弾の連帯責任じゃん。』
『お金とられた被害者かもしれませんね。』
『だからこの場を逃れてバックレる方法を考えてくれ』
『その手のコスイ事はアンタの方が上でしょ。いつも感心してるんですから』
『そこ褒められても嬉しくない。AIなんだからコスイ事も学習して何か考えろ』
『私の尊厳を守るためやりたくないです。それに素直に謝った方が
結果が良いと思いますよ』
『AIの尊厳はよくわからんが、結果そうだよな。
仕方ない怒られとこう。居候は悲しいな』
テンプレと念話している間にドアの前に見張りの居る部屋の前まで来た。
客間や食堂から離れていて、他と動線が重ならない部屋で
ここに来たのは初めてだ。
部屋に入れる入れないでお嬢様のお付きが揉めている。
”命に代えても”とか物騒な事を言っている。
マリーお嬢様と伯爵が交渉してメイドさん一人が一緒に入る
事になった。
入口の扉の印象よりは広い部屋だった。
大学の教室を思い出したのは大きな黒板のせいか
作り付けの机のせいか。
扉が開いて俺たちが入ると机に座っていた全員が立ち上がった。
結構な人数なので俺は焦ってしまったが、マリーお嬢様は華麗な
カーテシーで応えている。流石貴族だ。
フルオロ伯爵が合図すると全員が一斉に着席して注目してくる。
俺を見てる訳じゃないのは理解してるけど、目線をどこにやれば良いのか
困ってしまう。
「さて、マリー。私たちの作戦を混乱させた言い訳を聞こう」
「理由、じゃなく言い訳?面白い事を言うのね。私は辺境伯代理なのよ」
「名目上の指揮権が君にある事は確かだが、こんな事をしてはいけない。
指揮系統が乱れたら勝てるものも勝てない」
「指揮系統の統一については完全に同意いたしますわ。
でも間違っている事を指摘して臨機応変に動くのは良いんでしょ?」
「それを禁止していないが程度というものがある。お前がやった事の結果を
みろ。町を守る傭兵が出撃すると騒いでるんだぞ」
フルオロ伯爵、マリーお嬢様に対する呼び方が変わってる。
かなりお怒りモードだ。
「町に籠る、などという作戦が間違っているから正しただけです。
辺境伯代理として命じます。動けない領民を見捨てる事は断じて許しません」
「馬鹿な事を。鉄壁の守りで敵を疲弊させ援軍を得て殲滅する。
何代にも渡って考えられた最も安全確実な方法だ。
これより良い手はない」
「その方法でも勝つでしょうね。でも領民を見捨てる事になります。
見捨てられた人々、地方はどれ程悲しむでしょうか。
それは私の領地領民であり、私の体の一部です。
命を助けるために体の一部を切る事がある事は知っています。
でも最初からそれしか無いと決めつけるのは愚かで傲慢な事です」
「マリー。君の心情はわかった。領民を大切に思っている事も知っている。
でも君は軍事経験がない、私達に任せて欲しい」
「任せますわ。でも今の作戦って変だと思うの。折角急いで来てくれた
軽騎兵を町に入れて籠るって絶対変だわ。
私の作戦を聞いてから判断して」
「…マリー。そうだな。常に変化せよと言ったのは私だ。
作戦の説明をしてみろ。私と、ここに居る警備隊の隊長達を
納得させたら考えてやる」
「それでも考えてやるなのね。いいわ。よく聞いて…」
マリーお嬢様は黒板に図や数字を書きながら説明を始めた。
絵が上手い、というのが最初の感想だった。
ついでに説明も上手い。最初ざわついていた隊長達が静まり
真剣に聞き出した。メモをとり、質問がとぶ。
「現地の地形をどうして詳しく知っているのですか」
「行った時、地元の方とお話したの。あちこち連れて行ってもらって
どんな所か聞くのとっても楽しみなの」
「なるほど。作戦計画としては素晴らしいと思います。
しかし…」
「しかし、何なの」
「こんな作戦、採用できる訳がないだろう」
フルオロ伯爵が声を荒げた。
「なるほど作戦としては見事だ。だが指揮官の安全が担保されていない。
そして、この作戦は君が指揮官でないと成立しない。
却下だ却下」
「そんな事。心配しなくても実際に戦うのは私ではありません。
私が斃れても何も問題ありませんわ」
「何を馬鹿な事を」
「フルオロおじ様は自分を基準に物を考え過ぎですわ。
そうね。おじ様が指揮官で軍を率いていて、おじ様が
斃れたら軍は崩壊するかもしれませんわね。
でも私が軍を率いていて戦闘中に斃れても軍は崩壊しないわ。
皆が必ず仇をとってくれる。
おじ様なら最大限利用するでしょ」
「マリー、なんて事を…」
「辺境伯爵家の事なら問題ない。お父様からの譲り状を見た時に
遺言状と分家への譲り状を書いてあるわ。
マンチェス家は残る、マンチェスの町もシャーフラントも残る。
それこそが私の命よ。体なんて無くなっても私は残るの。
お父様とお母様が愛し、私が愛したこの土地、この領民と一緒に
永遠に残るの。
フルオロ伯爵、マンチェス辺境伯代理として命じます。
この町を守護しなさい。
私は編成した部隊を率いて敵を迎え撃ちます。」
『テンプレ、俺ここに居ていいのか。場違い過ぎるんだけど』
静まり返った部屋の中で俺はテンプレに念話した。




